歯科領域においてもさまざまな精神科的な訴えをもって患者が来院する.今回は,精神医学的アプローチを必要とした65歳以上の高齢患者に対し臨床統計的検討を行ったので報告する.
対象は,65歳以上で,1996年10月より2000年1月までの3年3か月間に他科および他歯科医院より紹介され,精神医学的アプローチを行った男性11例,女性43例の計54例であった.臨床診断としては,舌痛症が14例と最も多く,次いで口腔心身症8例,義歯不適応症7例,顎関節症6例,骨炎の疑い4例,口腔乾燥症3例,味覚異常症,味覚過症が各2例,その他8例であった.心理的背景については,うつ状態またはうつ病が19例35%,神経症が19例35%,混在型が6例,不明が5例,精神分裂病が1例,その他4例であった.治療では,簡易精神療法のみが22例41%と最も多く,簡易精神療法,抗うつ剤および精神安定剤の投与が16例30%,次いで抗うつ剤との併用が6例,器質面へのアプローチが6例などであった.また,精神神経科とのリエゾン療法を行った症例は11例20%であった.転帰としては,精神心理面も含め緩解が31例57%に認められ,うち治癒したと思われるものが11例,中断が10例19%,転院が5例9%,通院中でありながら緩解の認められないものが8例15%であった.治癒したと思われる8例,中断となった7例について,診断名,治療法,精神神経科への紹介の有無について検討したところ,関連は認められなかった.中断となった10例の内訳は,歯科医の不用意な言動による不満,不信,怒りが3例と最も多く,疾病利得を含めた治療意欲の欠如が3例,不明が2例,精神的要因の気づきがあるもの,配遇者の死によるどうしようもない孤独,強度の不安神経症が各1例であった.われわれは,症状発現に対する高齢患者の心理的・社会的背景を理解することが重要であると考えられた. |