「老年社会科学」 Vol.28-4 詳細一覧

原著論文

論文名

高齢者ケア施設における環境の魅力的品質と当たり前品質
著者名

影山優子,児玉桂子,小島隆矢,青木隆雄,古賀誉章

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):433-449,2007
抄録

 本研究は,マーケティングや品質管理の実務において使われている「魅力的品質・当たり前品質」の考えを用いて,高齢者ケア施設の環境要素を分類することを目的とした.先行研究から設定された40 項目の施設環境品質項目について,特別養護老人ホーム,介護老人保健施設,認知症高齢者グループホームで働く介護職員の意識を,物理的充足度と心理的満足度の二元的対応関係で把握した.全国からサンプリングされた2,100 名に対して質問紙調査を行い,583 票を得た(有効回収率は27.8%).施設環境品質項目は「無関心品質」「魅力的品質」「一元的品質」「当たり前品質」の各カテゴリーに分類された.また施設種別による環境への意識の違いも確認された.さらに,コレスポンデンス分析の結果から,施設環境に対する意識は普及度と重要度で把握できることが示された.

 

論文名

大都市近郊の団地における高齢者の人間関係量と地域参加

著者名

安田節之

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):450-463,2007
抄録  本研究は,高齢化が進んだ東京近郊の4 つの地理・歴史的成立背景の異なる団地における地域参加と人間関係量および属性の関係を明らかにすることを目的とした.65 歳以上の合計353 人への調査を基に分 析を行った結果,(1)町内会・自治会への参加と近隣の人間関係量,信頼できる人間関係量,世帯年収との 正の関連,(2)老人クラブへの参加と近隣の人間関係量および年齢との正の関連,(3)ボランティア活動への参 加と信頼できる人間関係量および主観的健康度との正の関連,(4)グループ活動への参加と信頼できる人間関 係量,主観的健康度,高等教育との正の関連および地域の文脈との関連が認められた.したがって,近隣の 人間関係量または信頼できる人間関係量は,各地域活動への参加を規定する要因として少なくとも部分的に かかわっていたことが明らかになった.このような結果より,地域に根ざした人間ネットワーク形成の促進 の重要性などを考察した.

 

論文名

高齢者介護職員のストレッサーとバーンアウトの関連

著者名

小野寺敦志,畦地良平,志村ゆず

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):464-475,2007
抄録  日本版MBI と老人介護スタッフストレッサー評価尺度の因子構造の検討と,2尺度を用いてバーンアウ トとストレッサーの関連を検討することを目的とした.介護老人福祉施設職員217人を対象として質問紙調査を行った.その結果,日本版MBI は「疲弊感」「脱人格化」「個人的達成感」の因子構造を抽出し,先 行研究の尺度とほぼ同一であった.ストレッサー評価尺度は「上司とのコンフリクト」「同僚とのコンフリ クト」「利用者とのコンフリクト」「仕事的負荷」の4因子構造を抽出した.対人コンフリクトは先行研究 と同一であったが「仕事的負荷」は介護と事務の業務内容が一体となった因子であり,介護保険導入後の職 場環境の変化の影響が示唆された.2尺度の相関は,日本版MBI の「疲弊感」はストレッサー尺度すべて と相関を認めたが,「個人的達成感」は相関を認めなかった.

 

