第15回日本老年精神医学会 演題抄録 |
【シンポジウムU;老年期うつ病をめぐって】 |
痴呆の前駆症状としてのうつ病 |
宮崎医科大学精神医学講座 三山吉夫 |
老年期うつ病の病態は多様で,素因,病前性格,加齢に伴う精神老化,器質脳障害などに環境要因が加わった状態がおもな病態となる.痴呆患者がその前駆期にうつ状態を呈することはよく知られており,軽症痴呆とうつ病との鑑別が,まず問題となる.どこまでを内因性,心因性,どこからを器質因性とするかを議論しても結論は得られないが,対応にあたっては大まかな鑑別が要求される.痴呆の前駆期には,うつ状態の頻度が高く(15〜40%),Organic depression, Pseudodepressionともよばれる.痴呆が疑われたり,痴呆の初期で状況の認識がある程度可能な時期には,知能テストの失敗で自尊心が傷つき不機嫌,拒否を伴ううつ状態がみられ,その対応に苦慮することが少なくない.疾病不安からうつ状態となり,「生きていてもしかたがない」「死んだほうがよい」と自殺企図に至ることもある.精神活動の低下が軽症痴呆によるものか軽症うつ病によるものかの鑑別に苦労する.このような状態は,痴呆を起こしている原因疾患が精神機能の代償能力を低下させていることによるが,痴呆を起こす原因疾患と直接結びつけるよりも,心因性,人格反応として理解し,対応も精神療法,向精神薬による治療が効果的である.痴呆が明らかとなり,病態がpsycho-organicからorganicに移行する時期のうつ状態は,感情障害よりも精神活動の低下が主症状となる.無関心・意欲減退は周囲が促せば抵抗なく応じるが放置すると動こうとしない.話しかければぽつりぽつりと答える.表情が乏しく,憂うつかとの質問には肯定するが,悲哀感や深刻感の表出は少なく不機嫌・焦燥感が目立つ.慢性器質脳障害に伴う脳機能代償不全を基盤にした状態で,痴呆の原因となっている脳障害が同時にうつ状態の原因ともなっている.抗うつ剤がかえって痴呆を重症化させることがある.デイケアなどの利用が痴呆の進行抑制や随伴精神症状の改善に効果的である.痴呆性疾患にみられるうつ状態は,痴呆が進行すると消退する傾向がある. |
2000/07/05 |