「老年社会科学」 Vol.29-4 詳細一覧 |
原著論文 |
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論文名 |
「軽度要介護認定」高齢者の要介護度の推移の状況とその要因 | |
著者名 |
和泉京子,阿曽洋子,山本美輪 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):471-484,2008 | |
抄録 |
本研究の目的は,在宅の軽度要介護認定高齢者の要介護度の推移の状況とその要因を明らかにし,介護 予防対策の示唆を得ることである.2004年度の要支援者1,555人と要介護1者1,357人の計2,912人について分析を行った.基本属性,身体・心理・社会的項目について単変量の解析より,1年後の要介護度と有意であった項目について,多重ロジスティック回帰分析を行った.要支援者および要介護1者共に,老研式活動能力指標得点の1点あがるごとのみが悪化を抑制する因子として抽出された.要支援者では,外出頻度の1週間に1回未満,過去1年間の転倒経験あり,うつ傾向,要介護1者では,歩行の介助,排泄の失敗ありが悪化を促進する因子として有意に関連していた. |
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論文名 |
都市部の若年男性におけるエイジズムに関連する要因 |
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著者名 |
原田 謙,杉澤秀博,柴田 博 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):485-492,2008 | |
抄録 | 本研究は,「日本語版Fraboni エイジズム尺度(FSA)短縮版」を用いて,都市部の若年男性におけるエ イジズムに関連する要因を検討することを目的とした.データは,東京都の区市部および千葉県・神奈川県・埼玉県の市部に居住する25 〜 39 歳の男性1,289人から得た.分析の結果,以下のような知見が得られた. (1)親しい高齢親族数が少ない者ほどエイジズムが強かった.しかし,祖父母との同居経験の有無は,エイ ジズムとの有意な関連がみられなかった. (2)加齢に関する知識が乏しい者ほどエイジズムが強く,加齢に関する正しい情報と教育によってエイジズ ムを弱めることができる可能性が示された. (3)生活満足度が低い者ほどエイジズムが強く,日常生活における欲求不満がエイジズムに影響することが 示された. |
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論文名 |
介護結果に対する原因帰属が介護負担感に及ぼす影響 |
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著者名 |
檮木てる子,内藤佳津雄,長嶋紀一 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):493-505,2008 | |
抄録 | 本調査では,介護結果の原因をどのように認知するかという介護結果に対する原因帰属を取り上げ,それが介護負担感に及ぼす影響について検討することを目的とした.調査項目には朝田ら(1994)の問題行動評価票,Zarit介護負担感尺度日本語版の短縮版,およびWeinerの原因帰属理論を参考にして作成した介護結果に対する原因帰属項目を用いた.調査方法は病院または在宅介護支援センターを通して認知症高齢者の家族に質問紙調査への協力を依頼した.分析対象者数は126人であった.原因帰属項目の因子分析を行った結果,成功時および失敗時のいずれの介護結果についても「自分への帰属」「相手への帰属」「状況への帰属」の3因子が抽出された.介護条件を独立変数とする分散分析を行った結果,「自分への帰属」と「相手への帰属」因子に行動障害,要介護度,介護期間,続柄,介護者の自覚的知識の程度のいずれかとの間に有意な効果が認められ,介護条件によって帰属処理の仕方は異なることがうかがえた.介護負担感を従属変数とした重回帰分析を行った結果,介護負担感を高める要因として,成功時の「自分への帰属」と失敗時の「相手への帰属」が示され,介護負担感を軽減させる要因として成功時の「相手への帰属」が示された.このことから,介護結果に対する原因帰属は介護負担感に影響を及ぼすといえる. | |
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論文名 |
ごく軽度アルツハイマー病および軽度認知障害(MCI)における記憶障害と |
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著者名 |
植田 恵,高山 豊,小山美恵,長田久雄 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):506-515,2008 | |
抄録 | 本研究は,Mild Cognitive Impairment(MCI),アルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)の記憶障 害と手段的日常生活活動(Instrumental Activities of Daily Living ; IADL)の低下の特徴の一端を明らかにするため,もの忘れ外来の受診者やその家族が初診時に記載した問診表の内容について分析した.対象は,健常群39人, MCI 群28人,ごく軽度AD群44人,軽度AD群57人.問診表の各項目に「症状あり」と回答した割合を各群間で比較したところ,記憶の障害は,MCI から気づかれやすくその後の重篤化も顕著だが,IADLの低下は,ごく軽度AD以降にしだいに顕在化するという異なる経過を両者はたどる傾向が認められた.認知機能の低下様式とこれらの症状出現との関連,ならびにごく軽度ADやMCIのスクリーニングへの本研究結果の応用についても考察した. | |
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論文名 |
高齢者の社会的ネットワークの経年的変化 |
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著者名 |
斉藤雅茂 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):516-525,2008 | |
抄録 | 本研究では,高齢者の社会的ネットワークの経年的な変化を分析することを目的とした.二次分析には,東京都老人総合研究所とミシガン大学による全国高齢者パネル調査データ(1987,1990,1993年)を使用した.そのうち,追跡調査で欠測となった方も含めて,初回調査に回答した2,200人について分析した.ネットワークの指標には,同居者の人数,親しい友人数,別居子との交流頻度,友人・近隣・親戚との交流頻度を用いた.分析には,潜在成長曲線モデルを適用した.分析の結果,(1)高齢者全体では,同居者の人数は減少傾向にあるが,それ以外のネットワーク指標は加齢に伴って減少する傾向は確認されないこと.(2)高齢者個人の変化は,いずれのネットワークも,ベースライン(wave 1)において交流が多かった人ほど,その後減少しやすい傾向があること,(3)同居者の人数の変化と別居子との交流頻度および友人等との交流頻度の変化の間でのみ代替的な関係があることが示唆された. | |