論文名

「軽度要介護認定」高齢者のうつに関連する要因

著者名

和泉京子,阿曽洋子,山本美輪,福島俊也

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):476-486,2007
抄録   本研究の目的は,在宅の軽度要介護認定高齢者の抑うつに関連する要因を明らかにし,うつ予防の示唆 を得ることである.2004 年度の要支援者3,135 人と要介護1 者2,697 人の計5,832 人について分析を行っ た.「うつ傾向」の者は,要支援者の59.6%,要介護1 者の73.1%を占めており,要支援者と要介護1 者の 間には有意差があった.基本属性,身体・心理・社会的項目について単変量の解析より,「うつ傾向」と有意 であった項目について,多重ロジスティック回帰分析を行った.要支援者および要介護1 者共に,排泄の 失敗あり,咀嚼能力なし,主観的健康感の非健康,生きがいなし,趣味なし,地域での活動参加なしが「う つ傾向」の関連要因であった.要支援者では,女性,外出範囲の敷地内,要介護1 者では,ひとり暮らし, 歩行の介助,外出頻度の1 週間に1 回未満も「うつ傾向」の関連要因であった.在宅の軽度要介護認定高 齢者の「うつ傾向」を予防するためには,身体・心理・社会的側面のすべてを考慮した支援の必要性が示唆 された.

 

論文名

失語症家族の介護負担感

著者名

小林久子,綿森淑子,長田久雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):487-496,2007
抄録  本研究の目的は高齢の在宅失語症者の介護者の介護負担感の所在を明らかにし,コミュニケーション障害 の視点から,失語症の介護者が特有に感じる介護負担感の概念構造を探ることである.方法は,失語症者を 介護する家族と,同様に利き手側に麻痺があるが,言語障害のない被介護者を介護する家族の負担感を比較 した質的研究である.前者20 人にはノミナルグループ法によるグループインタビューを,後者6 人に個別 インタビューを実施し負担感を聞き取った.分析方法は,ワークシートを用いたカテゴリー分析であった. 結果として,聴取された意見は最終的に4 つのカテゴリーに分類され,失語症者の家族が感じる負担感の 構造が明らかになった.その特徴は,あらゆる日常生活の情報交換の側面での伝達や推測の負担と,コミュ ニケーション能力と他の認知能力に差があり,社会に認められない本人の葛藤やつらさを思いやる心理的負 担感が存在することであった.

 

論壇

論文名

世間間交流プログラムの実践と評価
著者名

中野いく子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):497-503,2007
抄録

 世代間交流は,祖父母世代と孫世代の断絶に対処する意図的,政策的,教育的プログラムとして開始されたが,コミュニティの再構築にも有効な手段であると認識されるようになって,学際的な研究と多様な領域での実践へと発展した.日本では,1970年代から実践が開始されたが,プログラムの研究開発やその有効性を検証する研究はほとんど行われてこなかった.筆者らは,プログラムの開発とその効果評価の研究に取り組んだ. 開発したプログラムは,3つのねらいと擬似的な祖父母と孫の関係をつくるための5回の施設訪問を含む23回(35時間)のものである.効果評価の方法は,子どもに対しては,一つには実施前と実施後に高齢者観等の変化を測定する調査を行った.二つには毎回の活動後に「振り返り」をしたノートの記述を分析した.高齢者に対しては,聴き取り調査を行った.これらに用いた測定スケールを紹介し,結果の一部,子どもへの効果を明らかにした.

論文名

百寿者研究の現状と展望
著者名

権藤恭之

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):504-512,2007
抄録

 先進各国の超高齢化を背景に世界的に百寿者研究が行われるようになってきた.しかし,百寿者研究の目的や成果はあまり理解されていないのが現状である.本論は百寿者研究を加齢プロセス解明と長寿要因探索の2 つの研究側面にわけ,研究の方向性や研究知見を紹介する.現在の百寿者研究は,遺伝研究の進展に伴い,加齢プロセスの解明よりも長寿要因の探索を主な目的にするものが多いが,APOE遺伝子を除いて統一した見解は得られていない.一定の成果は上がっているものの,百寿者研究ならではというオリジナルな知見は少な いといえる.百寿者研究の問題点として,研究計画や百寿者の評価方法が定まっていないという問題があるが, それを補うための子供や兄弟を対象にした研究を併用すること,また,百寿者に的を絞った評価尺度の開発も 必要である.現在,まだ解決されていない問題はあるが,今後の超高齢社会を展望し,政策を提言するためにも百寿者研究は今後重要になると考えられる.

