第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-20】
神経心理

アルツハイマー型痴呆の初期症状と経過に関する
臨床的研究
  

浜松医科大学精神神経科  星野良一,森 則夫
岡本クリニック  岡本典雄
   

 アルツハイマー型痴呆(以下DAT)は発症の時期が特定できにくく,緩徐に進行するため家族が痴呆に気づいたときにはかなり進行した状態であることが少なくない.DATの初期症状としては記憶障害が重視されてきたが,実際にはそれにさきだって実行機能が障害されていることが少なくない.このようなことからわれわれは痴呆の初期症状としての実行機能の障害に注目し,生活歴のなかでそれまでみられなかった仕事や家事能力の低下,状況判断能力の低下などが記憶障害や痴呆の周辺症状の発現に先行してみられているか否かを家族から詳細に聴取している.今回は約1年間の経過を追跡したDATの症例を対象に,認知機能の衰退や痴呆の進行と実行機能障害の発現時期の関連性を検討した.
 対象は痴呆専門外来を開設している静岡県内のAクリニックを受診し,DATと診断された20例(男性8例,女性12例,平均年齢73.3±4.8歳)である.初診時の痴呆の程度は痴呆の疑い(CDR=0.5)2例,軽度痴呆(CDR=1)18例であった.記憶障害が発現してから受診までの期間は平均1.7±0.9年(0.5-3年)であり,実行機能障害が発現してから受診までの期間は平均3.6±2.1年(0.5-8年)であった.
 初診から約1年経過した時点で,調査対象の痴呆の程度は軽度痴呆9例,中等度痴呆(CDR=2)7例,重度痴呆(CDR=3)4例であった.MMSEの得点は初診時には19.9±3.5であったが,約1年後には15.0±4.9と平均で25%の減退を示していた.MMSE得点の減退率と記憶障害が発現してから受診までの期間に有意な相関が認められなかったが(r=−.03),MMSE得点の減退率と実行機能障害が発現してから受診までの期間には有意な負の相関が認められた(r=−.73,p<0.005).
 本研究の結果から,実行機能障害はDATの初期症状として重要であり,実行機能障害発現から初診までの期間は,その後の臨床経過の予測因子になりうることが示唆された.

2000/07/05


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