「老年社会科学」 Vol.31-4 詳細一覧
原著論文
論文名 地域高齢者における性格特性と高次生活機能低下の関連
著者名

岩佐 一,増井幸恵,権藤恭之,河合千恵子,稲垣宏樹

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):449−457,2010
抄録  地域高齢者における性格特性と高次生活機能低下の関連について,5 年間の縦断調査結果から検討した. 分析対象は,ベースライン調査と5 年後の追跡調査の両方に参加した65 歳以上の地域高齢者716 人( 男性283 人,女性433 人,平均年齢71.9 ± 4.9 歳)とした. 老研式活動能力指標の下位尺度( 手段的自立,知的能動性,社会的役割)による,5 年間の高次生活機能低下の有無( 自立維持・低下)を目的変数とした. 性格特性は「日本版ネオ性格検査( 短縮版)」により測定し説明変数とした. 多重ロジスティック回帰分析を性格特性別に実施したところ,手段的自立の低下には外向性および誠実性が,知的能動性の低下には開放性が,社会的役割の低下には外向性および開放性がそれぞれ負の寄与を示した. 本知見より,外向性の高い高齢者は手段的自立と社会的役割が,開放性の高い高齢者は知的能動性と社会的役割が,誠実性の高い高齢者は手段的自立がそれぞれ維持されやすいことが明らかとなった.
キーワード 地域高齢者,性格特性,性格の5 因子モデル,ネオ性格検査,高次生活機能低下


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論文名 成人子とその親子関係;子世代からみた老親扶養意識を中心に
著者名

杉山佳菜子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):458−469,2010
抄録  平均年齢40.9 歳で介護経験のない既婚者83 人( 男性37 人,女性46 人)の実親と義理の親それぞれとの親子関係について,既婚子側からの親へのサポート提供の実態と扶養意識との関連をみた. その結果,親との関係は,実親,義理の親を問わず,性別やきょうだい構成ではほとんど違いがみられなかった.義理の親との関係は「経済的にやっていけなくなったとき」「寝たきりになったとき」に義理の親に対する扶養意識と関連があった. 一方実親との関係は実親への扶養意識と関連はなかった. 実親への扶養意識について,女性では親の居住地への時間的距離と,男性では出生順位と関連があった.実親との親子関係は全般的扶養意識の「老親自立期待」因子「情緒的支援志向」因子「伝統的扶養志向」因子のうち,「老親自立期待」因子と「情緒的支援志向」因子に関連していた.
キーワード 成人子の老親扶養意識,実親へのサポート,義理の親へのサポート,親の居住地への時間的距離,介護負担感


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論文名 大都市高齢者の社会的孤立と一人暮らしに至る経緯との関連
著者名

斉藤雅茂,冷水 豊,武居幸子,山口麻衣

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):470−480,2010
抄録  本研究では,高齢者の一人暮らしに至る経緯と社会的孤立との関連,および孤立のなかでも長期孤立と短期孤立との関連を分析した.調査は,東京都板橋区の選挙人名簿から一人暮らしと思われる65 歳以上の高齢者3,500 人を対象にした.訪問面接法を用いたところ,面接時点で同居者がいた人を除き,1,391 人の有効回答が得られた.分析には,現在と50 代時の他者との交流頻度を用いて,孤立のなかでも長期孤立と短期孤立を分類した.また,配偶者や子ども等との別居時期についてクラスター分析を行い,高齢者の一人暮らしに至る主要な経緯を5 つに類型化した( 核家族移行型,義親同居型,子どもなし型,配偶者・子早期別居型,未婚型).分析の結果,(1)性別,年齢,就学歴,経済状態,身体的障害の有無を統制したうえでも,「核家族移行型」と比較して,それ以外の経緯はすべて高齢者の社会的孤立に有意な影響を及ぼすこと,(2)いずれの経緯も長期孤立に対してより高いオッズ比を示すこと,とくに,(3)「未婚型」と「子どもなし型」の経緯は,長期孤立と短期孤立のいずれにも高いオッズ比を示すことが確認された.
キーワード 社会的孤立,長期/短期孤立,一人暮らしに至る経緯, ライフコース


