第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【UA-12】
ケア
介護力強化病院における転倒事故発生の背景
−事故前歩行能力と痴呆の重症度に着目して−
  

青梅慶友病院  中間浩一
東京学芸大学教育学部  松田 修
   

【はじめに】当院は許可病床数836床の介護力強化病院であり,入院患者の平均年齢が86.5歳,その約80%が痴呆を有している.入院患者が安全で,質の高い生活を送るためにも,転倒などの事故を防ぐことは大変重要である.当院は,病院内における骨折事故防止に対するさまざまな試みを平成8年に開始した.この結果,平成6年には77件であった骨折事故件数が,平成10年には39件に減少した.今回は,平成8年7月〜平成10年12月の期間に発生した277件の事故から,92件の事故(転倒,転落その他で骨折に至ったもの,以下「転倒事故」とする)を,歩行能力と痴呆の重症度に着目して分析し,若干の知見を得たので報告する.
【対象者と方法】平成8年7月〜平成10年12月の期間に転倒事故を起こした事故群(n=92)と,まだ転倒事故を起こしていないが,病棟スタッフやリハビリテーション・スタッフが,日常の行動観察などをとおして,転倒事故を起こすリスクが高いと認識している転倒予備群(n=50)を,歩行能力・痴呆の重症度・事故内容の面から比較・検討した.
【事故前歩行能力と痴呆の重症度の関係】事故群と転倒予備群の事故前能力を比較すると,歩行能力・痴呆の重症度ともに,転倒事故を起こした群のほうが有意に高い得点を示した.この結果,事故群の事故前能力は,歩行能力が高く,かつ痴呆の重症度が重いことが示唆された.この結果に基づいて,歩行能力と痴呆の重症度のどちらが転倒事故の予測においてより重要かを調べるために,これら2つの変数を独立変数とする回帰分析を行った.その結果,転倒事故には歩行能力よりも,痴呆の重症度が大きく影響していた.
【考察】以上の結果から,転倒事故には事故前歩行能力よりも,痴呆の重症度が大きく影響していることがわかった.病院内での転倒事故を予防するためには,入院患者の歩行能力の評価もさることながら,痴呆の重症度を客観的に把握し,チームで個々のケースに応じた転倒事故防止対策を立てることが重要である.

2000/07/06


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