第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【UA-3】
社会的対応
兵庫県老人性痴呆疾患センターの10年間の活動
   

兵庫医科大学精神科神経科  植木昭紀,下出泰子,真城英孝,中島貴也,杉浦 卓
三和千徳,大原一幸,高内 茂,守田嘉男
兵庫医科大学医療社会福祉部  橘高通泰
兵庫県立高齢者脳機能研究センター  三好功峰
     

 平成2年2月1日兵庫医科大学に兵庫県老人性痴呆疾患センター(センター)が開設され10年が経過した.そこで開設から現在までのセンターの活動状況と特徴について報告し,今後の課題について検討を加える.
 平成2年2月1日〜平成11年3月31日の相談は2,824件,年間約500件にのぼることもあったが平成5年以降は年間約200件である.神戸阪神地域の相談が増加し平成5年以降は8割を占めている.紹介経路は直接相談が減少し関係機関からが増加している.各地域の相談機関が増加したことに加えてセンターの機能が関連機関に理解されてきたためと考えられる.相談対象者は75〜84歳が最も多かった.10年間つねに娘と嫁が相談者の半数を占めていた.女性を中心とした介護者への医療福祉サービス情報の提供業務が重要と思われる.相談から鑑別診断に至ったものは588件(20.8%)で年間100件を超えることもあったが,平成5年以降は約50件である.痴呆は521件(88.6%)で,内訳はアルツハイマー型痴呆51.2%,血管性痴呆38.4%,複数の病因による痴呆7.3%,その他の痴呆3.1%であった.痴呆のほかには機能性精神障害(3.7%),せん妄(3.2%),健忘障害(2.7%),非痴呆性神経系疾患(1.8%)があった.疾患の割合は10年間ほぼ同じであったが,軽度痴呆(CDR1)は増え,重度痴呆(CDR3)が減り,MMSEの平均得点は高くなっている.精神科治療を要するものは減少している.精神症状や問題行動のない初期軽症痴呆を診断する機会が増加しているといえる.身体合併症の増加により身体科へ診察を依頼することが増えている.痴呆以外に早急な治療を要する疾患の発見に有用であるといえる.
 痴呆の早期診断を受け,介護者が治療や予後に関する情報を得て介護支援サービスを利用し,精神科の協力のもとに余裕のある適切な介護を可能とすることにセンターは貢献している.今後は早期の確実な診断のための技術の向上に努力するとともに身体合併症対策として身体科との連携を維持する必要がある.また介護支援のためのサービス利用や施設対応が必要に応じ迅速,円滑に行えるようセンターと保健,医療,福祉機関との連携,協力体制をいっそう強化する必要がある.

2000/07/06


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