第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TA-23】
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塩酸ドネペジルのアルツハイマー病患者脳内
アセチルコリンエステラーゼ活性に及ぼす影響
−PETによる測定−

放射線医学総合研究所・旭神経内科病院  篠遠 仁
放射線医学総合研究所  福士 清,棚田修二,入江俊章
放射線医学総合研究所・第一化学薬品  長塚伸一郎
放射線医学総合研究所・千葉大学医学部神経内科  青墳章代
放射線医学総合研究所・東京女子医科大学脳外科  田中典子
放射線医学総合研究所・順天堂大学医学部メンタルクリニック科  黄田常嘉

 塩酸ドネペジルは,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の可逆的な阻害薬であり,コリン神経シナプスにおけるアセチルコリンの量を増加させることによってコリン神経系機能の賦活をはかる薬物である.アルツハイマー病(AD)患者を対象とした臨床治験において塩酸ドネペジルはAD患者の認知機能を有意に改善することが示されているが,どの程度脳内AChE活性に影響を及ぼしているのかは不明である.われわれはポジトロン断層撮影法(PET)により,AD患者の脳内AChE活性を塩酸ドネペジルの治療前後において測定し,塩酸ドネペジルの脳内AChE活性への影響を測定した.トレーサーとしてアセチルコリンの類似体である[11C]N-メチルピペリジル4-アセテートを用いた.
 対象のAD患者は症例1(53歳女性,罹病期間5年,CDR2,MMSE7点,ADAS-cog. 56点),症例2(58歳女性,罹病期間5年,CDR2,MMSE13点,ADAS-cog. 29点),症例3(70歳女性,罹病期間1年,CDR1,MMSE14点,ADAS-cog. 30点)の3例である.症例1,2は塩酸ドネペジル5mg/日,症例3は3mg/日にて治療し,ADAS-cog. において症例1は49点,症例2は26点,症例3は26点へとそれぞれ中等度改善した.塩酸ドネペジル服用前のPET測定では14例の同年齢の健常成人平均値と比べて大脳皮質のAChE活性は症例1において26%,症例2において13%,症例3において18%低下していた.塩酸ドネペジル服用後には脳全体のAChE活性がさらに低下し,正常平均値と比べると症例1において59%,症例2において43%,症例3において49%低下していた.塩酸ドネペジルの服用によって大脳皮質AChE活性は症例1,2,3においてそれぞれ32%,30%,31%低下したと考えられる.臨床用量の塩酸ドネペジルは約30%大脳皮質AChE活性を低下させて臨床効果を発現していると考えられる.

2000/07/05


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