【目的】老年期うつ病患者における局所脳血流量(rCBF)の低下は以前より報告されているが,その結果はさまざまであり,従来は相対的な血流値の測定での検討が多く,対象症例数も比較的少数であった.今回われわれは,老年期うつ病患者28例において123I-IMP SPECTを用いてrCBFの絶対値を定量し検討を行った.
【対象】65歳以上で発病し,DSM-Wの診断基準で大うつ病エピソードに当てはまる症例28例(平均年齢71.3歳,男性11例,女性17例).CTあるいはMRIにおいて異常を認める症例は除外した.対照は年齢および性別をマッチさせた健常者28例.
【方法】3検出器型装置を使用し,123I-IMP静注と同時に橈骨動脈より持続採血を行いmicrosphere modelを用いたKuhlらのrCBF定量法に準拠した.患者群ではうつ病相期のほぼ極期に測定を行った.関心領域(ROI)は,4×4pixelsの正方形のものを左右対称に計32か所に設定した.次に各ROIを前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉,尾状核頭部,視床,半卵円中心,小脳半球の8つの脳部位に左右それぞれに大別し,老年期うつ病患者群と正常対照者群の2群間においてunpaired t-testを用いて統計学的検定を行った.
【結果・結論】老年期うつ病患者群は対照群に比べ有意に全脳平均血流量が低下していた.rCBFは両側の前頭葉,側頭葉および後頭葉において有意に血流が低下していたが,とくに両側前頭葉および左側側頭葉で有意差が高かった(p<0.02).rCBFの左右差に関してはいずれの脳部位においても有意差は認められなかった.従来の高齢うつ病患者のrCBFに関しての報告では,主として前頭葉,側頭葉などの大脳の吻側部での血流低下が指摘されており,今回のわれわれの結果もそれを支持するが,両側後頭葉においても有意に血流が低下していたことから,老年期うつ病の背景には広範囲の脳の機能的異常が存在するものと推測された.一方,頭頂葉の血流低下を認めなかったことは初期アルツハイマー型痴呆との鑑別に有用である可能性が示唆された. |