「老年社会科学」 Vol.29-3 詳細一覧

原著論文

論文名

特別養護老人ホームで働く職員の終末ケアのとらえ方
―― 終末ケアにおける「よかったこと」「むずかしかったこと」に焦点を当てて――
著者名

小楠範子,萩原久美子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):345-354,2007
抄録

 現在,高齢者が最期を迎える場所は病院に限らず,介護老人福祉施設(以下,施設)などでも終末ケアが行われている.しかし,施設の終末ケアに関する研究はそれほど多くはなく,実際ケアにあたっている職員の直面している問題に焦点を当てたものも少ない.
 そこで本研究は,施設において終末ケアを行っている職員が,実際に行った終末ケアをどのようにとらえているのか,その実態を明らかにすることを目的として,終末ケアを行っているA 特別養護老人ホームの職員17 人に,終末ケアを行って「よかったこと」「むずかしかったこと」の設問を設け,記述で回答を求めた.
 その結果,職員が「よかった」と思える終末ケアには≪ニーズに応じたケアの実施≫≪共にいる≫≪衰退過程にかかわり職員の心構えができる≫≪衰退過程に応じた食事支援≫という要素が含まれており,「むずかしかった」と思える終末ケアには≪チーム内での意見交換不足でケアの工夫のタイミングを逃す≫≪ホーム体制の限界で本人の希望にこたえられない≫≪手立てのないむなしさ≫が含まれていた.

 

論文名

中高年者の社会参加活動における人間関係
―― 親しさとその関連要因の検討――

著者名

菅原育子,片桐恵子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):355-365,2007
抄録  中高年者にとって親しい人間関係の維持と再構築は重要な課題である.社会参加活動は中高年者にとって主要な社会的交流の場であると考えられることから,本研究では実際に活動を通し親しい関係が築かれているか,また親しさと関連する要因はなにかを活動集団,個人,二者間関係の3 要因について検討した.東京近郊の都市部在住で40 〜 69 歳の男性950 人とその妻を対象に留置調査を実施した(回収率64.1%).約半数が何らかの活動集団に所属しており,その多くがメンバーと親しい関係をもっていた.分析の結果,活動への関与が高いほどメンバー全体との関係がよく,さらに全体の関係がよい人ほどよく接するメンバーとの1 対1 の情緒的親密性,活動外での接触頻度が高かった.また男性ではメンバー間の対人構造など集団の特性が,女性では子どもの有無など個人要因が親しさと関連していた.性別により活動メンバー間の親しさを促進する要因が異なることが示唆された.

 

論文名

特別養護老人ホームにおける介護職員のストレスに関する研究
―― 小規模ケア型施設と従来型施設の比較――

著者名

張 允,長三紘平,黒田研二

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):366-374,2007
抄録  本研究は,小規模ケアを実施しているか否かによって施設を2 群にわけ,施設形態別の介護職員のストレス状況を把握するとともに,ストレスに関連する要因を明らかにすることを目的とした.調査は,大阪府に所在する特別養護老人ホームの介護職員273 人(13 施設)を対象とし,233 人から回答を得た.分析の結果,まず,従来型施設では想定したストレッサーとストレス症状が強く関連しているのに対して,小規模ケア型施設ではその関連がみられず,小規模ケアを実施している施設の職員は従来型施設の職員とは異なる要因によってストレス症状が生じる可能性があると考えられた.次に,蓄積的疲労徴候に対して小規模ケアの実施が統計学的に有意に関連していたが,この点については,利用者の介護度など他の要因を調整してさらに検討する必要がある.最後に,組織特性がストレス症状を防止する働きがあるとの仮説は,従来型施設には当てはまったが,小規模ケア型施設では,バーンアウトに対して組織特性は負の関連が認められたものの,蓄積的疲労徴候に対して組織特性は関連がみられず,ストレス防止機能は弱いことが示唆された.

