「老年社会科学」 Vol.26-4 詳細一覧

   

論文名

ユニット型特別養護老人ホームにおけるケアスタッフの適応過程
著者名

鈴木 聖子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):401-411,2005
抄録  

 

論文名

死別におけるサポートの受領とその有益性の検討
著者名

河合 千恵子、佐々木 正宏、本間 昭

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):412-423,2005
抄録 本研究は東京都内の45歳以上の男女262名を対象に調査を行い、大切な人との死別を経験した時にどのようなサポートが多く受領され、そのうちのどれが有益性が高いと評価されていたのかを明らかにした。特に親の死と配偶者の死について差異があるかどうかを比較した。多くの者は大切な人との死別経験があり、その際に様々なサポートを受けていた。サポートは受領率と有益性評価率の組み合わせから9パタンに分類され、「手紙などをくれた」は受領率も有益性評価率も高いパタンに分類された。親の死では「気遣ってくれた」などサポートの受領率と有益性評価率がともに高い項目が目立っていたのに対して、配偶者の死では「慰めたり、励ましたりしてくれた」などサポートの受領率が高くても有益性評価率が低いパタンが特徴的にみられた。この結果からサポートを提供する際には死別対象に応じて提供するサポートの内容を考慮する必要があることが示唆された。

 

論文名

外出頻度の低い「閉じこもり」高齢者の特徴に関する研究;自立度の差に着目して
著者名

横山 博子、芳賀 博、安村 誠司、藺牟田 洋美
植木 章三、島貫 秀樹、伊藤 常久

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):424-437,2005
抄録 本研究では,「閉じこもり」を「外出頻度が週1回未満」の者と定義し,日常生活自立度(厚生省「障害老人の日常生活自立度判定基準」1991)の違いによって「閉じこもり」に関連する要因の違いを明らかにすることを目的とした.介護認定で「要支援」および「要介護」と判定された者を除く75歳以上の高齢者を対象として調査を行った.その結果,「閉じこもり」の出現頻度は,身体に障害はなく自由に外出できる者(ランクJ0)では13.8%,ランクJでは23.5%,ランクAでは56.4%であった.また,「閉じこもり」と有意な関連を示した変数は自立度によって異なり,ランクJ0では「生活体力指標」や「自己効力感」,「外出の好き・嫌い」や「友人と会う」,「町内会への参加」,「運動やスポーツをする」が,ランクJでは「生活体力指標」や「自己効力感」,老研式活動能力指標の「社会的役割」や「町内会への参加」「体操をする」が,ランクAでは「近隣と会う」「体操をする」が有意な関連を示した.これらの結果から,ランクJ0においては,自らの選択による「閉じこもり」の存在が示唆された.

 

論文名

配偶者の有無と子どもとの距離が高齢者の
友人・近隣ネットワークの構造・機能に及ぼす効果
著者名

小林 江里香、杉原 陽子、深谷 太郎、秋山 弘子、Jersey Liang

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):438-450,2005
抄録 家族資源の利用可能性の低い高齢者ほど,それを補完するような友人・近隣ネットワークをもつかについて,以下の仮説を検討した:配偶者や同居・近居の子がいない人ほど,1)友人数,近隣数が多く,それらとの接触頻度が高い,2)友人・近隣がサポート源となる,3)友人・近隣ネットワークの構造と,それらがサポート源となるかどうかにより強い関係がある.70歳以上の全国標本2,604人の調査データについて回帰分析を行った結果,仮説12は部分的に支持された.つまり,無配偶者は有配偶者より友人等との接触頻度が高く,無配偶者や子どもが遠くに住む人ほど友人・近隣が情緒的,手段的サポート源となっていた.ただし,家族資源のサポート源への効果の強さは性やサポートの種類による違いがあり,子どものいない人は親戚をサポート源とする傾向があった.仮説3は支持されなかった.

 

論文名

家族ヘルパーの制度化をめぐる諸問題;京都府園部町の事例より
著者名

菊池 いづみ

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):451-461,2005
抄録 本稿では,同居家族に対して介護サービスを提供する訪問介護員を「家族ヘルパー」という.スカンジナビア諸国では,第2次世界大戦のころからこうした家族ヘルパーを雇用する制度を導入している.日本では介護保険創設時に検討され,議論の末,一定の条件を満たす場合には,基準該当訪問介護として家族ヘルパーへの保険給付が認められることになった.本稿では,導入の経緯を明らかにしたうえで,この家族ヘルパー派遣を実施している園部町の事例分析を通して,制度化の促進要因およびその意義を検討した.明らかとなったのは,首長のリーダーシップのもとに住民参加型福祉社会の形成を進めてきていたことである.家族ヘルパー導入の意義は,家族内の女性が無償で担ってきた家族介護が,有償労働として評価された点を指摘できる.当面する課題は,運営基準の妥当性の検討にあるが,利用の一般化に向けて,ヘルパー養成研修などの社会的支援の拡充が望まれる.

