◆「老年精神医学雑誌」最新刊のご案内◆
 
2010 Vol.21 No.3
 
 
第21巻第3号
(通巻256号)
2010年3月20日
発行
 
 
巻 頭 言
だれのための認知症治療であるべきか
小田原俊成 286
特集;認知症と身体疾患
呼吸器疾患と認知症
服部久弥子ほか 289
肝疾患と認知症
金沢秀典 297
循環器疾患と認知症
本郷公英・宗像一雄 303
糖尿病と認知症
櫻井 孝 308
腎疾患と認知症
大平整爾 316
外科的手術と認知症
高野重紹ほか 321
眼科疾患と認知症
平戸孝明 325
整形外科的疾患と認知症
山崎 謙・渥美 敬 329
泌尿器科疾患と認知症
後藤百万 335
口腔疾患と認知症
渡邉 誠 340
症例報告
レビー小体型認知症に伴う行動心理症状(BPSD)に対する
アリピプラゾールの使用経験に基づく私見
久永明人ほか 347
調査報告
一地方都市における地域包括支援センターの認知症関連業務の実態
── とくに,医療資源との連携という観点から
粟田主一ほか 356
基礎講座
老年精神医学研究の進め方と発表の仕方(5)
臨床研究ならびにその投稿・出版に関する倫理的諸問題
深津 亮・藤井 充 365
書  評
「くすりに頼らない認知症治療T,U」
粟田主一 263
学会NEWS
「日本老年精神医学会若手交流プログラム」募集のご案内
375
学会入会案内
382
バックナンバーのご案内
386
編集後記
390




