【はじめに】近年増加傾向にある痴呆症の予防や早期治療,原因解明のため,痴呆の前段階での臨床像の研究が重要となっている.それに伴い健常高齢者を対象とした認知障害や画像検査についての報告が数多くなされるようになっているが,いまだその結論はさまざまである.
今回われわれは地域在宅者を対象に頭部MRIによる検診を行い,在宅高齢者の認知機能に影響を与える因子について白質病変や脳萎縮の定量的所見や臨床事項等をもとに検討したので報告する.
【対象と方法】1997年から1999年にかけて背振村役場の協力のもとに地域在住者416名を対象に頭部MRI検診を施行した.このなかから60歳未満の者,明らかな頭蓋内病変や脳血管障害の既往を有する者,検査が不十分な者を除外し,254名(男69名,女185名,平均年齢73.9±6.8歳)を対象とした.全例にMRI検査を行い,白質病変の頭蓋内に対する割合(%WML),脳萎縮の割合(%Brain)を定量的に測定した.脳梗塞に関してはその有無と個数を定性的に判定した.また認知機能検査としてMini-Mental State Examination(MMSE)を施行し,このほか臨床事項についても調査した.
【結果および考察】全症例の%WMLと%Brainの平均はそれぞれ5.61±4.44%,82.3±6.4%であり,脳梗塞は54名(21.3%)に認められた.MMSEの平均は26.0±3.3点であった.MMSEが24点以下の者を認知機能低下群としたところ,それらの群は有意に高齢で教育歴が短かった. %WMLの割合は大きく%Brainは有意に小さかった.また脳梗塞の割合も多くみられた.加齢や脳血管障害,脳萎縮が認知機能障害に影響していたが,今後はこれらがどのような割合や機序で認知機能に影響を与えているのかを明らかにする必要がある. |