「老年社会科学」 Vol.29-1 詳細一覧

原著論文

論文名

家族介護者の介護に対する認知的評価のタイプの特徴 
 ―関連要因と対処スタイルからの検討―
著者名

広瀬美千代,岡田進一,白澤政和

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):3-12,2007
抄録

 家族介護者の介護に対する肯定・否定両評価の組合せから介護者のタイプ分けをし,それに関連する要因や対処スタイルから,その特徴を明らかにすることを目的とした.主介護者550 人を対象に郵送調査を行い,263 人の分析対象者を得た.分析方法としては,否定・肯定両評価が高いタイプ(高否高肯タイプ),否定・肯定両評価が低いタイプ(低否低肯タイプ)を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った.分析の結果,高否高肯タイプは,(1)夜間介護を行う必要がある,(2)介護者の年齢が高い,(3)要介護高齢者の自立度が低い,(4)介護に対して積極的受容型の対処をとる,という特徴が明らかになった.低否低肯タイプは,(1)夜間介護を行う必要がない,(2)介護に対してペース配分型の対処をとるが,積極的受容型の対処はほとんどとらない,(3)介護者の主観的健康度や趣味・サークルなどの資源充足度がやや高い傾向にある,という特徴が明らかになった.

 

論文名

特養職員による感謝の言葉の要求が老人虐待の発生と繰り返しに与える影響の検討 
 ―個別ケアの視点から―

著者名

大村 壮

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):13-20,2007
抄録  本研究では,7 つの特別養護老人ホーム職員(361 人)を対象とし,老人から感謝を要求する行為の有無が,身体的虐待,心理的虐待,言語的虐待,放置,身勝手な行為といった虐待行為の発生および繰り返しに与える影響について,そしてその感謝の言葉を要求する行為に与えるケアの評価元(老人なのか老人以外の第三者なのか)の影響について検討する.ロジスティック回帰分析の結果,虐待行為の発生については,感謝を要求する行為が発生に影響を与えていることが明らかになった.そして虐待行為の繰り返しについては,訴えの無視,命令口調,暴言,身勝手な虐待行為の繰り返しに感謝を要求する行為が影響を及ぼしていることが明らかになった.そして,老人自身ではなく,第三者からケアを評価されたいと思っていることが,感謝を要求する行為に影響を与えていることが明らかになった.

 

論文名

ケアつき住宅に対する志向性評価尺度の作成

著者名

佐々木千晶,今井幸充

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):21-29,2007
抄録  高齢期のケアつき住宅に求められる機能の構造を明らかにし,利用者の志向性を測定する尺度を作成することを目的とした.在宅生活者に対するアンケートと利用者のインタビューに基づきケアつき住宅に求められる機能について40 の質問項目を作成した.都内在住の1947〜1950 年生まれの男女3,046 人に郵送法で調査を行い342 人から欠損値のない回答を得た.ケアつき住宅の機能の構造を示す8 モデルに対して構造方程式モデリングを行い,「安全・快適(下位カテゴリー:アメニティ,生活支援)」「自律性(下位カテゴリー:選択,プライバシー)」「コミュニティ機能」の2 次因子モデルを採用し,5 つの1 次因子に3 項目ずつを当てはめた15 項目の尺度を作成した.この結果は利用者の視点からケアつき住宅に必要な機能の構造を示したものであり,作成した尺度によりケアつき住宅に対する多様な志向タイプを明らかにすることが可能になると思われた.

 

論文名

向老期世代の現在の生き方と高齢期に望む生き方の関係

著者名

中原 純,藤田綾子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):30-36,2007
抄録   本研究では,(1)向老期世代がどのような高齢期の生き方を「望む」のかを明らかにすること,(2)向老期世代の現在の生き方と高齢期に「望む」生き方との関係を検討することを目的とする.方法は,無作為抽出された大阪府吹田市の向老期世代(n = 820)を対象とした郵送法による質問紙調査である.その結果,向老期世代は高齢期に比較的変化・挑戦的な生き方を望み,高齢期に望む変化・挑戦志向,安定・防衛志向,同調志向は,いずれも向老期の生き方と大きく関連することが示された.以上から,向老期世代に対して,変化・挑戦的な生き方を可能にするような社会的な制度の充実は必要である.ただし,もっとも重要であることは,現在の生き方との質的な継続性であり,さまざまな生き方の側面における継続を可能にするような社会的な制度の充実が必要であると考えられる.

 

実践・事例報告

論文名

在宅要介護高齢者を介護する息子による虐待に関する研究

著者名

上田照子,荒井由美子,西山利政

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):37-47,2007
抄録  息子による介護の実態と,虐待の発生要因を明らかにすることを目的として,在宅の要介護高齢者とその息子を対象とし,ケアマネを回答者として質問紙による調査を行った.81 組の有効回答を得たが,息子が主介護者である70 組を主な分析対象とした.
主介護者である息子の半数は独身であり,介護の知識・技術に乏しい者や,介護負担が大きい者,介護が行き届いていない者が多かった.
 主介護者である息子による虐待は24.3%にみられ,虐待の形態では,心理的虐待と介護の放棄・放任が多かった.虐待は,高齢者側では独身の息子と2 人暮らしである,息子との人間関係が悪い,息子の側では,年齢が若い,経済状態が苦しい,失業中である,介護の知識・技術が不十分である,介護負担が大きい,介護者になった理由がたまたま独身で同居していたから,等の場合に高率となることが認められた.
 息子が介護している場合には,介護知識や技術に乏しいこと,多くが仕事をもっている年齢層であること,高齢者と2 人暮らしの場合には他の家族の身体的・精神的な支えが得にくいことなどが背景にあり,これらに配慮した援助が必要である.

