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2008 Vol.19 No.9



老年精神医学雑誌
第19巻第9号
(通巻234号)
2008年9月20日
発行
巻 頭 言 老年精神医学の昔,今,将来

 

中野倫仁

944


特 集 “治療可能な認知症”― Update
  Treatable dementia概念・再考―その誕生と受容をめぐって
松下正明 947
  甲状腺機能異常など
宮下光弘,天野直二 953
  ビタミン欠乏症
織田雅也,宇高不可思 959
  脳炎
渋谷 譲,川勝 忍 965
  神経梅毒
  野澤宗央ほか 970
  突発性正常圧水頭症
  吉田哲彦ほか 975
  慢性硬膜下血腫
今村 徹 983
薬剤性の認知症様状態
吉田英統ほか 988

原著論文 認知症者のBPSDの解釈モデルについての検討
  横井輝夫,岡村 仁 997

症例報告 性嗜好異常を主訴とし,その後の経過で進行性核上性麻痺と
診断された一例
  品川俊一郎ほか 1009

基礎講座 認知症への非薬物療法
  第17回 芸術療法としての音楽療法の可能性  
 

北本福美,佐々木和佳

1017

文献抄禄

アルツハイマー病のマウスモデルにおいてはアミロイドβ斑が
急速に出現し局所毒性を示す

  深津 亮 1023
 

Dementia;この用語は放棄すべきではないか

  深津 亮 1023

書評

血管性認知症 ―遂行機能と社会適応能力の障害―

  西村敏樹 1025

学会NEWS 第23回日本老年精神医学会を開催して  
  前田 潔 1027

編集後記     1048


特集

論文名 

Treatable dementia概念・再考―― その誕生と受容をめぐって ――
著者名

松下正明

雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):947-952,2008
抄録 

「治療可能な認知症」(treatable dementia,reversible dementia)の概念が生じてきた背景,認知症の定義との関連等について述べた.とくに,1930年代以降,進行麻痺を対象に認知症の一部は治療・回復可能であるという考えは広く精神医学界では承認されており,1987年のDSM-III-Rによる認知症の定義をひとつの区切りとして,1980年代後半以降は,認知症が治療・回復可能かどうかの問題はすでに解決済みとされ,むしろ「治療可能な認知症」を呈する疾患にはどのようなものがあるのかという観点に重きがおかれてきた.その背景となる疾患を早期に発見して認知症の治療につなげることが臨床的には重要であるからである.

キーワード  治療可能な認知症,回復可能な認知症,進行麻痺,DSM-III-R定義

論文名 

甲状腺機能異常など

著者名 

宮下光弘,天野直二

雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):953-958,2008
抄録  甲状腺機能低下症による認知機能障害は,注意力や実行機能などの前頭葉機能や記憶機能に目立つ傾向にあり,評価に際しては精神症状の影響を除外することが重要である.認知機能障害は治療によって回復する,回復しないという報告があり,一定の見解をみない.しかしながら,治療による回復の可能性を見いだせることは特筆すべきであり,診察において必ず念頭におき,見逃さないよう十分留意すべきである.
キーワード  甲状腺機能低下症,認知機能障害,認知症,アルツハイマー病

論文名 

ビタミン欠乏症
著者名  織田雅也,宇高不可思
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):959-964,2008
抄録  高齢者においては,特別な器質的疾患がなくても,生理的機能の変化などによってビタミン欠乏を生じることがある.認知症様の病態を生じうるものとして,ビタミンB1(チアミン)欠乏,ナイアシン欠乏,ビタミンB12欠乏が挙げられる.いずれも,神経症候を呈する場合は認知機能障害単独ではなく,他の神経症候や特徴的な全身所見を伴うことのほうが多いが,非定型例では認知機能・精神機能の障害が前景に立つこともありうることを念頭におく必要がある.
キーワード  Wernicke脳症,Korsakoff症候群,ペラグラ,ビタミンB12欠乏

論文名 

脳炎
著者名  渋谷 譲,川勝 忍
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):965-969,2008
抄録  ・脳炎の病因は多様であるが,発症年齢,頻度などから単純ヘルペス脳炎(HSE)と辺縁系脳炎(LE)に焦点をあてる.
・HSEはウイルス性脳炎中最も高頻度でかつ重篤な疾患であるが,MRI,PCRなどにより診断精度は向上している.
・LEは複数の病因からなり,自己免疫の関与するものには比較的予後の良好なものが少なくない.
キーワード  encephalitis,dementia,herpes simplex virus,limbic encephalitis

論文名 

神経梅毒
著者名  野澤宗央,一宮洋介,新井平伊
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):970-974,2008
抄録  認知症をきたす疾患のひとつである神経梅毒は近年減少傾向にあるとされているが,認知機能障害のみならず,幻覚妄想や興奮,錯乱,せん妄などさまざまな精神症状を呈することが知られており,臨床現場において常時鑑別診断が必要となる.治療はペニシリン大量静注療法が推奨されているが治療効果の評価や再治療の必要性の判断などはさまざまな報告があり,一定の見解は得られていない.
キーワード  syphilis,neurosyphilis,dementia paralytica,tabes dorsalis,dementia

論文名 

特発性正常圧水頭症
著者名  吉田哲彦,数井裕光,武田雅俊
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):975-982,2008
抄録  先行疾患のない特発性正常圧水頭症は,高齢者に好発し,類似疾患との鑑別が困難で,適切な手術適応の選択が困難であったが,特徴的な画像所見が明らかとなり,髄液タップテストにて手術の有効性を予測できるようになりつつある.最近,わが国とアメリカにて診療ガイドラインが作成され,特発性正常圧水頭症は治療可能な認知症として注目されている.本稿ではそのガイドラインに沿って,特発性正常圧水頭症の特徴,診断,治療について概説する.
キーワード  特発性正常圧水頭症,髄液シャント術,髄液タップテスト,認知症,歩行障害

論文名 

慢性硬膜下血腫
著者名  今村 徹
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):983-987,2008
抄録  慢性硬膜下血腫は,頭部外傷から数週間〜数か月経過してから,dementiaとの鑑別が必要な認知機能障害が緩徐に出現,進行するため,アルツハイマー病などのdementiaと誤診される危険性をはらんでいる.本稿では,@慢性硬膜下血腫でみられる認知機能障害の中核である注意障害について述べ,A血腫形成までの病態機序を,頭部外傷以降の時間経過とともに述べ,B適切な病歴聴取と認知機能障害の診察が診断に重要であることを強調した.
キーワード  dementia,認知機能障害,注意障害,頭部外傷,硬膜下水腫

論文名 

薬剤性の認知症様状態
著者名  吉田英統,寺田整司,黒田重利
雑誌名 
巻/号/頁/年 
老年精神医学雑誌, 19(9):988-995,2008
抄録  高齢者では加齢による生理機能の変化などから薬剤性の認知機能障害が出現しやすい.原因薬剤は抗不安薬・睡眠薬,抗コリン薬(抗コリン作用のある薬剤),抗うつ薬,抗精神病薬などのほか多岐にわたる.慎重な薬剤の使用,副作用の評価が必要になるが,最近作成された高齢者に対する薬剤処方の基準も薬剤選択の参考になる.
キーワード  drug-induced dementia,drug-induced cognitive impairment,薬剤性認知機能障害,Beers criteria

 

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