 

論文名

軽度要介護者(軽度者)における介護保険サービス利用の効果
――パネルデータによる要介護状態の変化の分析――

著者名

菊澤佐江子,澤井 勝,藤井恭子,松原千恵

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):375-383,2007
抄録  本稿は,一自治体における軽度の要介護者(要支援〜要介護2)349 人についての2000 年4 月から4 年間にわたるパネルデータを用いて,離散時間ロジットモデルによるイベントヒストリー分析を行うことを通じて,介護保険サービスがこの間,軽度の要介護者の要介護度の維持・改善や悪化・死亡の防止にどのように寄与してきたのかという点について,包括的な検証を行った.その結果,軽度者には訪問介護,通所介護,福祉用具貸与の1 種類サービス利用者が多く,約5 割が要介護度の悪化ないし死亡を経験しているものの,こうしたサービス利用のパターンが状態悪化を引き起こすという仮説は支持されなかった.1 種類の在宅サービス利用と状態変化の間には関連がみられず,むしろ家事援助や乗降介助等の訪問介護や通所介護は,一定の効果を発揮していることが示唆された.

 

論文名

高齢者の孤独感と文化的自己観の類型が適応におよぼす影響

著者名

中澤世都子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):384-391,2007
抄録  本研究では,高齢者の孤独感を多角的に検討することを目的に,文化的自己観(相互独立性・相互協調性)の観点から孤独感を類型化し適応感を比較検討した.対象者は老人大学の受講生140 人(男性74 人,女性66 人),平均年齢69.1 歳(SD = 5.21)であった.まず,相互独立性・相互協調性において「独立群」「協調群」「両高群」「両低群」に類型化し,さらに,4 類型を孤独感平均値で孤独感高群と低群に分割し8類型を見いだした.適応の指標として,発達課題の達成度と自尊感情を用いて比較検討した結果,孤独感高群の4 類型のなかでは,独立群が孤独感低群の4 類型と同様の適応感を維持していることが示された.一方,孤独感高群のなかでも協調群は8 類型のなかでもっとも適応感が低い結果となった.以上の結果から,とくに孤独感高群の場合,相互独立性・相互協調性の観点で適応感が異なり,高齢者の孤独感を多角的に検討することの重要性が示唆されたと考えられる.

 

論文名

定年退職者の社会参加活動と夫婦関係
―― 夫の社会参加活動が妻の主観的幸福感に与える効果――
著者名

片桐恵子,菅原育子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):392-402,2007
抄録

 社会参加活動が高齢者本人に与える影響について多くの研究が行われてきた.しかし,近年「主人在宅ストレス症候群」が報告されるなど定年後の夫婦のあり様が問題になってきている.退職後の夫婦は長時間を共にすごすことから夫の社会参加活動は妻にも関係すると考えられるため,妻の主観的幸福感に及ぼす効果を検討することが本研究の目的である.
 神奈川県茅ヶ崎市と東京都練馬区在住の60 歳代有配偶男性580 人を抽出し,その男性と妻に訪問留置法にて調査を実施した(回収率62.8 %).
 妻の生活満足度を従属変数とした重回帰分析の結果,60 歳代後半の夫が就業者の場合は不参加のほうが妻の生活満足度が高かった.夫が非就業のときは夫が社会参加活動しているほうが生活満足度は高くなった.夫の就業の状況や年齢によって社会参加活動が本人や妻に与える影響が異なること,社会参加活動の効果は夫婦という枠組みでとらえる必要性があることが示唆された.

