第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-10】
治療

アルコール離脱せん妄にミアンセリン高用量投与が
有効であった老年期の1症例
  

福島県立医科大学医学部神経精神医学講座  白潟光男,田子久夫,丹羽真一
   

【はじめに】近年アルコール離脱せん妄にミアンセリン高用量投与が行われ効果をあげているという報告が散見される.しかし,せん妄状態を呈した老年期の症例に行ったという報告はわれわれの知るかぎりない.今回われわれは,ハロペリドールで効果がなかった老年期のアルコール離脱せん妄にミアンセリン高用量投与を行い有効であった症例を経験したので報告する.
【症例】66歳,男性
 40年以上毎日4〜5合の日本酒を飲んでいた.66歳時,朝まで酒を飲み就寝したが,昼まえに自宅の玄関で意識を失って倒れているのを発見され内科に入院となった.入院後から嘔吐,発汗,焦燥感を認め,翌日夕方には幻視,場所の失見当も出現したため,アルコール離脱せん妄を疑い内科医の指示でハロペリドールの静注を2日間行うが,せん妄状態は改善しなかった.そのため入院3日目に精神科に依頼となった.これまでの経過とClinical Institute Withdrawal Assessment Scale(CIWA)46点と高値であったことよりアルコール離脱せん妄と診断した.ここまでハロペリドールでせん妄に改善がみられなかったことと,ハロペリドールを使用するようになって歩行時のふらつきが出現し,転倒の危険性がでてきたことから,家族の同意のもと,同日よりミアンセリン90mg/dayの投与を開始した.翌日にはせん妄状態は消失しCIWAも5点まで改善した.その後も同処方でせん妄は出現することはなく,また副作用も認めないため退院となった.
【考察】近年,老年期のせん妄に対してミアンセリンによる改善と副作用がほとんどないことが報告されている.しかし,アルコール離脱せん妄の場合の報告はほとんどない.今回の症例では,ミアンセリン高用量投与で効果発現も早く,副作用も認めずADLの低下をきたすことなく早期の退院に至った.
 この症例だけでミアンセリンの有用性やハロペリドールとミアンセリンの比較を行うことは困難であるが,老年期のアルコール離脱せん妄のせん妄状態にミアンセリンの使用が選択肢のひとつとして考えられることが示唆された.

2000/07/05


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