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論文名 家族介護者の「アンビバレントな世界」における語りの記述;もう1 つのストーリー構築に向けて
著者名

広瀬美千代

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):481−491,2010
抄録  本研究では夜間介護があるような困難な介護状況においても介護に肯定的な評価をしている介護者の精神的側面を「アンビバレントな世界」とし,その本質に焦点を当て,その世界を本人の視点から記述していくことを目的とした.家族介護者を対象に半構造化面接を実施し,現象学的心理学の視点から質的分析を行った.
 介護者の語りを意味ある単位ごとに分類した結果,「役割規範の受容と介護役割に対する疑念」「夜間に感じる憔悴感と自分自身の納得」「無力な要介護者に対する悲憤と悲哀」「身体的開放感の欲求と社会への奉仕欲求」「要介護者を預けることによる休息感と虚無感や気づかい」が浮かび上がった.これらは「役割アイデンティティ獲得の交渉」「報恩・感謝の実践」「生活充足感の探求」の3 つの基本軸に構造化された.また,これらは「行為を通じて価値を獲得していく過程」ととらえなおすことが可能であると解釈された.
キーワード 家族介護者,アンビバレンス,現象学的心理学,生きられた世界,質的研究


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資料論文
論文名 集会所を利用したミニ・ディサービスが地域在宅高齢者の健康およびQOL に与える影響
著者名

島貫秀樹,梅津梢恵,本田春彦,伊藤常久,河西敏幸,高戸仁郎,荒山直子,坂本 譲,植木章三,芳賀 博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):492−500,2010
抄録  本研究は,地域の集会所を利用したミニ・ディサービスが地域在宅高齢者の健康およびQOL に与える影響について,4 年間の縦断データを基に参加継続者と不参加者との比較によって明らかにすることを目的とした.
 宮城県三本木町に在住する75 歳以上の地域在宅高齢者にアンケート調査を実施した.分析対象者は,初回調査(2000 年)および追跡調査(2003 年)のアンケート完了者において,2000〜2003 年度のミニ・ディサービスに,各年度少なくとも5 回参加した者を「継続参加者(87 人)」,各年度1 回も参加しなかった者を「不参加者(90 人)」として分析した.継続参加による健康およびQOL 指標への影響をみる目的で一般線形モデルを用いて分析を行った.その結果,身体機能の維持・向上に対する効果はみられなかったが,健康度自己評価(p= 0.017),日常生活動作に対する自己効力感(p = 0.085)は,ミニ・ディサービス継続参加者が向上し,不参加者が低下するパターンが示された.地域の集会所を利用したミニ・ディサービスへの継続参加は地域在宅高齢者の主観的健康に影響を与えることが示唆された.
キーワード 地域在宅高齢者,ミニ・ディサービス,介護予防,縦断研究


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特 集 スピリチュアリティ
論文名 老年学におけるスピリチュアリティの理論的研究の歴史と動向
著者名

Masami Takahashi

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):502−508,2010
抄録  スピリチュアリティが流行である.人々がある程度物質的に余裕がでてきたものの,なにか物足りないと感じる虚しさの表れであり,現代日本における「スピリチュアリティの空洞化」の表出ととらえることもできる.老年学やその関連分野ではスピリチュアリティおよびspirituality を科学的概念として扱うには非常にむずかしいと言わざるを得ないが,20 世紀後半から社会科学( とくに心理学)全体の大きな流れを受け,徐々にその概念的研究がなされはじめた.その結果,全米心理学会,全米老年学会,日本心理学会においてスピリチュアリティや宗教に焦点をおいた正式な研究会等が発足した.今後,日本老年社会科学会においても同分野の研究がさかんになっていくと予想されるが,今日の日本の大衆文化の影響や概念研究の出遅れにより,現段階では安易にその理論的定義を強要したりせず,学際的に柔軟な対応をす方向が望ましいのではなかろうか.
キーワード スピリチュアリティの空洞化,宗教,老年学,学際的,理論的研究


