「老年社会科学」 Vol.26-3

   

論文名

高齢者の施設適応度測定指標の開発;痴呆の程度と居室の個人化からの検討
著者名

佐々木心彩,羽生和紀,長嶋紀一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):289-295,2004
抄録 生活環境改善のためであっても環境の移行は高齢者にとって新環境への適応の大きなリスクをはらんでいる.このため,新しい環境への適応をうながす処置が望まれるが,とくに施設移行の際には自らの持ち物の持ち込み,環境を個人化(パーソナライズ)することが有効であるとされる.本研究ではこの新環境の個人化の観点から高齢者の新しい施設への適応程度の測定指標の開発を目的とし,新設された特別養護老人ホームの入居者32人を対象に調査を実施した.心理指標による評価とともに,個人化の程度を基に居室の分類を対応分析により行った.結果は,1)所有物の持ち込みが多いもののほうが環境への満足感は高い,2)対応分析のプロットでは第1軸に痴呆の程度が示される,3)痴呆が軽度の者のほうが多様な所有物の持ち込みがある,という傾向がみられた.これらのことから,居室の個人化の程度が新しい施設への適応程度の指標となる可能性が示された.

 

論文名

スピリチュアリティーの意味;若・中・高齢者の3世代比較による霊性・精神性についての分析
著者名

高橋正実,井出 訓

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):296-307,2004
抄録 本研究は,わが国の高齢者がスピリチュアリティー(精神性/霊性)をどのようにとらえているのかを明らかにすることを目的とした,世代間比較からの多変量分析による検討である.調査協力が得られた学生とその父母,祖父母の計154人を対象とし,9つのキーワード(宗教的,信念がある,知識がある,精神的/霊的,思いやりがある,知恵/叡智がある,超越的,苦難の経験がある,知識がある)を用いて,スピリチュアリティーの意味合いと宗教性とに関する質問を行った.若年群では「精神的/霊的,宗教的」という言葉が,存在意義的な意味合いが強いと考えられる「生きがいがある」「信念がある」と密接なつながりをもって示されたが,中・高齢群ではこの関係が薄れていった.また高齢群では「精神的/霊的」と「宗教的」の意味合いに距離がおかれ,「超越的」という言葉が「精神的/霊的,宗教的」のクラスターから分化する結果となった.これらのことは,わが国の高齢者がスピリチュアリティーと宗教性とを同一視せず,他の世代よりも具体的な概念としてとらえていることの結果であると考えられた.

 

論文名

日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版の作成;都市部の若年男性におけるエイジズムの測定
著者名

原田 謙,杉澤秀博,杉原陽子,山田嘉子,柴田 博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):308-319,2004
抄録 本研究は,都市部の若年男性におけるFraboniエイジズム尺度(Fraboni Scale of Ageism;FSA)の因子構造を検討し,本尺度の日本語短縮版を作成することを目的とした.データは,東京都の区市部および千葉県・神奈川県・埼玉県の市部に居住する25〜39歳の男性1,289人から得た.分析の結果,以下のような知見が得られた.| 1)検証的因子分析の結果,「誹謗(Antilocution)」「差別(Discrimination)」「回避(Avoidance)」という3因子19項目からなるFSA基本モデルの適合度は,統計学的な許容水準に達しなかった.15項目からなる修正モデルの適合度は許容水準を満たしたが,FSAを日本で用いる場合の内容的妥当性の問題が示唆された.| 2)日本語短縮版を作成するために,項目分析・探索的因子分析を行った結果,「嫌悪・差別」「回避」「誹謗」を表すと考えられる3因子が抽出された.検証的因子分析の結果,この3因子14項目からなる2次因子モデルが統計学的な許容水準を満たすことを確認した.また,本尺度は,十分な内的整合性を有していた.以上の結果は,日本語版FSA短縮版が,エイジズムの測定尺度として,一定の構成概念妥当性および信頼性を有していることを示している.