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論文名 |
高齢者のプロダクティブ・アクティビティに関連する要因 ― 有償労働,家庭内および家庭外無償労働の3 領域における男女別の検討 ― |
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著者名 |
岡本秀明 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):526-538,2008 | |
抄録 |
高齢者のプロダクティブ・アクティビティに関連する要因を検討した.プロダクティブ・アクティビティは,有償労働,家庭内無償労働(2項目:家事,同居家族への世話),家庭外無償労働(3項目:別居家族への支援,友人や近隣への支援,ボランティア)の3領域でとらえた.分析対象者は,大阪市居住高齢者(65 〜 84 歳)610人であった.性との関連をみると,有償労働は男性,家庭内無償労働は女性の活動回数が有意に多かった.活動3 領域それぞれを従属変数としてロジスティック回帰分析を男女別に行った主な結果は以下のとおりである.有償労働をしている者の特性は,年齢が低い,とくに女性では貢献意識の高い者であった.以下同じく,家庭内無償労働は,IADL自立,とくに男性では独居,貢献意識が高い者であった.家庭外無償労働は,貢献意識が高い,とくに男性では,独居ではない,人間関係を広げる志向あり,女性では,IADL自立,親しい友人・仲間数の多い者であった. |
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実践・事例報告 |
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論文名 |
理学療法士による「身近でリハビリ」の介護予防効果 ― 品川区委託介護予防事業 ― |
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著者名 |
奥 壽郎,榎本康子,石原房子,小川憲治,猪股藤彰,小幡かつ子 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):539-545,2008 | |
抄録 |
東京都品川区では介護予防施策として,介護保険特別給付による区独自の介護予防事業である理学療法士による「身近でリハビリ」を開始した.この「身近でリハビリ」は身近な道具を利用して,参加者の自主トレーニングを促すことを特徴とする.今回,「身近でリハビリ」の介護予防効果を,1〜3期までに参加をした91人のうち,1クールである6か月間継続できた,虚弱高齢者71人を対象に検討した.男性25人・女性46人,年齢77.6歳であった.「身近でリハビリ」の開始時と終了時に身体機能,活動性を測定しその変化を解析した.結果は開始時,終了時の順に,握力(kg)は17.0から20.4,開眼片足立ち時間(秒)は9.0 から14.8,ファンクショナルリーチ(cm)は20.2 から26.0,長座位体前屈(cm)は20.3 から24.2,10m 歩行時間(秒)は17.3から15.1,老研式活動能力指標(点)は8.4から9.4となり,すべての項目で有意に向上がみられた.この要因として画一的な集団運動に加え,参加者のニーズに合わせた個別運動を取り入れており,身体機能全般に効果を及ぼしたものと考えられる.このシステムは機器を用いないという点で経済的であり,介護予防には有益であることが示唆された. |
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特集 |
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論文名 |
高齢者の居住移動の推移と特徴 | |
著者名 |
東川 薫 |
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):547-552,2008 | |
抄録 |
最新の全国人口移動調査(国立社会保障・人口問題研究所)によると,一時低下していた高齢者の移動率は再び上昇してきており,1990 年代前半に近い水準にまで回復してきている.その移動理由の面からは,定年退職が増加し,子との同居が減少してきているのが特徴的である. |
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論文名 |
都市部に引越した要支援・要介護高齢者の生活変化と心身の状態 | |
著者名 | 工藤禎子 | |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):553-560,2008 | |
抄録 |
都市部に引越した要支援・要介護高齢者の生活の変化や心身状態を明らかにするために,一地域の引越1年以内の全高齢者731人を対象に質問紙を用いた郵送調査を行った.有効回答を介護認定あり群73人と認定なし群225人に分けて,引越前後の生活の変化,心身の状態,ソーシャルサポートを比較した.その結果,認定あり群は,認定なし群に比べ,年齢が高く,引越を「仕方がなかった」という者が多かった.両群とも,心情として「頑張ろうという気持ち」の者が半数を超え,家族,家族以外からのサポートがある者が多かった.認定あり群は,「周りが分からず外に出にくい」ことに困難を感じ,「家族に気兼ねする」「寂しい・気がめいる」という者が有意に多かった.要支援・要介護高齢者の引越後の対応においては,身辺の介護に加えての精神面への配慮と,本人と家族がよい関係を保てるような家族を単位とした支援が必要と考えられる. |
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論文名 |
高齢転居者の社会的孤立とその予防 ― 高齢転居者への支援プログラムから得たこと ― |
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著者名 | 斎藤 民,甲斐一郎 | |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 29(4):561-566,2008 | |
抄録 |
高齢期の移動率は若年層と比較して低いが,今後増加の可能性がある.高齢転居者の心身の健康度は転居の際の自発性の有無や転居理由により多様だが,社会的孤立は共通のニーズとして指摘されてきた.しかし高齢転居者の社会的孤立を軽減する公的支援は現在ほとんど実施されていない.筆者らはこれまで,大都市郊外において高齢転居者への支援プログラムを開発・実施してきた.その経験と先行研究の知見から,高齢転居者に社会的孤立予防支援を実施するうえでは,(1)心身の健康等ニーズに応じた実施,(2)周知・勧奨方法の工夫,(3)公的機関,地域住民および他の高齢転居者とのかかわりが有効と考えられる.今後の課題として,高齢転居者における適応困難群の特定や,転居のタイプに応じた支援を検討することが重要と考えられる. |
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