第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-22】
心理検査
アルツハイマー型痴呆の記憶障害の検討(1)
−絵カード使用の位置記憶検査の開発−

国立精神・神経センター武蔵病院  高山 豊,小山美恵,宇野正威
国際医療福祉大学言語聴覚障害学科  植田 恵
     

 痴呆の予防と早期治療を可能にするには疾患の早期の症状と病態の把握が必須といえる.本研究はエピソード記憶障害を示す早期のアルツハイマー型痴呆患者において,その記憶障害の構造の検討を健常者と対比して行うものである.この両群の位置記憶の能力を調べるための検査を開発し,単語リスト学習再生検査結果と同時にこれを検討した.さらに痴呆重症度の影響も調べた.
【対象と方法】対象は痴呆疑い群が8例〔平均年齢74歳〕,軽度重症度群は6例〔同74歳〕,中等度重症度群は17例〔同73歳〕.いずれも二次的痴呆をもたらす他の疾患は認められなかった.健常群は46例〔年齢20〜85歳〕である.作成した位置記憶の検査の手順は,(1)既報告の単語リスト学習再生検査で使用する相異なる絵カード10枚を用いてこれを再認させたのち,(2)これらの絵カード一枚を白紙上のA4大の枠内の特定の位置に配置した図版を作成し,各絵カードごとに異なる位置となるように10枚の図版を用意し,これらの図版を順次呈示して各絵カードとその位置の組合せを記憶させる.(3)その後,絵カードのあった位置についてとその位置にあった絵についてとを,それぞれ1/2の選択法で再認させる.(4)5回の試行の結果と,30分後の遅延試行の結果を検討するものである.
【結果】(1)健常者におけるこの位置記憶検査課題の成績は20〜85歳でゆるやかに低下し,60歳以上では個人差も大きくなっていた.(2)位置記憶検査の成績と単語リストの遅延再生成績とはほぼ同一の疾患検出感度と特異性を示した.(3)高齢者では健常人に分類されていても位置記憶検査成績が比較的低い被験者が存在するとともに,痴呆に分類される患者でも位置記憶検査成績が健常者に近い場合がそれぞれ少数例あった.
 まだ少数例での結果なので,これらの結果の意味づけは今後の症例数追加と慎重な検討を必要とするが,この検査は老年痴呆の臨床コースの多様性の検討に有用と考えられる.

2000/07/05


 演題一覧へ戻る