 

論文名

友人関係のジェンダー差;ライフコースの視点から
著者名

前 田 尚 子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):320-329,2004
抄録 本研究では,友人関係が形成された社会的文脈と継続期間の性差を明らかにし,これらの関係特性(社会的文脈と継続期間)が関係の機能に及ぼす影響の性差を分析する.分析対象は,岐阜市在住の55〜69歳の男女331人が取り結んでいる607の友人関係である.分析の結果,以下のような知見が得られた.〓友人関係の形成の文脈は女性のほうが多様である.〓友人関係の継続期間は男性のほうが長い.〓友人関係の文脈と機能の関連パターンには性差がある.男性の場合,主な機能は仕事を通じて形成された友人関係から引き出されているが,女性は機能の内容に応じてさまざまな文脈から機能を引き出している.〓関係の継続期間と機能の関連は男性のみに現れ,継続期間が長くなるほど情緒的機能を果たしていた.以上の知見は,ライフコースの性差の累積的な結果として説明された.

 

論文名

家族の痴呆介護実践力の構成要素と変化のプロセス;家族介護者16事例のインタビューを通して
著者名

宮 上 多加子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):330-339,2004
抄録 痴呆性高齢者を介護する家族の介護実践力を構成する要素と,介護実践力の変化のプロセスについて明らかにすることを目的として,痴呆性高齢者を介護する家族16事例の個別面接調査を行った.| 質的調査法に基づいてデータを分析した結果,家族の痴呆介護実践力の構成要素に関する15カテゴリーが見いだされた.カテゴリーには,生活や介護実践に属するものと,痴呆性高齢者との関係や介護者の認識に属するものがあり,これらのカテゴリー間には一定の関係があることが示された.家族の痴呆介護実践力は,介護の継続に伴って向上していたが,カテゴリーのなかには介護実践力の向上を阻む可能性のあるものも存在していた.また,介護実践力の変化のプロセス全体は4段階にまとめられた.| 家族介護者に対する支援としては,痴呆介護に関する情報や知識・技術の提供のほかに,介護者が痴呆性高齢者との新たな関係を築いていく過程を支援することが必要である.

 

論文名

肢体不自由障害をもつ高齢者の主観的幸福感;”参加”の影響に焦点をあてて
著者名

増 田 公 香

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):340-350,2004
抄録 本研究は,60歳以上の肢体不自由障害をもつ人々を対象に参加/社会的不利と主観的幸福感との関連性について分析し,先天的あるいはライフステージの早い段階から肢体不自由障害をもつ人々の高齢期における主観的幸福感を促進するために今後に必要とされる援助施策について検討することを本研究の目的とする.2001年に30歳以上の肢体不自由障害者3,200人に対し郵送によるアンケート調査を実施し,回答の得られた1,653人のうち60歳以上でPGCモラールスケールに有効な回答の得られた232名を本研究の対象とした.その結果,基本的属性は主観的幸福感に有意に影響していなかった.ADLレベルであるFIMスコアとR‐CHARTの作業項目が主観的幸福感に影響を与えていた.本研究結果より,肢体不自由障害をもつ高齢者では,ADLレベルに加え日常生活における作業活動への参加が影響を与えていることが確認された.本研究結果より,60歳以上の肢体不自由障害をもつ人々の主観的幸福感を促進するためには,ADLレベルの維持およびIT技術などを駆使しレクリエーション活動等を促進する援助施策が必要と考えられる.

 

論文名

社会老年学のあり方
著者名

柴 田   博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 26(3):351-358,2004
抄録 本論は,わが国における社会老年学の歴史をふり返り,社会科学においては経済学や法学の研究が乏しく,また人文分野(歴史,哲学,文学,宗教など)の貢献もほとんどなかったことを指摘している.本論はまた,老年社会科学会の名称変更も含め,今後の社会老年学のあり方にいくつかの提案を行っている
 

 論文名

痴呆の人に即したアセスメントツール;アセスメントの視点

著者名

六 角 僚 子

雑誌名
巻/号/頁/年

老年社会科学, 26(3):359-365,2004

抄録

2003年に厚生労働省老健局によって,これからの高齢者ケアのあり方を示した「2015年の高齢者介護」がとりまとめられた.そこに4本の柱が提示されているが,その1つに痴呆ケアをこれからの高齢者ケアの標準モデルとすることが示されている.このことを実現するため,アセスメント・ケアプランの標準化が必須となる.そこでは,チーム間のアセスメント視点の共通理解が重要となろう.そこで今回はこの指針に基づいたアセスメントの共通の視点として5つの点をあげ,視点の説明とそれに伴うアセスメント項目について提示していくことにする.