【目的】パーキンソン病(以下,PDと略)では種々の認知機能障害を呈することはよく知られている.最近の認知心理学的研究では,その脳基盤は前頭前野-基底核系ループあるいは中脳-皮質ドパミン系にあるとされる.その中心は前頭前野であり,本疾患の認知機能障害の基盤ともいえる作業記憶の主座が存在する.近年前頭前野皮質のドパミン受容体D1が作業記憶に深く関与していることが報告されている.今回われわれはドパミン系薬剤が本疾患の作業記憶に影響を与えているかについて検討したので報告する.
【対象と方法】対象は痴呆のないPD患者16例と年齢,教育年数をマッチさせた正常対照群7例である.PD群は修正Hoehn & Yahr重症度によって0〜2.5度を早期群,3以上を進行期群とするとそれぞれ8例であった.方法は3群に対して以下の神経心理学的検査を行った.ただし,PD群ではドパミン系薬剤を朝食後の内服2〜3時間後の午前10時から12時までのdrug-on状態と,前日の夕食後の内服を最終とし検査当日の午前12時までの間ドパミン系薬剤の服薬を中止した午前10時から12時までのdrug-off状態の2回検査が行われた.検査の試行順の影響を除くため4例をdrug-on→drug-off,残り4例をdrug-off→drug-onの順でランダムに割りつけし実施した.実施した神経心理検査は,短期記憶スパンとして数唱課題,Corsiのブロックタッピング,作業記憶課題としてdigits rdering task(Cooper, et al.),reading spantask(Just & Carpenteret, et al.),verbal span & arithmetric span(Salthouse),Self-ordered pointing task(Petrides & Milner)である.
【結果】進行期群はブロックタッピングと作業記憶検査のすべてにおいて有意に成績が不良であった.drug-onとdrug-offの比較では早期群は作業記憶課題においてdrug-onの成績が有意に高かったが,進行期群は不変であった.
【考察と結論】本研究の結果,ドパミン系薬剤はパーキンソン病の認知機能に影響していることが明らかになった.早期群で有意に効果的であったのは,投与によって運動機能と認知機能が至適レベルに達するドパミン必要量が同じであるからと考えられた.一方,進行期群は運動機能の至適レベルに達する量が認知機能のそれをはるかに越えて過剰状態になるためむしろ悪影響になった可能性が考えられた. |