実践・事例報告

論文名

「懐かしの間」を活用したグループ回想法の試み
―― アルツハイマー型認知症高齢者を対象とした事例より――
著者名

工藤夕貴,篠田美紀,中西亜紀,野村豊子,森重 功,新谷昭夫,曽根良昭,芦田 望,
桑田直弥,福本幸恵,宮本雅代,原田智子,谷 直樹,三木隆己,西川禎一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):403-411,2007
抄録

 本稿では,大阪市内のミュージアムと連携して行った「懐かしの間」におけるグループ回想法について報告し,試行的に実施した第1 クールの事例検討を行い,今後の分析および本研究の意義をとらえる視点を見いだすことを目的とした.分析対象者はアルツハイマー型認知症高齢者2 人で,全10 回のグループ回想法を実施した.場所は高齢者施設内に特設した「懐かしの間」で,グループ実施にはミュージアム所蔵の道具を用いた.MMSE ・HDS − R ・バウムテストによる事前事後評価に加え,回想内容や発言回数,参加の様子について事例検討を行った.その結果,グループへの意識や他者との関係性,参加者の発言とグループ内の様子,テーマや小道具とのつながりを見いだす糸口などを示すことができた.加えて,「懐かしの間」への具体的な反応や家族の変化もみられた.今後は,得られた視点を基に,空間や道具が回想法の効果へ与える影響についてさらに検討したい.

資料論文

 

論文名

本邦の介護保険施設における身体拘束の実施状況
―― 身体拘束の内容と実施における要件に関する結果を中心に――
著者名

吉川悠貴,阿部哲也,加藤伸司,矢吹知之,浅野弘毅

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):412-421,2007
抄録

 全国の介護保険施設(介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設)を対象に,身体拘束の実施状況に関する郵送調査を行った.行われている身体拘束の内容と,身体拘束を実施する際の要件に対する施設の判断や身体拘束実施の理由を中心に分析した結果,身体拘束の行為として多いのは「ベッドを柵で囲む」「拘束帯・腰ベルト・車いすテーブル」「ミトン型手袋等」「介護衣(つなぎ服)」の順であった.一方,緊急やむを得ず例外的に身体拘束を行う際の要件(切迫性・非代替性・一時性)には,身体拘束事例の68.1%が該当していると回答された.しかし,要件に該当しかつ拘束実施の理由が「生命等が危険でほかに方策がなかった」であったと回答された事例は全事例の40.6 %にすぎないなど,厳密に「緊急やむを得ない」といえる事例はより少なく,身体拘束を禁止する規定の運用状況に不確かな部分があることが示唆された.

論文名

英国における高齢者虐待の防止に係る施策
―― Protection of Vulnerable Adults スキームの概要および課題――
著者名 水野洋子,荒井由美子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):422-427,2007
抄録

 近年わが国では,ケア従事者による高齢者虐待の存在が明らかになりつつある.そこで本研究は,ケア従事者による虐待防止に係る施策の先例として,英国の「Protection of Vulnerable Adults スキーム」に着目し,その特徴の分析と課題の抽出を目的として調査を行った.研究の方法としては,文献調査,聴取調査および,Care Standards Tribunal の審決例の調査を実施した.その結果,POVA スキームにより,虐待履歴を有するケア従事者の雇用が確実に回避されこと等が明らかとなった.一方課題として,ケア従事者の権利利益の侵害がみられることも明らかとなった.

論文名

老人大学修了者の老人大学への評価と社会参加活動の関連
―― 大阪府老人大学を事例として――
著者名 堀 薫夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(3):428-436,2007
抄録

 老人大学修了者の老人大学への評価と修了後の社会参加活動との関連を探るために,都道府県単位で募集と活動が行われている老人大学の修了者997 人に対して,老人大学講座への評価や受講後の社会活動への参加に関する質問紙調査を実施した.老人大学への評価を数量化?類によって構造化して基本軸を析出したのちに,これと回答者の社会参加活動との関連を分析した.
 その結果,「人間関係−自己実現」「知識・技能−社会参加」の2 つの基本軸が析出されたが,このうち「自己実現−社会参加」象限にある評価項目群が,修了後の社会参加活動および「女性」「主婦など」「70 代後半以上」「できた友人数10 人以上」という属性と対応関係にあることが示された.逆に,「男性」「高学歴」「元管理職」「60 代」「できた友人数9 人以下」という属性は「人間関係−知識・技能」象限に位置したが,こうした人々に対しては,修了者同士のグループ活動が,その社会参加活動への重要な媒介となるものと考えられた.

BACK