「老年社会科学」 Vol.31-3 詳細一覧
原著論文
論文名 特別養護老人ホームの要介護高齢者の看取りケアの実施に関する施設長の判断とその規定要因
著者名

金 貞任,鈴木隆雄,高木安雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):331−341,2009
抄録  本研究では,特別養護老人ホームの施設長を対象に,要介護高齢者の看取りケアの実施について施設長の判断に影響を及ぼす客観的要因と主観的要因に着目して規定要因を明らかにすることを目的とした.使用するデータは,全国特養の施設長4,678 人を無作為抽出し,2007 年8 月に郵送調査法により調査を実施し,有効回答の1,637 票(35.0 %)が分析の対象となった.特養の看取りケアの実施を従属変数とするロジスティック回帰分析の結果,(1)客観的要因について,個室ベッド数の「15 〜 36 床」群と「37 床以上」群のオッズ比にそれぞれ有意な差がみられた.平均要介護度認定では,「3.61 〜 3.80」群のオッズ比に有意な差がみられた.1年間死亡者数の「7 〜 10 人」群と「11 〜 14 人」群のオッズ比にそれぞれ有意な差が みられた.(2)医療体制について,死亡診断書作成を含む医師体制と,24 時間看護体制とのオッズ比にそれぞれ有意な差がみられた.(3)主観的要因について,介護職の看取りケアに対するレベルアップの必要性のオッズ比に有意な差がみられた.施設長の看取りケアに対する役割の認知は,「家族」と「医療機関」群のオッズ比にそれぞれ有意な差があり,看取りケアの実施に対して有意な関連があることが示唆された.
キーワード 特別養護老人ホーム,看取りケア,施設長,要介護高齢者


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論文名 高齢者におけるにおいの主観的評価と客観的評価
著者名

森田りえ,長田久雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):342−349,2009
抄録  本研究の目的は,スティック型嗅覚同定能力検査法により,高齢者と若者の比較を行い,高齢者におけるにおいの主観的評価と客観的評価の特徴を明らかにすることである.研究協力者は,高齢者30 人,若者30 人である.手続きは,同定の得点を求める前に同定できるであろう数を見積の得点として求め,次に,12 種類の「においスティック」を用いて同定の得点を求めた.その後,においを嗅いでいる状況を振返り,同定できたであろう数を振返りの得点として求めた.高齢者と若者との比較の結果,見積は高齢者のほうが高く,同定と振返りは高齢者のほうが低かった.高齢者においては,見積と同定,見積と振返りに差があったが,同定と振返りに差はなかった.以上,高齢者は,嗅ぐ前ではにおいの評価が同定の得点より過大であることが推測され,同定能力の低下がある場合,より危険や支障が生じる可能性があると考えられる.また,生活環境への予防対策とともに,同定能力に対する自覚を促すことは重要な視点であると考えられる.
キーワード においの主観的評価,においの客観的評価,スティック型嗅覚同定能力検査法,高齢者


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論文名 高齢者のシルバー人材センターの退会に関連する要因
著者名

原田 謙,杉澤秀博,柴田 博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):350−358,2009
抄録  本研究は,シルバー人材センターの退会に関連する要因を明らかにすることを目的とした.データは,全国279 センターの現会員と退会者の男女,合計5,553 人から得た.
分析の結果,第一に「仕事仲間」および「発注者側の態度・対応」に関する満足度が高い者ほど,シルバー人材センターを退会する傾向が低かった.一方,「配分金」や「就業体制」に関する満足度は,退会とは有意な関連がみられなかった.第二に,センターで事務職の仕事を希望する者は,その他の仕事を希望する者に比べて退会する傾向が2 倍以上であった.この影響は男性および三大都市圏において顕著であり,センターが受注する仕事と会員が希望する仕事のミスマッチの問題が示唆された.第三に,センター以外のところで就業している日数が多い者ほど,退会する傾向が高かった.この影響は,男性および地方圏において顕著であり,再就職活動の一環としてセンターに関与している高齢者の存在を示唆していた.
キーワード シルバー人材センター,高齢就業者,臨時的・短期的就業,仕事満足度


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論文名 重度要介護高齢者の在宅生活の長期継続に関連する要因
著者名

石附 敬,和気純子,遠藤英俊

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):359−365,2009
抄録  重度要介護高齢者の在宅生活の長期継続を可能にする要因を明らかにするため,愛知県内の居宅介護支援事業所利用者のうち「在宅で長期介護を受けている重度要介護者」(n = 325)と「在宅から施設入所した重度要介護者」(n = 102)の在宅時の状況を比較し,在宅の長期継続の有無を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果「日中の同居者」がいる場合は3.8 倍(p <.001),「家族関係」がよいほうが1.6 倍(p <.05)長期継続の確率を高め,介護者の身体的負担が1 ランク重くなると0.4 倍(p <.001)に確率を低めていた.また,在宅継続への本人の希望が1 ランク高いほど1.4 倍(p <.01),家族の希望が1ランク高いほど2 倍(p <.001),長期継続の確率を高めていた.その他,利用サービスの種類が関連しており,家族や利用サービスを含めた支援状況が在宅生活の長期継続に関連していることが示された.
キーワード 重度要介護者,在宅介護,長期継続,施設入所


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論文名 60 歳以上退職者の生きがい概念の構造 ― 生きがい概念と主観的幸福感の相違―
著者名

