「老年社会科学」 Vol.30-4 詳細一覧

原著論文

論文名

奄美群島超高齢者の日常からみる「老年的超越」形成意識
― 超高齢者のサクセスフル・エイジングの付加要因 ―
著者名

冨澤公子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):477−488,2009
抄録

 本研究は超高齢者の精神世界に焦点を当て,エイジングのポジティブな発達がもたらす超越的な世界観である「老年的超越」の形成要因を明らかにすることを目的に,奄美群島の超高齢者11 人に半構造化面接調査を実施し,その語りをM − GTA で分析した.
 その結果,「老年的超越」を促進する要因は,日々の営みにおける「目標は100 歳」という生を追求する超高齢者自身の能動的な生活姿勢にあり,それは子どもや近隣の支援環境と生死を体験した戦争から得た知から形成され,生活満足を感じる過程で「自我超越」「執着超越」「宇宙的超越」の3 つの要因からなる「老年的超越」が形成されることが明らかになった.つまり,超高齢者のサクセスフル・エイジングは,「老年的超越」を内蔵したポジティブな生のなかから,中・高年期とは異なる豊かな精神世界を形成していくものではないかと思われる.

資料論文

 

論文名

老人福祉施設における苦情解決システム
―「第三者委員」の役割の検討 ―

著者名

金 高ァ,黒田研二

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):489−497,2009
抄録  本研究は,老人福祉施設の苦情解決状況を把握するとともに,第三者委員の役割を明らかにし,苦情解決機能のいっそうの強化を図る方法を検討することを目的とした.大阪府の老人福祉施設347 施設について分析を行った.苦情解決体制および運営状況に関する項目の度数分布を調べ,苦情の有無別,第三者委員の人数別,1 年間の第三者委員の施設への訪問回数別の比較分析を行った.苦情がない施設では,約4 割近くで第三者委員の活動が行われておらず,苦情解決体制を利用者に周知している施設が少なかった.第三者委員の人数については,単数より複数の第三者委員を設置している施設が,苦情解決により積極的に取り組んでいることが確認された.1 年間の第三者委員の施設への訪問回数では,12 回以上の施設で,活動内容,苦情をくみ取るための工夫においてもより積極的で,第三者委員の設置効果を認めているところが多かった.より効果的なシステム運営のためには,苦情がない施設を目指すのではなく,利用者が苦情をいえること,また利用者の意見を苦情として認識可能な形にすることが必要である.さらに,苦情解決機能を高めるためには,複数の第三者委員の設置および第三者委員の施設への訪問回数を増やすことが重要である.

 

論文名

要支援高齢者における介護保険サービス利用者と未利用者の身体心理社会的特性の比較

著者名

河野あゆみ,津村智惠子,藤田倶子,薮内良造

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):498−507,2009
抄録  本研究では,介護保険サービスを利用している要支援高齢者は利用していない者に比べ,身体心理社会的特性にどのような特徴があるかを明らかにする.A 市(人口66,092 人)の全要支援高齢者527 人のうち,過去3 か月間継続してサービスを利用している者293 人,サービスを利用していない者187 人を調査対象とし,ADL,IADL,抑うつ,ソーシャルサポート,行動範囲や意思疎通などを郵送調査にて把握した.分析対象となったサービス利用者は163 人,未利用者は114 人である.サービス利用者は未利用者に比べて,独居高齢者が多く(p =.0006),交通機関を使って外出する者が少なかった(p =.044).以上より,介護保険サービスを利用している要支援者は,独居高齢者が多いこと,交通機関を使って外出していないことが特徴として示された.

特集 「家庭らしさ」とはなにか

 

論文名

家庭らしさを感じさせる居住環境の しつらい
― 建築学・住居学の観点からみた「家庭的」―

著者名

赤木徹也

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):509−515,2009
抄録  建築学・住居学の分野では,「家庭らしさ」といった抽象的な概念を明確に説明しうるだけの研究知見はいまだ整っていないのが現状である.しかしながら,筆者らによる建築学的取り組みとして,家庭らしさを感じさせる共用空間を創造するために行われたユニットケアを実践する特別養護老人ホームでの調査結果から,以下のことが明らかになった.
 共用空間において家庭らしさを感じさせるためには,なじみ感,生活感,広さ感といった3 つの心理的要因が大きく影響し,その影響度は,広さ感<生活感<なじみ感の順で増加する.そして,この3 つの心理的要因を想起させるためには,適切な面積,不自然物の減少,装飾品・趣味用品の設置,生活用品の設置,家具セットの設置,キッチンセットの設置,家具の設置といった7 つの物理的環境要因が必要であり,その影響度は,家具<キッチンセット<家具セット<生活用品<装飾品・趣味用品<不自然物<面積,の順で増加する.

