第15回日本老年精神医学会 演題抄録 |
【シンポジウムI;前頭側頭型痴呆をめぐって】 |
「前頭側頭型痴呆」概念について
|
愛媛大学医学部神経精神医学講座 田邊敬貴 |
19世紀末から20世紀初頭にかけてArnold Pickは脳の前方部の萎縮により特異な精神神経症状を呈した一連の症例報告を行い,1926年大成とSpatzによりピック病という名前が提唱された.しかし,同じ大脳皮質の変性疾患であるアルツハイマー病が病理学的,臨床的に診断基準が確立されていく一方で,ピック病は臨床ならびに病理学的な見解の不一致から,統一された診断基準の確立には至らなかった.近年のアルツハイマー病の診断基準の確立に伴い,それに該当しない特異な変性性痴呆疾患の取り扱いが問題となり,このような状況のなかで,1988年ManchesterのNearyらは「前頭葉型痴呆」Dementia of Frontal Lobe Type(DFT)という概念を提唱した.その後彼らは,ほぼ同時期に非アルツハイマー型前頭葉変性症Frontal Lobe Degeneration of non-Alzheimer type(FLD)という概念を提唱したLundのGustafsonらとともに1994年,萎縮部位により忠実に「前頭側頭型痴呆」Fronto-Temporal Dementia(FTD)という概念をあらたに提唱した.さらにNearyらはFronto-Temporal Lobar Degenerationを臨床的にFTD,Progressive Aphasia,Semantic Dementiaに分類している.一方ではMesulamらのSlowly Progressive Aphasia without DementiaないしPrimary Progressive Aphasiaという用語があり,またCambridgeのHodgesらはNearyらとは多少とも異なる概念でSemantic Dementiaという用語を用いている.このような経緯もあってか,FTDをめぐってはかなり混乱があり,用語そのものが原義から離れて用いられている場合さえある. |
2000/07/05 |