【はじめに】塩酸ドネぺジルは本邦発のアルツハイマー型痴呆(DAT)治療薬として平成11年11月に発売された薬物であり,DAT患者やその家族にとり,期待されている.
しかし,海外では発売以来すでにかなりの期間が過ぎているが,本邦ではまだ使用期間が短く,今後未知の副作用が出現する可能性も考えられる.
今回われわれはDAT患者治療のため塩酸ドネぺジルを投与したところ,blepharospasmを主症状とするMeige症候群の出現をみた1例を経験したので報告する.
【症例】66歳,女性
【主訴】もの忘れ,意欲低下
【家族歴,既往歴】特記すべきことなし
【現病歴】元来明るく,活発な性格.専門学校卒業後結婚,主婦兼洋品店経営者として生活していた.子どもはなく,昭和57年夫の死亡後は姪夫婦と同居していた.洋品店経営は止めたが,自宅で和裁の仕事を引き受けていた.
平成10年3月(64歳時)より意欲低下が出現,もの忘れやつじつまの合わない言動も目立ってきた.和裁の仕事もできなくなり,9月には止めた.
平成10年10月20日当院受診,初診時は穏やかな表情であったが,深刻さを欠いていた.神経学的診察で異常はなく,MMSEは10点であった.頭部CTでは軽度のびまん性の萎縮を認め,これらの所見よりDATと診断された.その後,平成11年12月27日より塩酸ドネぺジル3mgを,平成12年1月11日よりは5mgを投与された.その後1月22日より両側のblepharospasmが出現した.同薬による副作用を疑い,2月10日までで投与を中止したところ,これらの症状は2月15日ころから軽減してきた.3月10日にはほぼ消退した.
【考察】今回の症例では塩酸ドネぺジル投与後に症状が出現し,中止後に消退している.このため同薬とMeige症候群出現の因果関係は否定できないと考えられた.同薬によるMeige症候群の出現はいまだ報告されておらず,今後注意すべき副作用と考えられた.またMeige症候群の発現機序を考えるうえでも興味深い症例と思われた. |