「老年社会科学」 Vol.28-3 詳細一覧

原著論文

論文名

認知症高齢者と家族へのアウトリーチの意義 ―介護保険下における実践の役割と条件―
著者名

久松信夫,小野寺敦志

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):297-311,2006
抄録

 本研究の目的は,介護保険制度施行後における在宅介護支援センターの,認知症高齢者と介護者を対象にしたアウトリーチ実践活動の現状を踏まえ,実践上の役割とそれを継続するための条件はなにかを検討することである.在宅介護支援センターに勤務する社会福祉士ならびにソーシャルワーカーを対象に,質問紙による調査を実施した.その結果,介護保険制度施行後においてアウトリーチを実践していた者は6割を越えていた.次に,アウトリーチの役割と条件の内的構造を明らかにするために因子分析を行った.その結果,役割においては「介入法の決定と効果評価」「援助活用を動機づける支援」「地域環境の支援体制づくり」の3因子が,条件においては「組織の基盤確保」「存在認知の機会」「家族支援の場の存在」の3因子が抽出された.因子分析の結果をもとに,アウトリーチの実践と構造について考察を行った.

 

論文名

高齢者のSubjective Social Well-Beingと居住地都市圏人口規模との関連に関する研究

著者名

坂野達郎,東海林崇

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):312-320,2006
抄録  本研究の目的は,高齢者のSSWB(Subjective Social Well-Being)と居住地都市圏人口規模の関連を明らかにすることである.都市は,住む,働く,学ぶ,遊ぶといった生活の多面的な機会が集積する場である.その集積が大きいほど,高齢者が社会と接点をもつ機会が大きいため,趣味等の社会活動への参加を通じて得られる社会生活の充足感を高く保ち続けられると考えられる.本研究では,高齢者が居住する都市圏人口規模を社会活動機会集積度の代理指標ととらえ,同指標がSSWBに及ぼす影響を共分散構造分析により検証した.分析には,20自治体の高齢者計5,565人を対象に行ったSSWBに関する質問紙調査のデータを用いた.その結果,都市圏人口規模は高齢者のSSWBに正の有意な影響を与えていることが示された.また,同時にその影響には性差が存在し,女性のほうがこの影響が大きいことも示された.

 

論文名

認知症の有無別にみた要支援・要介護1の在宅高齢者におけるADLと移動動作との縦断的な関係

著者名

佐藤ゆかり,齋藤圭介,原田和宏,香川幸次郎

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):321-333,2006
抄録  本研究は,要支援・要介護1の高齢者を対象に,ADLの低下に対し移動動作の低下が規定力を有するという仮説を,認知症の有無によって群別し検証することを目的とした.
 調査対象は,2000年9月にA県の3つの自治体で要支援・要介護1の認定を受け,在宅で生活する65歳以上の高齢者372人とした.2年間の追跡調査を完了し,取込基準を満たした328人を解析対象とした(非認知症群199人,認知症群129人).仮説を潜在成長モデルに表現し,2群の同時分析にて検証した.
 両群共に,ADL低下に与える移動動作の初期値の影響は小さく,移動動作の低下傾向が強い規定力をもつことが確認された.認知症群では,ADLの傾きの分散の7割が説明され,非認知症群に比して説明力が大きかった.移動動作の障害が進行することで,セルフケアの崩壊に直結しやすいことが推察された.認知症高齢者の介護予防には,移動動作に対する積極的なアプローチを講じる必要性が示された.

 

論文名

認知症高齢者の状態像に対応する在宅環境配慮評価軸の抽出
−テキストマイニングを用いた家族介護者の自由記述回答の分析―

著者名

大島千帆,児玉桂子,後藤 隆,足立 啓,三宅貴夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):334-347,2006
抄録  本研究の目的は,認知症高齢者の状態像に対応する在宅環境配慮をとらえる評価軸を家族介護者の自由記述回答から抽出することである.
 「呆け老人をかかえる家族の会」の会員である家族介護者を対象とした在宅環境配慮に関する郵送調査によって得られた258人の在宅環境配慮に関する自由記述回答をテキストマイニングによって分析した.100構成要素(形態素)と,認知症高齢者の類型(「歩行・見当識高群」,「歩行高・見当識低群」,「歩行・見当識低群」)の関連を対応分析によって明らかにした.
 その結果,(1)認知症高齢者の類型に対応した特徴的な構成要素が示された.(2)認知症高齢者の環境配慮の評価軸として,<身体機能の程度>と,<在宅環境配慮の規模>が抽出され,これらに留意した在宅環境配慮を実施する必要性が示唆された.

 

論文名

地域在住高齢者における運動習慣の定着に関連する要因

著者名

吉田祐子,熊谷 修,岩佐 一,杉浦美穂,金 憲経,吉田英世,

古谷丈人,藤原佳典,新開省二,渡辺修一郎,鈴木隆雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):348-358,2006
抄録  地域に在住する高齢者の運動の開始および運動の継続に関連する要因について検討した.分析対象は,ベースライン調査および2年後の追跡調査に参加した65歳以上の高齢者1,029人(平均年齢72.0±5.9歳,男性436人,女性593人)とした.ベースライン調査で運動習慣ありと運動習慣なしに分類し,それぞれ別に分析を行った.多重ロジスティック回帰分析の結果,運動の開始には,男女で高齢者のグループ活動に参加していること,女性で歩行速度が速いことが関連した.一方,運動の継続には,男女共にグループ活動に参加していること,男性で肥満がないこと,痛みがないこと,外来通院をしていること,主観的健康感が高いこと,女性で肥満があること,趣味があることが関連した.高齢者における運動の開始や継続には,心身の健康維持や社会活動性が影響することが示された.

