第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-15】
治療

老齢ラットサーカディアンリズムに対する抗うつ剤
および炭酸リチウムの影響
  

久留米大学医学部精神神経科学教室  松永みな子,福山裕夫,辻丸秀策
恵紙英昭,向笠浩貴,前田久雄
   

 近年の高齢化社会のなかで,老年期の感情障害は社会的問題であり,薬物反応とそれらの生理学的機序に対して,若年者との比較検討が臨床上からも必要と思われる.また,長期間の感情障害の治療過程において,病相の頻回化いわゆるRapid Cyclingは,患者のQOLに重大な支障をきたす.Wehrらは,Rapid Cyclingの危険因子として,三環系抗うつ剤の使用,高齢化,女性であることを報告しているが,その機序については不明である.そこで今回,臨床上用いられる三環系抗うつ剤Clomipramineと炭酸リチウムLi2CO3の老齢ラットフリーラン周期に及ぼす影響を検討した.
 実験には,恒温恒湿条件下で飼育されたWistar系雄性ラット(若齢ラット9週齢,老齢ラット60週齢)を用いた.行動リズムの計測には,摂食摂水が可能な側室をもつ回転かごを用い,5分間隔でコンピュータに取り込んだ.恒常暗下で十分なフリーラン周期を確認したのち,若齢ラットと老齢ラットをそれぞれ6群に分けた.投与量はClomipramine7〜8mg/kg,Li2CO340〜50mg/kgを飲料水に加えた.投与期間はすべての群において,4週間ずつ計8週間与えた.フリーラン周期の解析は,χ自乗ペリオドグラム法を用いた.また,ClomipramineとLi2CO3の血中濃度の測定は投与開始前,1日後,2日後,3日後,6日後,12日後,24日後の活動開始前の値を,蛍光法およびHPLCを用いて測定した.統計学的検定には,Wilcoxn's testおよび分散分析(ANOVA)を用い,群間比較にはDunnet testを用いた.
 フリーラン周期は,老齢ラットで24.17hr,若齢ラットで24.56hrと老齢ラットが若齢ラットに比べて短かった.血中濃度は,Clomipramine,Li2CO3単独投与群,併用投与群において,若齢,老齢ラットに差がなかった.Li2CO3は老齢,若齢ラットでフリーラン周期を有意に延長させた.Clomipramineは,老齢,若齢ラットでフリーラン周期を短縮させたが,老齢ラットのほうが周期短縮幅は大きかった.Clomipramineを投与後にLi2CO3を追加投与した群では,Clomipramine単独投与群に比べ老齢,若齢ラットともフリーラン周期は有意に延長した.
 これらの結果から,老齢ラットは若齢ラットに比べて,Clomipramineによる周期短縮作用が強く,Li2CO3がClomipramineによる周期短縮作用を弱めることが推察された.

2000/07/05


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