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2010 Vol.21 No.12
 
 
第21巻第12号
(通巻266号)
2010年12月20日
発行
 
 
巻 頭 言
不知所終 ─ 無縁社会とは無縁に
山田通夫 1308
特集:アルツハイマー病治療薬の現状と期待される治療薬
認知症治療薬の現状
本間 昭 1311
ドネペジル
丸木雄一 1315
メマンチン
北村 伸 1322
ガランタミン
繁田雅弘 1330
リバスチグミン ─ 経皮吸収型製剤への期待
柴田展人・新井平伊 1348
免疫療法
柴田展人・新井平伊 1348
γセクレターゼ
竹尾浩史ほか 1353
セロトニン受容体拮抗薬
武田雅俊 1361
原著論文 
認知症治療病棟入院患者における性差の検討
北村 立ほか 1369
意味性認知症の前駆状態と考えられる2症例
 ─ もの忘れドックによる早期発見と神経心理的特徴
村山憲男ほか 1377
連  載:認知症臨床に役立つ生物学的精神医学(3)
前頭側頭葉変性症と遺伝要因
細川雅人ほか 1387
書  評
認知症ケアの倫理
斎藤正彦 1399
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第21巻(2010年)総目次
編集後記


論文名 認知症治療薬の現状
著者名 本間 昭
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1311-1314,2010
抄録 アルツハイマー病の治療薬は来年以降合計で4つの治療薬が使える予定である.3つはアセチルコリン分解酵素阻害薬であり,1つはNMDA受容体阻害薬である.現時点ではそれぞれの特徴を踏まえた使い分けを明らかにすることは必ずしも明確にはできないが,使用例が増えれば安全性や忍容性の結果も含めてより適応と考えられる症状の特徴を明らかにできる可能性がある.本稿では,現在開発中の薬剤も含めて,抗認知症薬による薬物療法の意義についてふれた.
キーワード アルツハイマー病,抗認知症薬,薬物療法,認知症
論文名 ドネペジル
著者名 丸木雄一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1315-1321,2010
抄録 ドネペジルはわが国では11年前に認可され,当初アルツハイマー型認知症(AD)の中核症状の改善が期待された.使用経験とともに周辺症状,進行抑制効果,QOLの改善,介護者の負担軽減などAD患者におけるさまざまな諸問題にドネペジルが効果を有することが判明し,かつ早期の介入がより有用であることも認められた.3年前から高度AD患者へ10 mgの投与が認可され,ドネペジルはAD患者のフルステージに対応可能となった.
キーワード 中核症状,周辺症状,進行抑制,QOL,介護負担
論文名 メマンチン
著者名 北村 伸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1322-1329,2010
抄録 NMDA受容体阻害薬のメマンチンについて薬理作用と海外での臨床試験成績を述べた.メマンチンは中等度〜高度のアルツハイマー病患者の認知機能,日常生活動作,全般臨床症状などの悪化を抑制し,興奮,易刺激性,そして夜間の異常行動などの行動異常の治療や予防に効果のあることが示されている.問題となるような副作用はなく,安全な薬剤である.アセチルコリンエステラーゼ阻害薬を副作用のために服用できない患者に薬物治療の可能性を与える薬剤でもある.アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンを併用することで悪化をより抑制できることも示されている.
キーワード NMDA受容体,メマンチン,アルツハイマー病
論文名 ガランタミン
著者名 繁田雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1330-1335,2010
抄録 ガランタミンと他のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬との差異を探る視点から先行研究を概観し,他剤との使い分けの手がかりを探った.開発試験の延長投与や長期試験の結果に加え,ドネペジルとの比較試験やコクランライブラリーのメタ分析の結果を紹介しながら,ガランタミンの臨床効果の特徴を言及した.
キーワード 臨床試験,延長投与,長期試験,コクランライブラリー,ドネペジル
論文名 リバスチグミン ─ 経皮吸収型製剤への期待 ─
著者名 中村 祐
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1336-1347,2010
抄録 近年,アルツハイマー型認知症(AD)に対し経皮吸収型製剤による治療オプションの重要性が高まっている.アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬リバスチグミン(rivastigmine)のパッチ剤は,軽度および中等度のADに対する世界初の経皮吸収型製剤として,2007年にアメリカで承認された.リバスチグミンのパッチ剤は,他のAChE阻害薬とは異なりAChEおよびブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)の両方を阻害する作用機序による有効性のベネフィットを有する.また,剤形の特性による安全性,介護者の服薬管理にかかわる負担軽減,さらには患者,介護者双方のQOL向上に寄与する薬剤である.AD治療における課題に新たな解決策をもたらすファーストラインの薬剤として,リバスチグミンのパッチ剤が位置づけられることが期待されている.