 

論文名

在宅移行期の女性介護者における主観的な介護準備状況と心理的ウェルビーイングとの関係
著者名

片山陽子,矢嶋裕樹,小野ツルコ

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):359-367,2006
抄録

 本研究の目的は,在宅移行期の女性介護者の主観的な介護準備状況を測定するための尺度を作成し,介護準備状況が介護者の心理的ウェルビーイングに与える影響を明らかにすることとした.調査はA病院から自宅退院する医療依存度の高い療養者の介護者208人を対象に質問紙調査を実施した.有効回答が得られた145人を分析対象とし,以下の結果を得た.主な結果として1.確認的因子分析の結果,介護準備状況として「介護スキル」と「介護役割遂行可能感」の2因子9項目の斜交モデルは良好な適合度を示していた.2.パス解析の結果,「介護スキル」が高い介護者ほど,否定的感情は低かった.一方「介護役割遂行可能感」が高い介護者ほど否定的感情は低く,肯定的感情が高かった.本研究の指摘から「介護スキル」と「介護役割遂行可能感」の介護準備状況を把握し,介入することによって,肯定的な感情で在宅介護を開始することが可能となることが示唆された.

論壇

論文名

地域医療と介護保険制度
著者名

野中 博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):368-374,2006
抄録

 人間としての尊厳が尊重され,住み慣れた地域で最愛の家族と地域の人々に囲まれて安心して暮らし続けることを,医学を通じて支援することが地域医療である.
 医療における医師の役割は患者の病気の診断・治療であるが,病状が安定しても継続して治療を要する人の生活や人生を,医学を通じての支援する役割もある.医療の主な視点は「治す」であり,介護の主な視点は「支える」である.
 医療や介護は,不幸にも病気や障害を抱えた人がなじみの地域すなわち住み慣れた地域へ改めて復帰することを目的とした制度である.この本来の目的を実現するために地域の診療所と病院が連携することが真の医療連携であり,この医療連携の実現こそが地域医師会の本来の役割である.
 住民が住み慣れた地域で生活を続けるためには,医療保険と介護保険のおのおのの仕組みを活用することは不可欠であり,地域医療の充実には介護保険は欠かせない.

 

論文名

高齢者うつ病に関する提言
著者名

朝田 隆

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):375-380,2006
抄録

 今日の高齢者うつ病に関して,自殺予防ならびに認知症予防の2点を中心に今後の課題と展望を述べた.
 うつ病の気分は普通,悲哀感と意欲の低下に二分される.うつ病の臨床で最重要なのは自殺である.わが国に限らず,自殺は高齢者とくにうつ病を有する者で起こりやすい.また高齢男性の自殺の特徴は既遂率の高さにあるとされる.新たな研修制度のなかで,うつ・自殺に対処すべく教育がなされるようになった.一般医においてこうした問題への関心が高まりつつある.
 次に認知症の前駆状態にある者では,認知機能が正常な者に比べて高い頻度でうつを認めやすい.老年期のうつ症状のなかでも意欲低下を認知症の前駆症状として認識すべきかと思われる.介護予防のポイントのひとつにうつが挙げられているが,このようなうつ症状が介入対象を指摘するうえで重要かと思われる.

論文名

認知症予防の戦略的アプローチ
著者名 矢冨直美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):381-386,2006
抄録

 本稿では,地域の高齢者に対して認知症のリスクを低減していくための戦略的アプローチを論ずる.まず,最近の研究から分かってきた認知症の危険因子とそのメカニズムを述べる.次に認知症の前駆的状態である軽度認知障害の特徴と,それに基づいた認知的アプローチのあり方について論じる.認知症の大きな部分を占めるアルツハイマー型認知症は,30年という長い期間の病理的変化を経て進行し,また,病理的プロセスが進めば進むほど脳の可塑性は失われる.したがって,有効な認知症予防を考えるならば,早い段階から健康な高齢者も軽度認知障害の高齢者も含めた地域高齢者を対象としたポピュレーション・アプローチこそが重要である.そこで,さまざまな利点をもった戦略的アプローチとして,認知症予防に関心をもつ軽度認知障害も健康な高齢者が混在するスクリーニングを前提とした認知症予防のアプローチを提言する.

論文名

自立高齢者のための栄養改善プログラム
著者名 熊谷 修
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 28(3):387-392,2006
抄録

 介護予防事業の最優先の課題は,地域で独立した生活を営んでいる高齢者の高次生活機能と生産的能力の維持増進である.老化に伴う筋力と筋肉量の低下は,血清アルブミン値が高いほど少ないことが長期縦断研究で示されている.この関係は臨床医学的に栄養状態良好とされる血清アルブミン値3.8g/dl以上の水準において直線的に認められる.高齢者の介護予防のための栄養改善事業では可能な限り栄養状態を高める手段が求められる.地域高齢者を対象とした介入研究で効果が実証された栄養改善に有効な食生活指針の主なポイントは以下のとおりである.

1.3食のバランスをよくとり,欠食は絶対さける
2.動物性たんぱく質を十分に摂取する
3.魚と肉の摂取は1:1程度の割合にする
4.油脂類の摂取が不足しないように注意する
5.牛乳は,毎日200 ml以上飲むようにする
6.会食の機会を豊富につくる

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