第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-23】
心理検査
Memorial Delirium Assessment Scale日本語版の
信頼性と妥当性に関する検討
  

東京都多摩老人医療センター精神科  松岡 豊,新垣 浩,田中邦明
東京都精神医学総合研究所社会精神医学研究部門  三宅由子
広島大学医学部神経精神医学教室  佐伯俊成,山脇成人
    

はじめに】Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS;Breitbart W, et al, 1997)は10項目からなる客観的な測度であり,せん妄の重症度を評価するために開発された.各項目は意識障害,見当識障害,短期記憶障害,順唱と逆唱の障害,注意の集中および転換の障害,思考障害,知覚障害,妄想,精神運動抑制・精神運動興奮,睡眠覚醒リズムの障害から構成されている.われわれは原著者から日本語版作成の許可を得たのち,back-translationを経てMDAS日本語版(MDAS-J)を作成し,その信頼性と妥当性の検討を行ったので報告する.
【対象と方法】37例の患者(男性12例,女性25例,平均年齢75.1歳)から有効なデータが得られた.一人の医師がMDAS-Jで評価し,もう一人の医師が同席面接法にてMDAS-J,Delirium Rating Scale(DRS),Mini-Mental State(MMS),clinical global rating of delirium severity(CGR)で評価した.
【結果】16例がDSM-IVのせん妄の診断基準を満たし,他の21例のうち7例が痴呆,10例が気分障害,3例が精神分裂病,1例が転換性障害であった.せん妄患者におけるMDAS-Jの平均点は18.31点で,非せん妄患者の4.29点に比べて有意に高かった.われわれの結果からせん妄と非せん妄を分けるカットオフ値は10点もしくは11点であった.内的整合性の検討では,全体のクロンバックα信頼性係数は0.92,全体と各項目間での単相関係数は0.62〜0.92であり,評価者間信頼性に関しては,各項目の級内相関は0.85〜1.00であった.また一瀬らによるDRS日本語版のクロンバックα信頼性係数は0.94で,全体との単相関係数は0.65〜0.95であった.併存妥当性の検討では,DRSとCGRとの間で有意な相関を確認できたが,MMSとの間では無相関を否定できなかった.
【まとめ】MDAS日本語版は原版と同等の良好な信頼性を有し,わが国のせん妄に対する介入研究において有用な測度であることが示唆された.しかし妥当性に関しては症例数が少なく,十分な結果が得られなかった.今後は多施設での追加研究が必要と考えられた.

2000/07/05


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