◆「老年精神医学雑誌」最新刊のご案内◆
 
2011 Vol.22 No.3
 
 
第22巻第3号
(通巻271号)
2011年3月20日
発行
 
 
巻 頭 言
僧侶(禅僧)の寿命
仲村禎夫 254
特集:認知症のリハビリテーション
認知症のリハビリテーション ─ 今後への期待
笠原洋勇 257
認知症を伴う言語・聴覚障害の評価とリハビリテーション
綿森淑子ほか 264
認知症を伴う歩行障害の評価とリハビリテーション
岡村太郎・竹下安希子 272
記憶障害の評価とリハビリテーション
清水 一 280
見当識障害の評価とリハビリテーション
繁信和恵 290
注意障害の評価とリハビリテーション
小西海香ほか 295
ADL障害の評価とリハビリテーション
佐藤眞一・島内 晶 302
原著論文 
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)への医療介入に関する実態調査
中野正剛ほか 313
高齢者の6基本表情に対する認識能力の評価
─ 意味的分類課題と知覚的照合課題による検討
熊田真宙ほか 325
ガランタミン臭化水素酸塩のアルツハイマー型認知症に対する
プラセボ対照二重盲検比較試験
本間 昭ほか 333
症例報告 
ドネペジル塩酸塩に起因する尿失禁に牛車腎気丸が奏効した
アルツハイマー型認知症の1症例
長濱道治ほか 346
連  載 
認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(6)認知症と心理・環境要因
朝田 隆 351
文献抄録 
本間 昭 358
書  評 
「新版 精神保健福祉法講義」
斎藤正彦 359
学会NEWS
東日本大震災で被災された皆様へ/電話相談窓口のお知らせ/義援金のお願いについて ほか
第26回日本老年精神医学会開催のご案内
学会入会案内
バックナンバーのご案内
編集後記


