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2011 Vol.22 No.6
 
 
第22巻第6号
(通巻275号)
2011年6月20日
発行
 
 
巻 頭 言
訪問看護の利用は療養者が重度化してからでよいのか
諏訪さゆり 650
特集:高齢者の社会的孤立と精神保健
高齢者の社会的孤立と精神保健 ─ 総論
斎藤正彦 653
高齢者のソーシャルサポート・ネットワーク評価尺度
岩佐 一 660
高齢者の社会的孤立と自殺,自殺予防対策
本橋 豊ほか 672
高齢者の社会的孤立と精神病理
古城慶子 678
高齢者の社会的孤立と社会病理 ─ 孤立死の一般化
高橋紘士 685
高齢の統合失調症患者と家族の社会的孤立
白石弘巳・伊藤千尋 692
認知症患者と家族の社会的孤立 ─ ソーシャルサポートとQOLに関する問題点
佐藤順子・仲秋秀太郎 699
高齢者を孤立させない地域政策
秋山弘子 709
原著論文 
健忘型軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への進行に関する研究
児玉直樹・川瀬康裕 717
認知症高齢者の権利擁護と能力評価
─ 知能検査および認知機能検査の成績と財産行為を含む生活行為の遂行状況との一致度の検討
松田 修・斎藤正彦 723
症例報告 
警告うつ病の一例と,疾患概念に関する考察
岡村 毅ほか 734
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(9)認知症の神経病理学
武田直也ほか 743
文献抄録 
粟田主一 756
書  評 
「福祉用具の危機;認知症高齢者の生活の安全のために」
笠原洋勇 757
学会NEWS
日本老年精神医学会 新特別会員について
平成23年度日本老年精神医学会奨励賞決定
第26回日本老年精神医学会 最優秀ポスター賞,特別企画賞受賞演題
第27回日本老年精神医学会開催のご案内
学会入会案内
編集後記


