第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【TA-4】
症状学

音楽性幻聴を認めた高齢女性の2例
  

金沢医科大学神経精神医学教室  渡辺健一郎,榎戸芙佐子,中川東夫
岩崎真三,北本福美,地引逸亀
  

 音楽性幻聴は比較的まれな症状と考えられている.しかし,近年では,わずかであるが報告例が増加しており,それらによれば,高齢の女性に多いとされる.今回,われわれも,高齢の女性に出現した音楽性幻聴を経験したので報告する.
【症例1】既往歴:55歳,耳鳴.60歳,めまい.現病歴:70歳時,末期がんの姉を自宅で介護している最中,テレビから流れてきた昔の流行歌が,すっと頭の中で鳴っているようになり,曲目も増えてきたため,当科受診.姉の死亡後,精査加療の目的で,71歳時に当科に2か月ほど入院.検査所見:老人性の感音性難聴を認めた.頭部MRIにて散在性の小梗塞.WAIS-Rでは,FIQ99,VIQ89,PIQ110.治療:クロミプラミン10〜60mgの投与で症状はわずかに軽減.
【症例2】既往歴:70歳,帯状疱疹.75歳,左側真珠腫中耳炎手術.現病歴:76歳で心気抑うつ状態のため当科入院.トラゾドンの投与で心気抑うつ状態は軽減したが,「炭坑節」が右の耳から聞こえるようになった.このため,スルピリドを投与したが無効.クロミプラミンの投与後は,曲目が増え,両耳から聞こえるようになり,さらには,「炭坑節」の節に合わせて,自分の行動を実況するような声が聞こえると訴えるようになった.アニラセタムに変更して,1週間ほどで幻聴は消失.その後,再度,心気的となり,セチプチリンを投与.さらに,1か月後にフルボキサミンを追加したところ,幻聴が再燃し,フルボキサミンの減量により軽減.検査所見:老人性の感音性難聴を認めた.頭部MRIにて散在性の小梗塞および前頭葉の萎縮.WAIS-Rでは,FIQ77,VIQ73,PIQ85.
【まとめ】症例1ではクロミプラミンがいくらか有効であり,症例2では,抗うつ薬の投与と幻聴の出現や悪化が関係していた.このことは,前頭葉の萎縮など症例2のほうが,いくらか器質的要因が強いことと関係しているのかもしれない.

2000/07/05


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