「老年社会科学」 Vol.31-1 詳細一覧

原著論文

論文名

佐賀県の地方都市における高齢者の防災意識と土砂災害リスクの啓発
著者名

北川慶子,宮本英揮

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(1):3−11,2009
抄録

 近年の気候変動の影響により風水害が頻発している.本論は,自然災害に対する高齢者の防災意識およ
び土砂災害リスクに関する研究成果である.佐賀県小城市(人口4.6万人,高齢化率20.9%)に居住する65歳以上の自立生活者を対象に,自然災害に対する防災意識に関する43 項目のアンケート調査を実施した.高齢者は,気象情報や市役所等からの災害情報を気にかける習慣があり,なかでも風害や浸水被害への関心が高い.それは,彼らの防災意識が,過去の風水害の被災体験に強く起因するためと考えられる.人口動態と土砂災害危険箇所の位置関係を調査したところ,中山間地域には土砂災害による孤立リスクを抱える高齢化集落者が多数確認されたものの,高齢者の土砂災害への危機意識は低いことが判明した.そのため,地域生活環境に即した防災対策の拡充に加え,住民の防災意識のさらなる啓発が必要である.

 

論文名

家族介護者に対する在宅での個別教育介入が介護負担感および心理状態へ及ぼす効果
―層化無作為割り付けによる比較対照試験―

著者名

牧迫飛雄馬,阿部 勉,大沼 剛,島田裕之,古名丈人,中村好男

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(1):12-20,2009
抄録  本研究は,訪問によるリハビリテーションを利用する要介護者の家族を対象として,介護方法や介護に関する情報提供を行い,介護者の介護負担感の軽減や心理状態の向上が可能か検討することを目的とした.介入は,要介護者の介護度を層化して,対象者を無作為に対照群と介入群に分類し,介入群に対して個別介入を3か月間実施した.介入の実施は,訪問によるリハビリテーション時に行い,1 回の介入は5分間程度とし,その他のサービスは両群とも継続した.介入後調査を完遂した家族介護者(対照群10人,介入群11人)を分析した結果,介入による介護負担感への効果は認められなかった.一方,介護者の主観的幸福感の指標としたPGC モラール・スケールの得点が,対照群では低下したのに対して,介入群では低下することなく維持されており,有意な交互作用を認めた.この結果は,家族介護者に対する情報提供が,介護者に対する主観的幸福感に良好な影響を与えることを示唆した.

 

論文名

家族介護者の要介護高齢者に対する身体的および心理的虐待の切迫感に関連する要因

著者名

新鞍真理子,荒木晴美,炭谷靖子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(1):21−31,2009
抄録  本研究では,介護保険サービスを利用している要支援高齢者は利用していない者に比べ,身体心理社会的特性にどのような特徴があるかを明らかにする.A 市(人口66,092 人)の全要支援高齢者527 人のうち,過去3 か月間継続してサービスを利用している者293 人,サービスを利用していない者187 人を調査対象とし,ADL,IADL,抑うつ,ソーシャルサポート,行動範囲や意思疎通などを郵送調査にて把握した.分析対象となったサービス利用者は163 人,未利用者は114 人である.サービス利用者は未利用者に比べて,独居高齢者が多く(p =.0006),交通機関を使って外出する者が少なかった(p =.044).以上より,介護保険サービスを利用している要支援者は,独居高齢者が多いこと,交通機関を使って外出していないことが特徴として示された.

資料論文 

 

論文名

都市部シルバー人材センターにおける就業実態
― 性・年齢階級による検討―

著者名

針金まゆみ,石橋智昭,岡 眞人,長田久雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 31(1):32−38,2009
抄録  本研究では,シルバー人材センターの会員が従事している就業の量と内容について性別年齢階級別に比較し,70歳以上の高齢者の就業を促進する方途を探った.A 市シルバー人材センターの会員データ2,987 人を分析対象とし,性別年齢階級別に就業の有無および年間配分金額(就業報酬)の多寡,就業内容を分析した.その結果,男性では75 歳以上で配分金額が少なく,女性では年齢階級による配分金額に差はみられなかった.また,就業内容について従事割合を比較した結果,男女とも年齢階級間で異なっていた.74 歳以下の男性では施設管理が首位であり,75 歳以上の男性では屋外作業が首位であった.女性はどの年齢階級でも屋内作業が首位であったが,年齢階級が高いほど屋外作業への従事割合が高かった.これらの男女の差は,就業開始段階における就業の量の違い,就業内容における強度の違い,就業内容が集団で作業可能かどうかにより生じていることが示唆された.