論文名 認知症のリハビリテーション ─ 今後への期待 ─
著者名 笠原洋勇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):257-263,2011
抄録 頭部外傷,脳血管障害のリハビリテーションの経験は,認知リハビリテーションという新しい分野の確立に寄与した.認知症のリハビリテーションは,この成功を背景として実践されたが,その効果については,有効であるとする意見と十分な検証を経ていないとする意見がある.今日,認知症の治療,予防,進行阻止についてさまざまな手法が提唱されているが,どのような有効性があるのか明確にされる必要がある.薬物療法が将来可能となったとしても,認知リハビリテーションを含む非薬物療法のもつ役割は大きいと考えられる.
キーワード 認知リハビリテーション,認知症,神経心理学,認知心理学,非薬物療法
論文名 認知症を伴う言語・聴覚障害の評価とリハビリテーション
著者名 綿森淑子,上杉由美,久保眞清
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):264-271,2011
抄録 認知症を伴う言語・聴覚障害の症状と評価法,およびリハビリテーションについて症例を呈示して具体的に述べた.会話のできない認知症者とかかわる介護者は不安を訴えることが多いといわれる.言語聴覚士がかかわることによって当事者の潜在能力や意思,生活史を引き出し,それをチームで共有することは当事者の「その人らしい」生活を支え,尊厳を高めるうえでも,またケアに当たる人々の介護負担を軽減するうえでもきわめて重要である.
キーワード 認知症,難聴,運動障害性構音障害,失語症,リハビリテーション
論文名 認知症を伴う歩行障害の評価とリハビリテーション
著者名 岡村太郎・竹下安希子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):272-279,2011
抄録 認知症を伴う歩行障害に関する評価とリハビリテーションを考えるうえで,心身機能面だけでなく個人・環境因子,活動・参加等の多面的な要素がかかわる.今回,歩行障害に関連する評価として,アルツハイマー病の重症度の評価を紹介し,基本的能力,活動・参加,認知機能等に関連する評価を提示した.また,臨床でよく使う評価と歩行障害の実際を検討した.さらに,認知症を伴う歩行障害に関するリハビリテーションを紹介する.
キーワード 認知症,アルツハイマー病,歩行障害,評価,リハビリテーション
論文名 記憶障害の評価とリハビリテーション
著者名 清水 一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):280-289,2011
抄録 認知機能の病的退行で最初に気づかれる記憶障害は認知症の中核症状である.認知症に対するリハビリテーションの目的は症状への直接介入よりも,認知機能に障害があるが社会参加や日常的生活を可能な限りその障害がある認知機能も使って追求するための支援をすることである.そのためにも中核症状の記憶障害の特性理解とその機能状態なりに環境との機能的な交流を続けさせる支援技術が必要である.認知情報処理モデルを中心に記憶の捉え方とリハビリテーション介入の概要について論じる.
キーワード 認知情報処理モデル,作動記憶,認知機能水準,潜在記憶,顕在記憶
論文名 見当識障害の評価とリハビリテーション
著者名 繁信和恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):290-294,2011
抄録 見当識障害は認知症の中核症状である.見当識障害の悪化は,認知症高齢者の日常生活活動に混乱を招く.認知症の患者の見当識障害を正確に評価し,それに対する介入やケアが必要である.介入方法のひとつに現実見当識訓練がある.3か月程度の短期間の効果は報告されている.しかし長期的効果は明らかでない.そのため見当識障害がもたらす混乱を少しでも軽減できるように,長期にわたるケアの場面の工夫が必要である.
キーワード 認知症,見当識,見当識障害,現実見当識訓練,リハビリテーション
論文名 注意障害の評価とリハビリテーション
著者名 小西海香,陳 韻如,加藤元一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):295-301,2011
抄録 注意はあらゆる認知機能の基盤をなしている.それゆえに,さまざまな認知機能障害には何らかの注意障害が含まれていることが多い.認知症においても注意力低下の症状が多くみられる.認知リハビリテーションの観点からも,注意障害を機能的側面に分類して評価することは重要である.注意機能に特化した有用な評価法には,標準注意検査法(CAT)がある.注意の認知リハビリテーションにはいくつかのアプローチがあり,主に直接刺激法と呼ばれる手法がよく用いられるが,現在も発展途上の段階である.
キーワード 認知症,注意,認知リハビリテーション,CAT,APT
論文名 ADL障害の評価とリハビリテーション
著者名 佐藤眞一,島内 晶
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):302-311,2011
抄録 認知症患者は中核症状である認知機能障害に加えてADL・IADLの低下が認められる.運動障害によるADL・IADLへの直接的な影響および実行機能障害による間接的影響とリハビリテーションの必要性を論じた.要介護高齢者の多くに認知症が認められることから,厚生労働省の認知症高齢者および障害高齢者の自立度判定基準の組合せ判定によって,要介護度と介護環境の予測が可能であることを示した.また,認知症患者に使用することを前提としたADL・IADL評価法を紹介した.
キーワード 認知症,ADL,IADL,評価,リハビリテーション
論文名 認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)への医療介入に関する実態調査
