第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-18】
治療

痴呆性疾患の治療中に生じた遅発性アカシジアについて

石川県立高松病院  北村 立,栃本真一,村守史彦,倉田孝一,中村一郎
     

【はじめに】アカシジアは抗精神病薬の副作用として広く知られているが,近年,向精神薬関連遅発性症候群の一型として遅発性アカシジアが注目されている.抗精神病薬は痴呆性疾患に伴う精神症状や行動障害に対しても使用されるが,言語的疎通性の乏しい痴呆性老人においては,アカシジアのような複雑・多彩な臨床像を呈する錐体外路症状は,診断が困難なことが多く,とくに遅発性アカシジアは通常の焦燥性興奮との鑑別が困難で,看過されやすいように思われる.そこでわれわれが経験した痴呆性疾患に伴う遅発性アカシジアの代表的な2例について報告し,若干の考察を加える.
【症例1】58歳,男性,アルツハイマー型痴呆(早発性)
 1998年2月より,出歩き,易怒性が顕著となり,ハロペリドールの投与を開始し,以降漸増.しかし症状は増悪し,98年6月入院となる.入院直後悪性症候群を合併し,薬物を中止.身体状況は10日間で改善したが,静坐不能となり,食事中も片時も座っていられず,診察時も立ったまま足踏みしながら応答していた.抗コリン薬に反応せず,クロナゼパム使用にて約4か月で静坐不能,足踏みは消失した.
【症例2】74歳,女性,アルツハイマー型痴呆(混合型)
 約2年間,老健施設で療養していた.歩行は不可能で,車椅子生活であった.1998年10月より,介護時の抵抗が増強し,ハロペリドールを使用したところ,筋強剛と反復性の叫声(たとえば食事介助中も「ごはん,ごはん」「おしっこ,おしっこ」と叫び続ける)が出現し,99年1月入院となる.反復性の叫声はハロペリドールの中止,抗コリン薬の使用でも著変なく,クロニジン投与にて約2か月で消失した.
【考察】2症例は,静坐不能および筋強剛を伴う内的不穏が,3か月以上の抗精神病薬投与中に出現し,投与中止に反応せず,1か月以上にわたり持続したことから遅発性アカシジアと診断され,従来の知見からクロニジンとクロナゼパムにより治療された.日ごろの臨床から,痴呆性疾患に伴う早発性・遅発性アカシジアは,けっしてまれなものではないと思われ,今後症例を重ねながら,診断・治療技術の向上につとめる必要がある.また今後,介護保険施設等で,他科医師により抗精神病薬が投与される機会が増える可能性があり,この点においても注意を促したい.

2000/07/05


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