【はじめに】従来からピック病や前頭側頭型痴呆では顕著な食行動の異常が報告されている(Millerら1995,池田ら1996).しかし定量的な栄養学的方法に基づいた報告はみられないため,今回われわれは前頭側頭葉脳変性症(FTLD:fronto-temporal lobar degeneration)患者の食生活を定量的に検討した.
【方法】外来通院中にFTLDと診断された8名(男4・女4,ピック型2・FLD型3・Semantic Dementia3)の在宅患者を対象として,主介護者に食生活についての面接聞き取り調査を実施した.調査には半定量食物摂取頻度調査「実寸法師」および独自に作成した食生活調査票を用いた.調査内容は食品・調理品122品目の過去1年間における摂取頻度と量,発症前(5〜10年前)と現在で比較した摂取頻度と量の変化,食事回数と量の変化,間食や夜食の回数と量の変化,食生活に関する行動の変化,味覚の変化である.個別の栄養状態を把握するために性・年齢・身長・体重・生活活動強度から現在の生活活動状態で標準体重を維持するために必要なエネルギー量および必要栄養素量を個別の目標値として用いた.
【結果】8名のうち5名は発症頃から現在まで間食や夜食の量および回数の増加が認められた.その内容は饅頭・最中類,あんぱん,カステラ・クッキー類,ジュース類,果物類であった.増加の認められなかった3名は発症前から甘い物を好み現在も引き続き和菓子やあんぱん類を頻食し,ジュースや砂糖量の多いコーヒーを飲んでいた.8名のうち必要エネルギー量を満たしていたのは2名で,他の6名は必要量の70〜90%であった.とくに夫が主介護者である3名はエネルギー量が個別目標値の70%台であった.不足する栄養素はビタミンEが8名,カルシウムが6名,炭水化物の摂取不足が5名にみられた.
【考察】間食量が多いにもかかわらずカロリー不足が目立ち,炭水化物も不足していることが明らかになった.甘い物を減らすのではなくほかになにを食べればよいかを助言する必要がある.また夫が自宅で介護している患者にはデイケア・デイサービスでの食事サービスや自宅への配食サービスが必須である. |