論文名 高齢者の社会的孤立と精神保健 ─ 総論 ─
著者名 斎藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):653-659,2011
抄録 今後,日本においては,伝統的な地縁,血縁による結びつきが弱い三大都市圏で高齢者が急増する.子ども家族との3世代世帯は減少し,高齢核家族世帯,高齢単身世帯が増大する.高齢者は,資産,家族・社会的ネットワークの有無などで二極化し,資産もなく人的資源にも乏しい高齢者層で精神保健上の問題が顕在化する.こうした層の精神保健を支援するためには,選別主義的な制度で医療,福祉政策の現状を補完していく政策が求められる.
キーワード 高齢社会,孤立,自殺,犯罪,精神保健
論文名 高齢者のソーシャルサポート・ネットワーク評価尺度
著者名 岩佐 一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):660-671,2011
抄録 本稿は,地域高齢者の社会的孤立の指標としてソーシャルサポート・ネットワークの評価方法について論じた.ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポートの概念について述べ,わが国の地域高齢者を対象とした研究において使用できるソーシャルサポート・ネットワークの代表的な評価方法について紹介した.
キーワード 社会的孤立,ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポート,知覚されたサポート,サポート源
論文名 高齢者の社会的孤立と自殺,自殺予防対策
著者名 本橋 豊,金子善博,藤田幸司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):672-677,2011
抄録 高齢者の社会的孤立は生きがいの喪失や孤立死をもたらすことから社会問題化している.また,高齢者の社会的孤立は社会的排除につながり,社会的支援が乏しいなかで,自殺のリスク要因になると考えられる.大震災の被災者の心のケアにおいても自殺予防の観点は重要であり,官民連携による自殺予防活動が必要である.高齢者の社会的孤立に起因する自殺を防ぐためには,包摂的社会政策としての自殺対策を総合的に展開していくことが求められる.
キーワード 高齢者,社会的孤立,社会的包摂,ソーシャル・キャピタル
論文名 高齢者の社会的孤立と精神病理
著者名 古城慶子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):678-684,2011
抄録 高齢者の精神病理学的現象の成立に,病態発生因子(陰性症状)として,あるいは病像賦形因子(陽性症状)として,孤立が重要な役割を演じていることを確認した.非疾病性の精神病理学的現象であれ,疾病性のうつ病,統合失調症,認知症の辺縁型であれ,陽性(周辺)症状の形成に孤立という状況が原因の中心にあることが指摘できた.治療論への架け橋として,陰性(中核)症状と陽性(周辺)症状の発生因の本質的相違を認識(構造分析)することの重要性を改めて論じた.
キーワード elderly,isolation,depression,late-onset paranoid-hallucinatory syndrome,dementia,psychopathology
論文名 高齢者の社会的孤立と社会病理 ─ 孤立死の一般化 ─
著者名 高橋紘士
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):685-691,2011
抄録 孤立死の問題が社会問題として認識される背景には家族的要因,失業等による社会的役割喪失や地域社会との関係性の希薄化等があり,健康を損なってサービス等に結びつかないことなどがある.今後単独世帯等は激増するため,社会的対処が必要とされる.早期発見体制,近隣組織や互助組織の訪問活動など関係づくりの活動,リーチ・アウト型の保健医療福祉サービスの充実,サービス付き高齢者向け住宅のような住宅からの配慮も重要となる.
キーワード 社会問題としての孤立死,孤立死リスク,リーチ・アウト型サービス,地域づくり,ともぐらし
論文名 高齢の統合失調症患者と家族の社会的孤立
著者名 白石弘巳,伊藤千尋
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(5):692-698,2011
抄録 中高齢期の統合失調症患者は,日中過ごす場所からのリタイアや,家族の援助が途絶えることで,以前にも増して引きこもりがちな生活を送る可能性が高く,なかには再発に至る事例もあることから,高齢化への移行支援が必要である.中高齢者向けの日中の居場所の確保,「親亡き後」に向けた本人および家族への相談支援をはじめとする支援体制を整備して,早急に開始すべきであることを論じた.
キーワード 社会的孤立,統合失調症,家族,引きこもり,高齢化への移行
論文名 認知症患者と家族の社会的孤立 ─ ソーシャルサポートとQOLに関する問題点 ─
著者名 佐藤順子,仲秋秀太郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):699-708,2011
抄録 介護者を孤立させないためにソーシャルサポートの役割は大きい.主観的なソーシャルサポートは,精神と身体的健康の双方に大きな影響があるサポートの中心である.充実したソーシャルサポートと介護者のQOLの関連は深い.本稿では,まず認知症患者のQOLの測定方法の問題点に言及し,認知症患者の精神症状とQOLとの関係を述べた.次に,主観的なソーシャルサポートと関連した認知症の介護の問題点を概説した.最後に,介護者の孤立感を改善する介入方法を紹介した.認知症の中核症状のみならず,精神症状に関しての適切な介入は患者と介護者の社会的な孤立を改善する意義が大きい.
キーワード QOL,QOL-AD,精神症状,主観的なソーシャルサポート,SSQ,教育的介入
論文名 高齢者を孤立させない地域政策
著者名 秋山弘子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):709-715,2011
抄録 地域政策の最大の課題は人のつながりづくりである.「長寿社会のまちづくり」社会実験には,セカンドライフの就労事業やコミュニティ食堂が盛り込まれている.地域に戻ってきた定年退職者が家から出て人と交わって働く場をまちに沢山つくり,ワークシェアリングによる新たな就労モデルをつくる.地域の顔なじみの人たちが一緒ににぎやかに食事をする「わいわい食堂」はコミュニティのダイニングルームとしてまちづくりの拠点となる.だれも孤立しないまちを目指している.
キーワード 地域政策,まちづくり,人のつながり,多毛作人生,就労
論文名 健忘型軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への進行に関する研究 
著者名 児玉直樹・川瀬康裕
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):717-722,2011
抄録 本研究では,地域に根ざしたクリニックに受診する軽度認知障害(MCI)患者の経過について調査し,MCIからアルツハイマー型認知症への移行状況についてまとめた.対象は,もの忘れを主訴として2006年4月〜2007年3月までに川瀬神経内科クリニックを受診し,Petersenらのamnestic MCIの診断基準を満たし,3年の経過観察を終えた32症例である.全対象者に対して,MMSE,かなひろいテスト,WMS-R,ADAS,SDS,MRI撮影を初診時に実施した.3年の経過により,32人中17人がMCIからアルツハイマー型認知症に移行し,年間の移行率は17.7%であった.また,移行群および非移行群の初診時において,VSRADは移行群で有意に高い値であったが,認知機能検査においては両群の間で有意な差は認められなかった.これらのことから,VSRADはMCIからアルツハイマー型認知症への進行予測として高い予測パラメータであると考えられた.
キーワード 健忘型軽度認知障害,アルツハイマー型認知症,VSRAD,進行予測
論文名 認知症高齢者の権利擁護と能力評価
 ─ 知能検査および認知機能検査の成績と財産行為を含む 生活行為の遂行状況との一致度の検討 ─
著者名 松田 修・斎藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(6):723-733,2011
抄録 本研究は,96人の認知症患者を対象に,知能指数(IQ),MMSE得点,コグニスタット下位検査得点の各成績分類と財産行為を含む各生活行為の遂行状況とがどの程度一致するのか,また,これらの成績分類によって生活行為の遂行状況をどの程度予測できるのかを検討した.成績分類の基準は,IQは89 / 90,MMSE得点は23 / 24,コグニスタットの各下位検査得点は8 / 9とした.これらの成績分類と生活行為の遂行状況とのκ係数を算出した.その結果,IQおよびMMSEの成績分類と財産行為の遂行状況との一致率は低く,IQが90以上の患者の約80%で財産行為の遂行に問題があった.しかしながら,IQが90以上であっても,コグニスタットの見当識の成績分類が障害域だと,財産行為が遂行不可となるリスクが高いことが示唆された.認知症患者の成年後見鑑定における能力評価では,IQやMMSEの成績は正常域であっても,その人には十分な事理弁識能力があるとは限らないことに留意する必要がある.
キーワード 認知症,権利擁護,能力評価,成年後見,精神鑑定
 


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