キーワード アルツハイマー型認知症,経皮吸収型製剤,貼付剤,rivastigmine,パッチ
論文名 免疫療法
著者名 柴田展人,新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1348-1352,2010
抄録 アミロイド免疫療法は脳組織に沈着したアミロイドを免疫反応により減少させ,その後の神経細胞変性を生じにくくさせる治療である.当初開発されたAN1792ワクチンでは高頻度に髄膜脳炎が合併したが,脳組織からアミロイドの減少が確認されている.現在Bapineuzumabを中心に,より安全なアミロイド免疫療法が第V相臨床試験にはいっている.頭部MRI検査を定期的に実施しながら,血管原性浮腫をコントロールすることが重要な課題である.
キーワード アルツハイマー病,AN1792ワクチン,Bapineuzumab,血管原性浮腫,apolipoprotein E(ApoE)遺伝子型
論文名 γセクレターゼ
著者名 竹尾浩史,富田泰輔,岩坪 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1353-1360,2010
抄録 γセクレターゼはさまざまな膜タンパク質を切断するプロテアーゼであり,アルツハイマー病患者脳に蓄積するアミロイドβタンパク(Aβ)を産生する.非選択的γセクレターゼ阻害剤は第V相臨床試験において病勢の進行を抑制できず,むしろ認知機能を悪化させたため開発が中止された.しかし最近では,Aβ産生を選択的に阻害するγセクレターゼ阻害剤や,毒性に関わるAβ末端を調節するγセクレターゼモジュレーターが開発され,臨床試験が進められている.
キーワード アルツハイマー病,アミロイドβ,γセクレターゼ,プレセニリン,γセクレターゼモジュレーター
論文名 セロトニン受容体拮抗薬
著者名 武田雅俊   
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1361-1367,2010
抄録 アルツハイマー病(AD)のコリン仮説に基づいてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)が開発され,世界においては1996年から,わが国においては1999年以来,広く使用されている.AD脳においてはアセチルコリン(ACh)だけではなく多くの神経伝達物質の異常が認められる.セロトニン(5-HT)系の障害は,認知機能・うつ・不安・攻撃性など多くの精神機能に関与すると考えられており,とくに5-HT6受容体拮抗作用にはADにおける認知機能と行動障害の改善が期待されている.わが国においてもファイザー社(旧ワイス社)によるSAM-531(WAY-262531)のADに対する臨床試験が開始されている.
キーワード アルツハイマー病,セロトニン,セロトニン5-HT6受容体,認知機能,受容体拮抗薬
論文名 認知症治療病棟入院患者における性差の検討
著者名 北村 立・北村真希・田中那々・倉田孝一   
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1369-1376,2010
抄録 わが国では,認知症の介護状況に性差があることはよく知られているが,臨床精神医学的な観点から認知症の性差を検討した報告はほとんどない.筆者らは2006年4月〜2008年3月の2年間に石川県立高松病院の認知症治療病棟へ初回入院した患者292人(男性122人)の性差について検討した.平均年齢は女性82歳で男性79歳より高かった.女性のほうが認知機能,日常生活動作能力は保たれていた.要介護度に差はなかった.女性は幻覚,妄想,うつ,不安といった狭義の精神症状が,男性では攻撃性や日内リズム障害などの行動障害が入院理由になっていた.主介護者は,男性の53%が配偶者なのに対し,女性は8%であった.入院期間に差はなかったが,退院先は女性ではグループホームが多く,男性は一般病院と死亡が多かった.同じ認知症であってもその症状や行動,介護環境の性差が著しく,男女別に支援体制を検討すべきだと考えた.
キーワード 高齢者,認知症,性差,認知症治療病棟,主介護者
論文名 意味性認知症の前駆状態と考えられる2症例 ─ もの忘れドックによる早期発見と神経心理的特徴 ─
著者名 村山憲男・井関栄三・太田一実・藤城弘樹・長嶋紀一・佐藤 潔・新井平伊   
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(12):1377-1384,2010
抄録 もの忘れドックで見いだされた意味性認知症(SD)の前駆状態と考えられる2症例について,臨床症状・神経画像・神経心理の特徴を検討した.2症例に共通して,本人に言葉の出にくさの自覚があり,家族から理解の悪さに気づかれていた.頭部MRIで,左側優位の側頭葉前方部の軽度の萎縮が認められた.脳18F-FDG PETでは,側頭葉前方部と一部前頭葉の糖代謝低下が左側優位に認められた.神経心理検査では,いくつかの相違点はあるものの,2症例に共通してWAB失語症検査などの物品呼称はほぼ全問で正解できていたのに対し,WAIS-Vの群指数である言語理解は年齢相応下限域から境界域の得点であった.WMS-Rや前頭葉機能検査はほぼ年齢相応の結果であった.これらの結果から,SDの早期発見には,形態および機能画像検査とともに,神経心理検査のうちWAIS-Vの群指数である言語理解などが有用であると考えられた.
キーワード 意味性認知症,早期発見,18F-FDG PET,WAIS-V,もの忘れドック
 


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