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論文名 日本人高齢者における宗教性およびスピリチュアリティに関する実証的研究の可能性を探る
著者名

松島公望

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):509−514,2010
抄録  本稿では,「日本人高齢者における宗教性,スピリチュアリティに関する尺度開発」および「宗教集団を研究することの意味」について検討した.尺度開発に関しては,宗教性とスピリチュアリティとの関係についてはほとんど検討されておらず,両者の共通点や相違点を詳細に検討し,これまでの尺度では看過されてきた側面をすくい上げることが,日本人高齢者に適った尺度開発に必要であることを指摘した.次に,身体的健康,精神的健康との関連について検討し,(1)対象者の問題,(2)宗教的,社会文化な問題,(3)応用研究ばかりに着目することへの問題を取り上げ,日本人高齢者の宗教性およびスピリチュアリティの構成概念,さらには両者の関係について質的にも数量的にも丹念に検討することが,この分野の発展につながっていくことを示唆した.最後に,宗教集団を研究することの意味について検討し,宗教集団の信者を詳細に検討することによって,日本人高齢者の宗教性およびスピリチュアリティの種々の様相がより明らかになることを指摘した.
キーワード 日本人高齢者,宗教性,スピリチュアリティ,尺度開発,宗教集団


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論文名 高齢者看護の観点からみたスピリチュアルケア
著者名

竹田恵子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):515− 521,2010
抄録  本稿では,高齢者看護の観点からスピリチュアルケアについて検討するにあたり,まず,看護職のとらえるスピリチュアルケアの概念およびケア内容について概観した. そして,高齢者のスピリチュアリティの特徴を踏まえて,高齢者へのスピリチュアルケアの視点と高齢者看護におけるスピリチュアルケアのあり方について検討を加えた. その結果,高齢者のスピリチュアリティは老年期の発達課題である“ 統合性” と深くかかわる概念であり,スピリチュアルケアは高齢者が老いにおけるスピリチュアルな作業を行うことを支援することであると考えられた. そして,高齢者看護におけるスピリチュアルケアの実践は,対象者のスピリチュアリティに関心を向け,相手を大切に日々のケアを丁寧に行うことであり,これらを通して,対象者の声を聴き,寄り添うことによって行われることが確認された.
キーワード スピリチュアリティ, スピリチュアルケア,高齢者,看護


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論文名 スピリチュアルケアの本質;死生学の視点から
著者名

藤井美和

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(4):522−528,2010
抄録  スピリチュアルケアとはなにを意味するのか.本稿は,その本質について,スピリチュアリティとスピリチュアルペインの概念を整理したうえで考察を加えたものである.これまでの研究から,スピリチュアリティは人間存在の根源を支える領域であり,生きる意味や苦悩,人生の意味に根拠を与えるもの,またその働きであり,その意味を見いだしていく際に重要となる関係性の概念を含んでいる.またスピリチュアルペインはその意味や関係性が見いだせず,自分自身の存在の根拠が揺り動かされる痛みである.何のために生きるのかという根源的問いかけへの答えはその問いをもつ当人が向き合うものである.ではその痛みをケアすることはできるのだろうか.ケアの本質として挙げられる寄り添いは,寄り添う行為でなく,実は寄り添う者がその価値観・死生観を問われることである.そのような寄り添いのあり方は寄り添う者が自身の限界にぶつかり,限界のさきを人間を超えるものとの関係性に委ねることでもある.その点においてスピリチュアルペインをもつ者と寄り添う者との課題は一致するのである.
キーワード スピリチュアルケア,スピリチュアリティ,スピリチュアルペイン,価値観,死生観


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