 

特集

論文名

高齢者虐待の現状とケアシステム・ネットワークづくりの課題
著者名

高崎絹子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):513-521,2007
抄録

 2005 年11月に「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(Elder Abuse Prevention and Caregiver Support Law)が成立し,2006 年4 月に施行された.同法は,(1)高齢者と養護者の双方への支援,予防活動を重視した福祉法的な性格をもつこと,(2)市町村と地域包括支援センターが事業の主体となっていること,(3)3 層構造の支援ネットワークづくりの構築を強調していることが特徴として挙げられる.高齢者虐待の予防とケース援助の方法については未開拓の分野が多く,体制・仕組 みや多機関・多職種のネットワークづくり,虐待の発見・通報から対応の基準,さらに緊急対応,緊急保護,立入調査,家族分離,措置の基準づくりなどの課題は多いが,同法の施行により新たな活動展開の段階を迎えた.同時期に施行された改正介護保険法や障害者自立支援法とともに,同法は国際的にも注目さ れており,認知症ケアをはじめとする高齢者ケア全体の向上に影響を与えることが期待されている.

論文名

高齢者施設における虐待の構造的分析
著者名 西元幸雄,小林好弘,紀平雅司,近藤辰比古,伊藤 妙,西元直美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):522-537,2007
抄録

 高齢者虐待については,大きな社会的問題として「高齢者虐待防止法」が制定された.しかし昨今,高齢者介護施設における,虐待行為の生々しい事件が報道され,高齢者施設自体の安全性,信頼性,さらには,専門性までもが失墜してしまった感が強い.
 そこで,なぜ,虐待が発生するのか,高齢者介護施設のスタッフの虐待の意識に関してや虐待行為の実態,その要因に関してアンケート調査等を実施した結果,虐待の認識のばらつきや施設における労働負担,ケアスキル等が虐待に関与していることが推測できた.

論文名

介護施設における身体拘束の防止
著者名 古川悠貴,加藤伸司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(4):538-544,2007
抄録

 全国の介護保険施設(介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設)に対して,身体拘束の実施状況や身体拘束廃止に向けた取り組みや意識の状況を調査した.この調査の結果から,身体拘束の実施率,身体拘束の防止・廃止に向けた取り組みの効果と,取り組みを行ったことによる変化について整理した.結果から,身体拘束の廃止や防止を推進するためには,身体拘束を「一切行わない」方針を明確にしてその方針に基づいた施設運営を行うことや,効果的な学習を行うこと,身体拘束に関連するリスクマネジメントの取り組みを行うことなどが有効と考えられた.また,介護量の増加や家族の理解を得ることへの困難さの存在が示唆されるものの,取り組みによって介護事故が増加するわけではないことが示され,身体拘束の廃止・防止への取り組みを行うことには一定の効果があることが確認された.

論文名

なぜ高齢者を差別し虐待するのか
著者名 杉井潤子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):545-551,2007
抄録

 なぜ高齢者を差別し虐待するのかという本質的な課題,社会的排除の観点から差別し排除する構造,さ らに虐待する関係性について考察した.まず高齢者差別・虐待が社会問題として構築される経緯とその背 景について1978 年ごろから蔑視や無関心,老親虐待が問題提起され始めたことを明らかにした.次に個 人−家族−社会における差別構造について検討し,高齢者の自己排除および差異化意識のほか家族や社会 においても高齢者が差別され排除される仕組みがあることを指摘した.さらに虐待について概念整理した うえで,家族による虐待と援助専門職による虐待の差異を指摘し,家族による虐待は親密さと愛情に依拠 した「見えざる虐待・隠す虐待」「許される暴力・許す暴力」であり,そこには包摂の病理があることを も指摘した.今後,家族による包摂から解き放すとともに,高齢者を社会的に包摂していく社会構造の構 築が求められることを説いた.

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