今井忠則,長田久雄,西村芳貢

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):366−377,2009
抄録  老年学(含む社会老年学)における生きがい研究は主観的幸福感(Subjective Well-being SWB)により代用されてきた.しかし,「生きがい概念」とSWBの相違はよくわかっていない.本研究の目的は,生きがい概念の構造(仮説)を構築し(研究1),その仮説を検証し(研究2),SWBとの相違点を考察することである.研究1 では,60歳以上退職者を対象に因子構造を探索的に抽出しモデルを構築した.続く研究2 では異なる集団を対象に確認的分析にてモデルの適合を検証した.最後に,先行研究を含めて概念整理を行い,SWB との相違点を考察した.その結果,「生きがい概念」はSWBより広範な概念で,時間性では「未来」の方向に,関係性では「社会的」の方向に広がりをもっているといった相違点が明らかとなった.SWBを単に援用しただけでは,「生きがい概念」の独自の部分が見落とされる恐れがあり,両概念を区別することが今後の研究には不可欠であると結論した.
キーワード 生きがい,主観的幸福感,退職者,因子構造


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資料論文
論文名 後期高齢者の子どもを対象とした調査における回答者の偏りと傾向スコアによるデータ補正
著者名

小林江里香,深谷太郎,菅原育子,秋山弘子,Jersey Liang

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):378−389,2009
抄録  高齢者への家族支援についての理解を深めるには,高齢者自身に加えて子ども側からもデータを得ることが有益である.本研究では,面接調査に回答した77 歳以上の親(n = 823)を介して子ども(n = 2,136)に郵送調査への協力を依頼した調査において,回答した子(n = 685)の属性にどのような偏りがあるかと,回答者の偏りを補正するためのウェイトについて検討した.親から得た子どもの情報を用いてロジスティック回帰分析を行った結果,親の近くに住む子や,きょうだい数が少ない子, 介護者となることが期待されている子ほど回答者となりやすい傾向がみられた.この回答者となる確率を傾向スコアとし,その逆数をウェイトとした.種々のサポートについて,親から支援の提供者として挙げられた子の割合は,子ども調査の回答者では,未回収者を含む子ども全体に比べて高かったが,この差は,データ補正後は小さくなり,ウェイトの有効性が確認された.
キーワード 調査方法,回収率,選択バイアス,ウェイト


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論壇
論文名 外国人介護労働者は何が特別か
著者名

安里 和晃

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):390−396,2009
抄録  本稿では他の受け入れ諸国,とくに台湾の経験や,来日したインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の経験を基に,どのように受け入れ制度を構築すればいいのかについて,移民研究の立場から考えることにしたい.第一に「外国人介護労働者」はどのような労働力特性をもっているのか,あるいはもたされているのか,について検討する.そこでは入国管理制度が「労働者」の立場を大きく規定すること,換言すれば権利の制限が彼ら・彼女らの労働力特性を構築する点を明らかにする.第二にマネジメントの問題である.言語や文化の相違により「外国人労働者」の就労が,さまざまなコンフリクトをもたらすことが容易に予想できる.その際,相 手に既存の制度への完全な適用・同化を求めるのは困難である.受け入れる側のマネジメントのあり方やシステムの変更も必要となるであろう.
キーワード 看護師,介護福祉士候補者,EPA,台湾


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論文名 高齢者犯罪の増加
著者名

浜井 浩一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):397-412,2009
抄録  近時,治安の悪化や凶悪犯罪の増加が叫ばれて久しい.しかし,殺人事件は1950 年代後半から1990 年代にかけて大きく減少し,その後,横ばいが続いている.その大きな要因は,青少年による殺人が大きく減少したためである.社会は少子高齢化に向かっている.ライフコースという観点からみれば,少子高齢化は,犯罪を起こしやすい若年層が減少するため,社会全体の犯罪を抑制する方向に働く.統計を詳細に分析してみると一般的な犯罪は減少傾向にある.しかし,高齢者に目を向けると異なる現象がみられる.高齢者の検挙人員や受刑者が人口比でみても増加している.罪種としては万引きや自転車盗といった軽微な犯罪が中心であるが,蓄えがなく,引受人もいないため実刑となりやすく,刑務所で人生を終える者も少なくない.高齢者による犯罪の背景には社会的孤立や貧困が存在する.高齢者が刑務所で人生を終えることの内容にするためには,福祉と刑事司法の連携が不可欠である.
キーワード 高齢者犯罪,高齢犯罪者,社会的孤立,刑務所,更生


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論文名 フォーマルケアとインフォーマルケアの現状と今後の新たな関係
著者名

冷水  豊

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(3):413−420,2009
抄録  本稿では,筆者らが最近長野県茅野市で行った研究に基づいて,「地域生活の質」を基本的観点として,高齢者に対するFC(Formal Care)とIC(Informal Care)の現状を分析するとともに,両者の今後の新しい関係のあり方について検討した.
  事例調査データの類型分析からは,要介護・虚弱高齢者とその介護家族のサイドからみて,いろいろな未充足ニーズに対してどのようなFC とIC の対応が必要かを指摘した.
  統計調査結果からは,この地域の高齢住民の福祉ボランティア活動が活発で,また今後の活動参加意向もかなり高く,この地域での新たなIC 形成の可能性が大きいこと,そこで,潜在的活動層への働きかけとともに,参加意向に有意な関連があった「近所の人および友人・知人」のネットワークの増強という間接的・長期的な取り組みが重要であることを指摘した.
キーワード フォーマルケア,インフォーマルケア,地域生活の質,高齢者ケア,未充足ニーズ


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