アルツハイマー型老年痴呆の臨床では中核症状とよばれる知能低下そのものよりも,周辺症状とよばれる妄想,攻撃,不安,不眠などの理解と改善が目標となる.そのためには症状を器質的要因,家族環境的要因,性格的要因など多くの側面を合わせて考慮にいれなければならない.今回われわれは,なかでも精神症状と家族機能との関連に注目して調査し,検討した.
【対象】1999年4月から2000年2月までに慈雲堂内科病院痴呆専門外来を訪れた患者であり,中期のアルツハイマー型老年痴呆と診断され,かつ,同居家族が介護している男性14名,女性41名,計55名の患者を対象にした.平均年齢は81.4歳(6.6:かっこ内は標準偏差),MMSE(Mini-Mental State Examination)の平均得点は13.7点(4.0:かっこ内は標準偏差),VBR(Ventricular-Brain Ratio)は0.29(0.04:かっこ内は標準偏差)であった.
【方法】主介護者に調査の目的を説明し,文書で同意を得た.精神症状の評価については,主治医が本人と主介護者との診察,面接を行い,BEHAVE-AD(Behavior Pathology in Alzheimer's Disease Rating Scale)を用いた.家族機能の評価については,主介護者に,患者と主介護者を含む家族についてFAD(Family Assessment Device)を用いて,記入してもらった.精神症状の下位尺度については,BEHAVE-ADを用いて,(1) 妄想優位群(18名):妄想観念の合計点が4点以上,(2)不安優位群(13名):不安および恐怖が3点以上,妄想観念が3点以下,(3)妄想・不安軽症群(24名):妄想観念3点以下,不安および恐怖2点以下の3群に分けた.この3群とFADの7つの下位尺度との間に相関があるかどうかを検討した.統計方法はANOVAを用い,3群間の平均値の差の検定を行った.その結果,5%の危険率では統計的な有意差はみられなかったが,妄想優位群は他の群に比べて,FADの下位分類のうち,「情緒的関与」と「全般的機能」において高い傾向にあった(p<0.1). |