第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-19】
神経心理

アルコール離脱せん妄が生じた陳旧性脳梗塞患者の
回復過程における知的機能の変化
  

筑波大学心身障害学系  山中克夫
東京都多摩老人医療センター  松岡 豊,新垣 浩,田中邦明
    

【はじめに】せん妄による認知機能の低下はどのような過程を経て回復するのであろうか.今回,アルコール離脱せん妄が生じた陳旧性脳梗塞患者の回復過程における認知機能の変化について,数種類の知的機能検査を実施し,追跡することができたので報告を行う.
【症例】69歳の男性.X年4月上旬に同居中の実子が入院し,食生活が乱れ,飲酒量が増加した.感冒を患っていたにもかかわらず飲み続け,4月中旬に肺炎へと進行し,呼吸状態が悪化したため,同年4月14日に当院ICUに入院した.抗生剤投与により治療を開始したが,安静を保持できず,精神運動興奮,失見当識,滅裂思考および幻視がみられ,アルコール離脱せん妄と診断された.精神科のコンサルテーション後,向精神薬(ミアンセリン,ジアゼパム,ハロペリドール)が投与され,興奮は治まりつつあったが,一般病棟での加療は困難と判断され,4月21日に精神科に転科・転棟された.入院時は過鎮静傾向を示し,低活動性のせん妄が遷延していたため,投薬を整理してジアゼパムのみとし,断酒,補液(中心静脈栄養),ビタミンB1投与を行った.上記の加療により,精神症状および肺炎は5月13日には食事を開始するほど改善を示した.これ以降,徐々にADLをアップさせて7月上旬に退院した.入院期間中に,知的機能における回復過程について,MMSE,HDS-R,WAIS-R(3検査法を用いた簡易実施版),三宅式記銘力検査,Rey-Osterrieth複雑図形検査を定期的に実施した.その結果,回復過程の前半では,MMSE,HDS-R,WAIS-Rなどの全体的な知的機能のレベル向上がみられた.回復過程の後半では,Rey-Osterrieth複雑図形検査の成績に急激な成績上昇がみられた.
【考察・まとめ】本症例では,(1)覚醒レベルの回復に伴い,さまざまな認知機能が回復したが,とくに注意・短期記憶の回復は遅れた,(2)注意・短期記憶の回復順序は,いわゆる作動記憶モデルの解釈が可能であり,視空間的な記憶(視空間スクラッチパッド)の回復が聴覚言語情報的な記憶(音声的ループ)に比べ早くみられた.

2000/07/05


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