第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-16】
治療

Donepezil服用開始後,異常行動の出現をみた
アルツハイマー型痴呆の二症例

神戸大学医学部精神神経科  増元康紀,柿木達也,前田 潔
    

 donepezilがわが国でも臨床使用が可能となった.抄録の時点で3か月が経過している.認知機能に対する臨床効果について一定の評価がなされ,広く処方され始めている.わが国では,さきに臨床使用が始まったアメリカに比較して副作用の点などから少量が使用されている.当初考えられた悪心,嘔吐,食思不振などの消化器関連の副作用はそれほど多くなく,使いやすい薬剤と考えられている.しかしながら当初は予測されなかった,あるいは頻度が少ないと考えられていた副作用を経験するようになった.われわれはdonepezil服用中に異常行動のみられた二症例を経験した.それを紹介してdonepezilとの因果関係について検討した.
【症例1】62歳,男性,アルツハイマー型痴呆
 2〜3年前から仕事上でミスを頻回におかすようになった.1月からdonepezilを当初3mg,以後5mgを服用するようになる.服用開始4週〜6週目くらいから怒りっぽくなる.収集癖があり,散歩に行ってはがらくたを持って帰ってため込んでいたが,それを処分したと言って怒り出す.息子がお金を盗んだと言って,妻を傘でたたくようになった.抗精神病薬を投与してしだいに落ち着いてきた.
【症例2】86歳,男性,アルツハイマー型痴呆
 数年前よりもの忘れが出現した.donepezil3mgの服用を開始して4週間後よりしだいに活動性が亢進し,多弁多動となってきた.不眠も出現し,ある晩全不眠で一晩中興奮し,しゃべり続けることがあった.donepezilを隔日投与に変更することによってしだいに鎮静化し,睡眠障害も軽快していった.
 上記2症例はいずれもdonepezil服用開始後,異常行動の出現をみたものである.少数例で異常行動の内容も異なり,donepezil服用とこれらの異常行動の因果関係は不明である.今後の報告を待って結論がだされる問題であるが,donepezil投与の際に注意をはらうべき現象と考え報告した.

2000/07/05


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