特集

論文名 呼吸器疾患と認知症
著者名 服部久弥子,木田厚瑞,弦間昭彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):289-296,2010
抄録 一般的高齢者の問題として,加齢による呼吸機能の低下,さらに気道防御能および免疫能の低下をきたすことに加え,反復誤嚥を起こしやすい.最近では,慢性呼吸器疾患による低酸素血症から神経変性が生じ,認知症が悪化することが注目されている.認知症を有する高齢者において,合併症としての呼吸器疾患の位置づけは重要である.本稿では,高齢者肺の特徴と各種呼吸器疾患の管理・治療における留意点につき解説する.
キーワード 形態学的変化,生理学的変化,防御機能低下,免疫能低下,嚥下機能低下
論文名 肝疾患と認知症
著者名 金沢秀典
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):297-302,2010
抄録 近年の慢性肝疾患に対する集学的治療の進歩により,その余命は延長し高齢な肝疾患患者が増加している.高齢者認知症と鑑別を要する肝疾患に肝性脳症がある.肝硬変の発症年齢は高齢者認知症の発症年齢より若年である.II度以上の顕性肝性脳症は,羽ばたき振戦,高アンモニア血症,先行誘因の存在などから認知症との鑑別は容易であるが,I度の肝性脳症,昏睡度分類ゼロに該当する潜在性肝性脳症などではその鑑別はむずかしい.また,肝機能がほぼ正常なバイパスタイプの肝性脳症も認知症と誤認されやすいが,高アンモニア血症と大きなシャントの確認から鑑別可能である.その他,アルコール性肝疾患において認知症に類似した症状を示すことがあり注意を要する.
キーワード 認知症,肝硬変,肝性脳症,潜在性肝性脳症,門脈大循環短絡
論文名 循環器疾患と認知症
著者名 本郷公英,宗像一雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):303-307,2010
抄録 わが国では急速に高齢社会が進行しており,高齢者の健康管理および疾患治療が急務になっている.認知症および循環器疾患は,ともに高齢者に高い罹患率を示す疾患で,両疾患間の相互関係を理解することは,認知症および循環器疾患サイドの双方に有益であり,必須の要件でもある.循環器病の代表的疾患である高血圧(低血圧を含む),心不全,心筋梗塞,心房細動およびメタボリックシンドロームと認知症との関係は,横断的および縦断的研究により明らかにされつつあり,循環器疾患の存在が認知機能に悪影響を与えていることが解明されている.しかし,循環器疾患に対する治療が,原疾患を改善するだけのみならず,認知機能についても好影響を与えるかは,一定のコンセンスサスが得られておらず今後の研究が待たれる.
キーワード 認知症,高血圧,心不全,心房細動,メタボリックシンドローム
論文名 糖尿病と認知症
著者名 櫻井 孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):308-315,2010
抄録 認知症は,幾多の血管合併症を切り抜けてきた糖尿病患者が,高齢者になって向き合う最後の合併症である.高齢者糖尿病の脳機能を守るために,高血糖・低血糖の管理,高インスリン血症,脳血管病変を抑制することが重要である.糖尿病に合併する認知症では,代謝性脳症の改善により脳機能が改善する余地があり,積極的な治療介入が必要となる.中壮年期からの認知症のリスクを見据えた糖尿病の治療戦略が求められている.
キーワード アルツハイマー型認知症,血管性認知症,糖尿病,認知症予防
論文名 腎疾患と認知症
著者名 大平整爾
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):316-320,2010
抄録 本論では,(1)腎疾患の増悪に伴って発症する認知症患者と(2)すでに認知症に陥っている腎疾患患者の両者に関連する問題について概観する.前者については,併存症治療の進歩に伴って慢性腎疾患(CKD Stage 5)に至る患者が高齢化してきている.したがって,高齢CKD患者は血管性認知症の危険因子をすでに有しているが,透析療法が動脈硬化を促進する側面を否定できない.(1),(2)のいずれであっても認知症の重症度によっては,当該患者のADL・QOLに鑑みて治療としてどれを選択肢とするかに苦慮する事態が少なくない.
キーワード 高血圧,動脈硬化,保存療法,透析療法,透析の非選択と中止
論文名 外科的手術と認知症
著者名 高野重紹,増戸優貴,伊藤一枝,木村文夫,清水宏明,吉留博之,大塚将之,宮崎 勝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):321-324,2010
抄録 認知症を有する高齢者の外科的手術患者数は増加の一途をたどっている.重要な点は安に手術の適応範囲を狭めることではなく,術前に認知症を正確に評価することにより,適切な治療計画をplanningすることである.高齢者や認知症患者に起きやすいとされる術前・術後の合併症(術後せん妄,呼吸器合併症など)のリスクを最大限に低下させ,早期退院に導くことが非常に大切である.
キーワード 外科手術,認知症,HDS-R,MMSE,術後せん妄
論文名 眼科疾患と認知症
著者名 平戸孝明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):325-328,2010
抄録 眼疾患,とくに白内障の手術治療は認知症ケアにおおいに役立つ.認知症患者では,眼症状の訴えがなく,白内障が高度に進行している場合が多い.とくに過熟白内障にまで至ってしまった例では,水晶体亜脱臼を合併していることがあるので要注意である.記銘力障害が強くとも,コミュニケーションがとれる限りは,手術は通常の患者と変わりなく行える.コミュニケーションがとれない高度な認知症では,全身麻酔手術となる可能性が高い.術後ケアとしては,細菌性眼内炎の防止が最重要である.
