【目的および方法】健常高齢者の被検者を募集して,1982年より脳画像所見の追跡を開始した.当初の10年間の結果はすでに報告したが,今回は同様の手法を使って前回結果との比較を中心とした検討を行った.検査内容はMRI,ベントン視覚記銘テスト(BVRT),脳波,問診ならびに血圧測定などであった.
【結果】当初のCTスキャンにかえて,1989年からはMRIを用いて追跡を開始した.その時点で健常者の判定基準を満たす対象者は118名であったが,10年後(1999年)に追跡した時点で,転居先不明などにより状況把握ができなかった不明の者(11名)を除外し,今回の分析では107名を研究対象とした.この10年間に残る対象者のうちから痴呆17名(15.9%:男9,女8,平均年齢79.3歳),死亡21名(19.6%:男14,女7,平均年齢77.7歳)が確認された.痴呆の出現率は前回調査とほぼ一致し,死亡は若干下回った.
初回調査時におけるMRI所見をみると,T2HSIは全体の69.5%に認められ,高齢になるほど増加した(p<0.005).T2HSIの出現部位は基底核(61.9%)に多く,視床(39.0%),頭頂葉(37.0%),側頭葉(12.7%),橋(8.5%)の順であった.一方,小梗塞(LI)の出現は全体の24.6%に認められ,この病変も高齢になるほど有意に増加した(p<0.05).出現部位は基底核(31.0%),次いで視床(22.6%)の順に高頻度であった.大部分の小梗塞症例は梗塞巣のほかにもT2HSIを有していた.脳室周囲の高信号域(PVH)は38.1%に認められ,いずれも軽度のものであったが,加齢とともに増加した(p<0.005).鉄沈着によると考えられる基底核の低信号は,(−)40.7%,(±)2.5%,(+)51.7%,(++)5.1%であった.
初回時に得られたMRI所見,年齢,性,BVRTなどの変数を用いた痴呆群の判別分析ではParietalのT2H,Temporalの萎縮,Ponsの萎縮Third Ventricle,PVHの拡大が有意な影響をもつことが認められた. |