著者名 中野正剛・宮村季浩・平井茂夫・大澤 誠・川嶋乃里子・川畑信也・高桑光俊・高瀬義昌・田北昌史・楢林洋介・八森 淳・平原佐斗司・池田惠利子・元永拓郎・安田朝子 ・木之下 徹・朝田 隆・池田 学・小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):313-324,2011
抄録 【目的】BPSDは,認知症のケアや医療のうえでの大きな問題となることが多い.今回,BPSDの実態を明らかにする目的で調査を行った.【対象および方法】在宅でのBPSD医療に積極的に取り組んでいる医療機関15施設を選び,134人の受診者に関して調査票による調査を行った.【結果】対象の80.6%に身体合併症がみられた.認知症の診断別のBPSDでは,レビー小体型認知症で幻覚,睡眠障害,不安の出現頻度が高かった.また,担当医が考えるBPSD悪化関連要因は,前医処方薬の影響が25.4%,身体合併症によるものが12.7%,双方によるものが11.2%であった.【考察】BPSD医療においては,認知症だけでなく,身体疾患と広範囲の領域にわたる薬剤への対応が高度に求められる.BPSD対応の地域資源が不足しているなか,今後,地域資源の有効配置や地域連携を考慮した医療環境整備とその活用が急がれる.
キーワード 認知症,BPSD,BPSD医療,身体合併症
論文名 高齢者の6基本表情に対する認識能力の評価 ─ 意味的分類課題と知覚的照合課題による検討 ─
著者名 熊田真宙・牧 陽子・山口晴保・吉田弘司   
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):325-332,2011
抄録 本研究では,2つの課題条件下で,高齢者と若者の6基本表情(喜び,悲しみ,驚き,怒り,嫌悪,恐怖)に対する表情識別閾を測定した.課題のひとつは,刺激表情を情動を意味する言語ラベルに分類する課題であり(意味的分類課題),もう1つは情動を表す画像と照合する課題であった(知覚的照合課題).実験の結果,喜びを除く5つの表情において有意な加齢効果がみられた.また,加齢効果は知覚的照合課題でもみられたことから,加齢は表情認識の初期段階に影響していると考えられた.2つの課題の成績を比較すると,嫌悪と恐怖では高齢者も若者も意味的分類課題の閾値が高く,知覚された表情の意味づけが困難であることがわかった.また,高齢者では怒りでも同様の傾向がみられた.その一方,高齢者は喜びでは意味的分類のほうが簡単であった.意味に直接アクセスしていることが,喜び表情の認識が老化しないことと関連しているのではないかと考えられた.
キーワード 表情認識,加齢効果,表情識別閾,知覚的照合,意味的分類
論文名 ガランタミン臭化水素酸塩のアルツハイマー型認知症に対するプラセボ対照二重盲検比較試験
著者名 本間 昭・中村 祐・斎藤隆行・敷波幸治・石田 亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):333-345,2011
抄録 ガランタミン臭化水素酸塩は,選択的・競合的かつ可逆的なアセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加えて,ニコチン性アセチルコリン受容体に対するアロステリックな増強作用(allosteric potentiating ligand作用〈APL作用〉)のdual actionにより薬効を示す唯一のアルツハイマー型認知症(AD)治療薬である.海外においてガランタミンは,種々の認知症治療ガイドラインで軽度〜中等度のADに対する標準的治療薬に位置づけられている.そこで,日本人のAD患者580例を対象にガランタミン16 mg/日および24 mg/日のプラセボ対照二重盲検比較試験を実施した.主要評価項目はADAS-J cogおよびCIBIC plus-Jとした.ADAS-J cogにおいて,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日はプラセボよりも有意に優れていた.一方,CIBIC plus-Jでは,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日はプラセボとの間に有意差は認められなかった.CIBIC plus-Jで有効性が認められなかった原因としては,日本国内の介護サービスの普及など複数の要因が影響していると考えられた.安全性評価において,ガランタミンの忍容性は良好であった.
キーワード アルツハイマー型認知症,ガランタミン,プラセボ対照,二重盲検,比較試験
論文名 ドネペジル塩酸塩に起因する尿失禁に牛車腎気丸が奏効したアルツハイマー型認知症の1症例
著者名 長濱道治・宮岡 剛・Liaury Kristian・堀口 淳・福田賢司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,22(3):346-349,2011
抄録 症例は83歳,女性.X-1年6月ころよりもの忘れが目立つようになったが,徘徊や尿失禁,歩行障害などは認めなかった.X年4月当院初診,アルツハイマー型認知症の診断でドネペジル塩酸塩の投与を開始したところ,徐々に活動的となったが,このころから尿失禁がみられ,しだいに増悪した.このため同年10月より牛車腎気丸の投与を開始したところ尿失禁は消失した.認知症治療においては,尿失禁の出現がしばしば問題となる.尿失禁に対しては,抗コリン薬などが使用されるが,認知機能低下の発現や増悪が問題となる本症例の治療経験から,牛車腎気丸は認知機能への影響もなく,尿失禁治療の有力な薬物になりうると考えられた.また,ドネペジル塩酸塩の投与の際には消化器症状以外に泌尿器系副作用にも注意が必要であると考えられた.
キーワード ドネペジル塩酸塩,尿失禁,牛車腎気丸,認知症
 


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