キーワード 認知症,白内障手術,過熟白内障,麻酔,術後細菌性眼内炎
論文名 整形外科的疾患と認知症
著者名 山崎 謙,渥美 敬
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):329-334,2010
抄録 整形外科疾患,主に骨折に認知症を伴うことは非常に多くさらに大腿骨近位部骨折ではその後の予後に大きく影響する.その理由として術後の管理やリハビリが困難であり,また骨粗鬆症を伴っていることが大きな問題となる.今回筆者らが治療に難渋した症例を紹介し,また手術や骨粗鬆症の予防の重要性について述べたい.
キーワード 骨粗鬆症,認知症,大腿骨近位部骨折,高齢者
論文名 泌尿器科疾患と認知症
著者名 後藤百万
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):335-339,2010
抄録 ・下部尿路症状は高齢者の約70%にみられるが,不適切な排泄管理は寝たきり状態への移行や認知症悪化の要因となる.
・とくに認知症患者においては,本人のみならず介護者のQOLをも障害し,寝かせきりや介護放棄といった問題への発展も懸念される.
・認知症は下部尿路機能障害の評価・対処を困難にする要因となる.
・高齢者の排尿管理は不十分な現状にあるが,泌尿器科医を中心とした多職種の連携による積極的な対処が望まれる.
キーワード 下部尿路機能障害,下部尿路症状,認知症,QOL,高齢者/td>
論文名 口腔疾患と認知症
著者名 渡邉 誠,坪井明人,三好慶忠,高藤道夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):340-345,2010
抄録 近年,認知症のリスクファクターのひとつに歯の喪失が推定され,脳機能の維持・向上に果たす口腔環境の役割の重要性が認識されている.一方,認知機能の低下は,口腔常在菌叢のコントロールに不可欠な日常の口腔ケア(セルフケア)を困難にし,認知症高齢者の口腔環境を悪化させる.この口腔環境の悪化は,摂食機能の低下のみならず口臭や誤嚥性肺炎を誘発し,認知症高齢者のQOLを著しく低下させる.しかし,介護者の理解と協力なしには,認知症患者の口腔環境を維持することは容易ではない.そこで,進行性疾患である認知症の特性に配慮し,歯科治療と口腔ケアの実施計画を立案することが重要である.
キーワード 顎口腔機能,歯の喪失,口腔乾燥,セルフケア,治療計画
論文名 レビー小体型認知症に伴う行動心理症状(BPSD)に対するアリピプラゾールの使用経験に基づく私見
著者名 久永明人・下田 肇・朝田 隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):347-355,2010
抄録 糖尿病を合併したレビー小体型認知症(DLB)に伴う行動心理症状(BPSD)に対してアリピプラゾールを投与し,BPSDの著明な改善が認められたものの,血糖コントロールの悪化に対して追加治療を要した71歳女性の1症例を経験した.アリピプラゾールは12 mgを維持量として5か月にわたり継続投与したが,錐体外路症状(EPS)の悪化はとくになかった.一方,経過中,HbA1cが7.0%から7.9%に上昇し,血糖コントロールの悪化に対してSU剤(グリベンクラミド)の追加投与を要した.本例の経過から,DLBに伴うBPSDに対して,抗精神病薬の投与を必要とするがMARTAを選択できない場合に,アリピプラゾールを用いることでEPSを悪化させることなく治療できる可能性があるとは考えられた.しかし,BPSDへの投与に限らず,アリピプラゾールをハイ・リスク糖尿病合併例に投与する場合,他の抗精神病薬と同様に,血糖上昇の副作用にも十分な注意をはらいつつ慎重に経過観察しなければならないであろう.
キーワード レビー小体型認知症,糖尿病,行動心理症状(BPSD),アリピプラゾール,血糖コントロール
論文名 一地方都市における地域包括支援センターの認知症関連業務の実態
── とくに,医療資源との連携という観点から ──
著者名 粟田主一・佐野ゆり・福本 恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(3):356-363,2010
抄録 一地方都市において,地域包括支援センターの認知症関連業務の実態を調査した.現状において,すべてのセンターが認知症高齢者やその家族の相談に応需しており,ほとんどのセンターが総合相談,医療機関との連携,介護に関する相談・支援,困難事例・虐待・権利擁護に関する相談・支援,普及啓発,地域関係機関との連携・ネットワークづくりを実践している.しかし,医療機関との連携を「“通常”実施している」と回答できるセンターは半数以下にとどまり,自由記述による回答内容の分析からは,認知症のための「専門医療資源の不足」と「かかりつけ医機能の不十分さ」がその背景にあることが示唆された.地域包括支援センターの機能を強化して認知症のための地域包括ケア体制の構築を進めていくためには,認知症の「鑑別診断」「周辺症状・身体合併症に対する急性期医療」「困難事例の対応」が可能な専門医療資源の整備とともに,「かかりつけ医機能の向上」と「かかりつけ医・専門医の連携促進」を目指した公的事業を推進する必要がある.
キーワード 地域包括支援センター,認知症疾患医療センター,医療資源,困難事例,救急医療
 


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