第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TA-7】
症状学

記憶障害を伴う老年期アルコール依存症患者の
精神医学的検討
  

八事病院精神科  奥田正英,佐藤順子,吉田伸一,山田明伸,水谷浩明
  

 老年期のアルコール依存症の患者は,暴言・暴力などの問題行動やアルコール関連の内科疾患のために入院することが多いが,これらのなかにはコルサコフ症候群を示すものや,さらに進行した痴呆状態で長期入院に至っている症例もみられる.今回私たちは老年期のアルコール依存症で入院した患者のうち記憶障害を示した症例について,精神医学的な検討を行ったので報告する.
【対象と方法】対象は,当院へ精神科的あるいは内科的な理由で入院し,神経心理学的な検査で記憶障害を認めた6例(男性5名,女性1名,平均74.2±4.5歳)である.明らかな脳血管障害などの脳器質性障害の既往を認めず,また肝硬変による肝性脳症などの重篤な身体合併症はなかった.精神医学的な検討と,神経心理学的に三宅式記銘検査,Reyの複雑図形の模写と再生,Raven's Coloured Progressive Matrices(RCPM),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Mini-Mental State Examination(MMSE)などを行った.また,頭部CTを実施し画像診断学的な検討を行った.
【結果と考察】アルコール関連の肝障害などの内科合併症のために内科へ入院した症例と,暴言・暴力,被害妄想などの精神症状や問題行動のために精神科へ入院した症例に,臨床症状に差異がみられた.三宅式記銘検査では有関係対語が2,4,5/7であり,無関係対語が0,0,0/7,HDS-Rは17±7(20点以下は4例),MMSEは21±6(23点以下は3例),RCPMは16±7,Reyの複雑図形の模写は30±5,再生は7.3±5.7であった.頭部CTでは両側側頭葉萎縮,側脳室拡大,脳室周囲低吸収域などの画像所見がやや目立った.
 以上のように老年期のアルコール依存症患者にみられる記憶障害では簡易痴呆スケールが比較的軽度でも,画像所見がやや目立つ傾向などの特徴を認めたが,今後さらに症例を増やして精神医学的あるいは神経心理学的な特徴を検討していきたい.

2000/07/05


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