第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TB-9】
治療

選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンがパーキンソニズムおよび精神症状に著効した進行性核上性麻痺が疑われた1例
  

島根医科大学精神医学講座  宮岡 剛,妹尾晴夫,飯島正明
稲垣卓司,堀口 淳
   

 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)はパーキンソニズム,核上性眼球運動障害,項部ジストニア,仮性球麻痺および痴呆を主徴とする変性疾患である.病理学的,生化学的,そして近年ではPETを用いた研究などにより,その病態が徐々に明らかとなり,複数の神経伝達物質の異常が示唆されているが,その治療法はいまだ確立していない.また,PSPではしばしば幻覚や妄想,精神運動興奮,抑うつなどの精神症状を呈することも報告されているが,本症の精神神経症状にも薬物療法が無効なことが多く,精神症状が改善したという報告はきわめてまれである.今回われわれは選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンにより,上肢の固縮,項部ジストニア,顔面表情,無動,歩行障害および抑うつ症状の改善を認めたPSPが強く疑われた1例を経験した.興味ある症例と思われるので報告する.症例は68歳女性.抑うつ症状,易転倒性および歩行障害で発症,緩徐に進行し約1年の経過で手指振戦,上肢固縮,仮面様顔貌,無動,仮性球麻痺,頚部の固縮を伴うジストニアが出現した.核上性眼球運動障害は明らかではないものの,smooth pursuitの障害と物が見にくいという自覚症状を認めた.また,頭部MRI画像診断で脳幹および前頭葉に強い大脳萎縮を認め,治療薬として用いたレボドパ/カルビドパに対する反応性の乏しさから,PSP(初期)と診断した.抑うつに対する治療に用いたフルボキサミン投与1週後より,上記の神経症状と精神症状の著しい改善を認めた.本疾患におけるセロトニンを中心とする神経伝達物質とフルボキサミンの効果発現機序について文献的考察も含め考察する.

2000/07/05


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