 

論文名

高齢者にとっての「家庭らしさ」
― 社会学の観点から ―
著者名

安達正嗣

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):516−520,2009
抄録

 本稿は,主として社会学の観点から,高齢者にとっての「家庭らしさ」についてアプローチするもので ある.「家庭」に関する社会学的研究は,これまで家族の関係性や集団性に強く焦点が当てられてきたことによって乏しい現状におかれている.そこで本稿では,家族変動を踏まえて「個としての高齢者」の視点から家族・親族との関係をとらえなおすことによって,現代の高齢者世代による「家庭らしさ」の再構築という考え方を明らかにしている.そして「家庭らしさ」演出という観点から事例を考察するために,最近の小説を挙げて,高齢者にとっての「家庭らしさ」から家族のとらえ方について提言している.

論文名

「家庭的」概念の心理学的再考
― 日本の高齢者にとって「家庭的」の意味するもの ―
著者名

北村世都

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):521−527,2009
抄録

 本稿では「家庭的」概念を心理学の観点から再考するにあたり,概念イメージ研究および人と人との関係性研究の両視点から論じた.概念イメージ研究からは,(1)わが国の「家庭的」概念には欧米よりも人間関係のありかたの要素が強く含まれ,家庭に対し「自分らしさ」よりも「ウチ固有の人間関係」を求めていること,(2)住まいが家庭的であることと,そこを我が家と感じることとは区別されるべきことであり,眼前の高齢者が「住まいを家庭的にしたいかどうか」も含めた,その人のもつ「家庭」イメージを尊重することが重要であることを明らかにした.また関係性研究からは,(1)「家庭的」コミュニケーションには, 見返りを期待しない共同的関係が必要であり,行動レベルで相互の「気遣い(minding)」が重要であること,(2)認知症高齢者へのかかわりにおいては,コミュニケーション(かかわり)自体がもつ原初的な対人的同調に意味があること,(3)高齢者施設においては,「家庭的」人間関係に必要な「ウチ固有の人間関係」の構築に向けた援助が必要であること,の3 点を指摘した.

論文名

看護学の観点からみた家庭の概念
著者名

角田直枝

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):528−533,2009
抄録

 看護学において,家庭にもっとも近接する領域として家族看護学がある.家族形態の変化や高齢化など により,家族看護学への期待は大きいものの,基礎教育においては他の看護学分野に分散している.そこで,看護学における家族へのアプローチを振り返ると,システム理論や発達理論を基にして個々の家族や集合体としての家族を支援してきた.しかし,家庭とは,一般には家族が生活する場所であることから,それは在宅看護の場面から抽出されると考え,そこから看護がとらえる家庭の抽出を試みた.その結果,共有する価値観をもち安心して暮らせる場所を家庭と考え,さらなる論究を期待する.

論文名

家庭らしさをどこに感じるか
― グループホームいくり苑の家庭らしさを感じる環境の検証 ―
著者名

山形 しづ子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 30(4):534−541,2009
抄録

 当グループホームでは立ち上げから7 年間という時間をかけながら,環境改善を心がけてきた.その結 果,入居者の参加活動と自立心が増え,また認知症の周辺症状の軽減や長年の生活習慣が自然とよみがえり,生活の活性につながったと考えられた.一方他者の立場からみたグループホームの家庭らしさを地域密着型サービス外部調査員に行った調査結果では人的環境の重要性が明らかとなった.これらから「家庭的な環境」を築くのは,物理的環境の配慮だけではなく,人的環境を整え,自然環境をうまく生かしていくことが大切であると改めて感じた.そして暮らしを整えていくのは,そこにすごす入居者本人とケアスタッフ,そして家族,地域の人の力が必要であることが理解できた.今後もスタッフ一同でケア意識を統一,また高めあっていきたい.