【目的】アルツハイマー型痴呆(DAT)は初期から記憶障害が出現する脳の萎縮性疾患である.しかしながら,軽症DATでは画像上脳の萎縮を認めないことが多い.近年,DATは海馬の形態学的変化が初期より現れるという報告もある.そこで,軽症DATにおける海馬と記憶機能の1年間の変化について検討を行った.
【対象および方法】DSM-WによりDATと診断された患者6名(男性3名,女性3名,平均年齢は74.3歳)に対して,頭部MRIと当教室で開発したコンピューター化した記憶機能検査,STM-COMETを初診時と1年後に施行した.対照(CTL)群として,健常高齢者6名(男性1名,女性5名,平均年齢70.7歳)に対して頭部MRIとSTM-COMETを1回施行した.痴呆の重症度はFAST(functional assessment staging)により4と評価された軽症DAT患者を対象とした.海馬の面積および頭蓋内面積は,頭部MRI上OMラインにほぼ垂直な冠状断のT1強調像において,解析対象物のカウント・計測ソフトであるImage-Pro Plusを用いて測定した.STM-COMETは,直後自由再生,遅延自由再生,遅延再認,memory scanning test,memory filtering testの5項目から構成されている.
【結果】海馬の面積を頭蓋内面積で除した値において,DAT群ではCTL群に比較して有意な低値を示した(p<0.01)が,1年後の測定値では初診時に比較して有意な変化を認めなかった.また,STM-COMETの5項目の検査成績においても,DAT群の値がCTL群に比較して,有意な低値を示し,1年後では初診時の検査成績より悪化した.
【考察】軽症DAT群はCTL群に比較して,記憶障害と海馬の萎縮を認めた.さらに,軽症DAT群では1年後に画像上海馬の萎縮の進行を認めなかったが,記憶機能の悪化を認めた.このことは,軽症DAT群では1年間で画像上海馬の形態学的変化を示さないものの,機能面では進行していることが推測される. |