 

論文名

契約制度のなかでの高齢者の権利擁護事業
著者名

大國 美智子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):462-467,2005
抄録  

 

論文名

医療政策の基本課題と将来展望
著者名

池上 直己

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):468-474,2005
抄録 医療政策において,最高の医療を求める患者と,最低の負担を求める国民の利害は対立しており,医師に一任することも,医師によって「適切とする医療の範囲」に個人差があること,医学に資源制約の概念が欠如していること,および報酬水準に合意できないこと等の理由によりできない.その結果,医療費の総額とその配分は,実績から出発し,国民に公平な医療を保証しつつ,医療費の抑制と提供者間のバランスを基本に決められてきた.近年,経済の低成長に直面して,保険で給付されないサービスを私費で受けることを認める混合診療が提唱されているが,付加部分の有効性を担保することがむずかしいことなど多くの問題がある.現行制度の最大の課題は,年齢構成と所得水準が異なる保険者が職場または居住する市町村単位に5,000に分立していることであり,これを改革するためには国保と被用者保険をそれぞれ都道府県単位で統合再編し,負担と給付の関係を明確にすることである.
 

 論文名

2015年の高齢者介護

著者名

本間 昭

雑誌名
巻/号/頁/年

老年社会科学, 26(4):475-479,2005

抄録

介護保険が開始されおよそ4年が経過した.その中で,要介護認定者のおよそ半数,2002年の時点で約149万人に痴呆が疑われることが指摘されている.このような現状を背景として,団塊の世代全員が65歳以上になる2015年の高齢者介護のあり方を示した「2015年の高齢者介護」が厚労省老健局によって取りまとめられた.そこでは4つの柱,つまり@新しいケアモデルの確立:痴呆性高齢者ケア,A生活の継続性を維持するための新しい介護サービス体系,Bサービスの質の確保と向上,C介護予防・リハビリテーションの充実である.尊厳を支えるケアの確立が4つに共通するキーワードである.これらの取り組みを進めるためのエビデンスは十分とは言えない.現在,老人保健事業の見直しも行われており,今後事業のアウトカム評価が求められるようになることを考えれば一定のエビデンスのニーズが必要になることは明らかである.日本老年社会科学会に求められる役割を考えてみた.

 

 論文名

高齢者のセクシュアリティとケア

著者名

荒木 乳根子

雑誌名
巻/号/頁/年

老年社会科学, 26(4):480-486,2005

抄録

高齢者にも性的欲求はあり,それはごく自然なことである.高齢者の介護者に対する性的言動については,@セクシュアルハラスメントである,A生理的欲求なので解消をはかるべき,B生きるエネルギーだから活用しよう,といった考え方がある.しかし,筆者自身は「自分にしっかり向き合ってほしい.人間的なぬくもりがほしい」というメッセージと考えたい.性的言動の背後には不安や孤独感,疎外感がある場合が多い.「身体的なケア」はされても「心のケア」が乏しい介護の現状とも関連しており,ケアの有り様を見直す必要がある.後半はスウェーデン,デンマーク,オーストラリアのいくつかの高齢者施設を訪れ関係者の話を聞いたなかで,「心のケア」や「介護者に対する高齢者の性的言動」に関連して印象深かったことを述べた.

 

 

論文名

研究結果を学会誌に発表する方法
著者名

古谷野 亘

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(4):487-495,2005
抄録  研究結果の公表にはさまざまな方法と媒体があるが,原著論文として一流の学会誌もしくはそれに準じる学術誌に発表するのが最善である.一流の学術誌に掲載されるような論文を書くには,よい研究を行い,その結果を適切にまとめる技術が必要である.よい研究とは,小さい精緻なテーマを掲げ,それを追究するのに必要かつ十分な分析を行っている研究である.研究は試行錯誤の連続であるが,試行錯誤の過程をそのまま書いたのでは論文にならない.論文は,単なる研究の記録ではなく,周到に準備された作品である.査読は,論文という作品を世に出すための関門であるが,最先端の研究に従事する研究者のみに許された専門的な討論の機会であって,査読者との匿名の討論を通して論文の完成度を高めることが期待されている.