 

資料論文

論文名

認知症高齢者の認知能力の把握およびコミュニケーションにおける心がけに関する介護職員の認識
 ― 特別養護老人ホームとグループホームの比較―
著者名

松山 郁夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):48-57,2007
抄録

 本研究の目的は,グループホームという施設のあり方が,介護職員における認知症高齢者の認知能力の把握を容易にし,コミュニケーションを行う際の心がけにより注意を払うことに影響を与え,そのことが認知症高齢者の精神的安定や自立に影響していることを検証することである.このため,特別養護老人ホームとグループホームの介護職員における,認知症高齢者の認知能力とコミュニケーションでの心がけに関する認識について検討した.独自の質問項目からなる質問紙調査において,介護職員393 人から有効回答が得られた.因子分析により,認知能力の把握については,「生活性」「概念性」「言語性」「運動性」の4 因子,コミュニケーションでの心がけについては,「具体的対応」「受容的対応」「把握的対応」の3 因子がおのおの抽出された.
 7 因子すべてについて,特別養護老人ホームよりもグループホームの介護職員のほうが肯定的な認識をもっていた.グループホームは特別養護老人ホームに比較すると,定員が少ないこと,認知症高齢者だけを介護していること,生活空間がはっきりしていること,個室であること等の特性をもっており,これらの違いが,介護職員における認知症高齢者の認知能力の把握とコミュニケーションでの心がけに関する認識に違いをもたらしていると推察された.

論文名

地方都市における高齢者の社会関係
 ― 気心が知れた他者の特性―
著者名

古谷野亘,矢部拓也,西村昌記,高木恒一,浅川達人,安藤孝敏

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):58-64,2007
抄録

 地方都市に居住する60 〜 79 歳の高齢者の社会関係について検討した.調査対象者には,同居家族と別居子・別居子の配偶者以外で「気心の知れた仲だと感じる方」を最大7 人まで挙げることを求め,その1 人ひとりについて,基本属性と交流の経緯,現在の交流の態様をたずねた.この手続きにより,786 人の回答者から,1,961 人の他者との関係に関する情報を得た.回答者が挙げた他者のほとんどは同性の友人で,同年輩が多かった.他者と知り合ったきっかけは近所,学校,職場の順で多かった.他者には比較的近くに住んでいる人が多く,回答者と頻繁に会っている人が多かった.1 人の回答者が挙げた他者の数に性差はなかったが,気心の知れた人はいないと回答した者の割合は女性より男性で高かった.他者の数を従属変数とする重回帰分析の結果,生活機能と現在地居住年数の有意な正の影響,年齢の負の影響が認められた.

 

論文名

前期高齢者の郵送調査における督促状の効果
著者名

小林江里香,深谷太郎

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):65-74,2007
抄録

 前期高齢者を対象とした郵送調査において,督促状の送付が返送率や返送者の特性分布にどのような効果をもつか検討した.東京都内2 区より無作為抽出された60 〜 74 歳の各区1,000 人に対し,社会参加を主題とする郵送調査を実施した.2 回の督促状送付後,返送率は督促前より20 % 以上向上し,2 区の最終的な返送率はそれぞれ46.2 % ,55.1 % となった.ただし,督促後返送者は督促前返送者に比べて項目欠損率が高かった.また,督促前後の返送者の特性の比較から,督促により,学歴の低い人,抑うつ傾向の強い人,経済状態が悪い人,地域・社会貢献活動への参加意向をもたない人の返送率を高められる可能性が示唆された.

論文名

地域在宅超高齢者における廃用症候群の予防を目指した訪問型介入プログラム「自分史くらぶ」の開発;予備的検討
著者名 岩佐 一,権藤恭之,増井幸恵,稲垣宏樹,鈴木隆雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 29(1):75-83,2007
抄録

 本研究は,地域在宅超高齢者(85 歳以上)における廃用症候群予防を目的とした訪問型介入プログラム(通称,自分史くらぶ)を実施し,その介入効果について検討した.訪問ボランティアが超高齢者(18 人:男性7 人,女性11 人)のお宅を定期的に訪問し,継続的な談話を行いながら,超高齢者の「自分史」を作成していく内容の介入プログラムを3 か月間にわたり実施した.介入プログラムの効果について検討した結果,握力並びに若者イメージにおいて介入による有意な改善効果が,見当識において改善の傾向が認められた.本介入プログラムによって,超高齢者における体力や見当識能力が改善し,身体・精神機能における廃用症候群が予防される可能性が見いだされた.また,本介入プログラムによる若者イメージの向上は,対人交流が狭量化しがちな超高齢者において地域社会に対する関心や自発的な働きかけの維持に寄与する可能性が考えられた.

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