「老年社会科学」 Vol.25-3

   

論文名

インナーシティにおける後期高齢者のパーソナル・ネットワークと社会階層
著者名

原田 謙,浅川達人,斎藤 民,小林江里香,杉澤秀博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):291-301,2003
抄録 本研究は,インナーシティに居住する後期高齢者のパーソナル・ネットワークと社会階層(学歴,最長職の従業上の地位,所得,住宅階層)の関連を明らかにすることを目的とした.使用したデータは,東京都墨田区の75歳以上の在宅高齢者,合計618人より得られた.ネットワーク指標は,同居子・近居子の有無および親しい親族・友人数を用いた.分析の結果,以下のような知見が得られた.@都営住宅層および民間賃貸アパート層は,他の住宅階層に比べて,同居子がいる確率が低かった.自営業であった者は,雇用者に比べて近居子がいる確率が高く,異居近親関係を維持していた.A戸建持家層は,他の住宅階層に比べて,近距離親族・友人数が多く,緊密な近隣関係が示された.学歴は中遠距離友人数,所得は中遠距離親族・友人数の規定要因であり,これらの要因は,地理的に分散したネットワークを維持するために重要な資源であることが示唆された.

 

論文名

なぜことぶきの家に行かないのか?;都市部における老人福祉センターの非利用要因の分析
著者名

小林江里香,矢冨直美

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):302-314,2003
抄録 東京都内のある老人福祉センター「ことぶきの家」周辺に住む65歳以上の高齢者795人の面接調査を行い,施設の非利用にかかわる要因について検討した.クラスター分析により,非利用者は非利用の理由に基づいて多忙型,健康問題型,ニーズ不一致型,人間関係懸念型の4類型に分かれた.さらに,多項ロジスティック回帰分析により各非利用類型を利用者全体と比較した結果,非利用者は全般に利用者より若く,社会活動への参加が不活発な点では共通していたが,類型による違いもみられた:多忙型は主観的健康感が高く有職者が多い,健康問題型は移動能力が低い,ニーズ不一致型は高学歴で地域内の友人数が少ない,人間関係懸念型は独居者が多い,という違いである.このように非利用者は多様であり,老人福祉センターの利用を促進する必要性の有無や利用促進の方法は,非利用類型別に検討する必要があることが示された.

 

論文名

グループ回想法施行に伴うメンバー間交流の質的変化
著者名

菅 寛子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):315-324,2003
抄録 本論文の目的は,地域在住高齢者に対してグループ回想法を実施し,その効果をセッション進行プロセスにおける対人関係の質的変化から明らかにすることにある.対象者は,老人福祉センターを利用している高齢者6人(男性2人,女性4人),平均年齢70.5歳(SD=6.8,年齢幅62〜80歳)であった.セッション内およびセッション外の場それぞれにおけるメンバー間交流の変化を詳細に分析した.とくに,質的変化の指標として会話コミュニケーションに注目した.分析の結果,セッションの進行に伴い,セッション内・外において,メンバー間交流が発生・展開していくようすが明らかになった.ポジティヴな変化をもたらす要因として,セッション内における,他のメンバーとの積極的なやりとりが指摘され,またそこで共有体験が語られることの意味が見いだされた.さらに,地域在住高齢者を対象とした回想法の効果について考察した.

 

論文名

訪問介護の質を測る利用者満足度尺度案の開発;ヘルパーと利用者の援助関係を基本要素として
著者名

須加美明

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):325-338,2003
抄録 訪問介護の質を評価する信頼性と妥当性が検討された満足度尺度の開発を目的として,測定モデルをつくり調査を行った.A市社協(調査1)とB市社協(調査2)で訪問介護を利用する高齢者全員と65歳未満の介護保険該当者を対象として,26の評価項目で調査を行い,調査1(回収率79%)から185件,調査2(回収率81%)から604件を分析データとした.調査1の本人回答(n=137)をもとに15項目を「利用者による訪問介護評価尺度案」と名づけ信頼性と妥当性を検討した.信頼性ではCronbachのαは.90で十分なことが確かめられた.妥当性は,尺度15項目について主成分分析(バリマックス回転)を行ったところ,2因子が抽出され,訪問介護員の基本的な態度を表す因子(寄与率31.9%),利用者の意向をくみ取る因子(寄与率24.1%)とよべることが分かり,援助関係と密接に関連する内容を測定していると考えられた.調査2の本人データ(n=419)で主成分分析をした結果,因子構造が同じになり,尺度の当てはまりのよさが示された.2調査は同一県内地方都市のため,都市部において尺度案を適用し交差妥当性を確かめることが次の課題である.

 

論文名

高齢者の虐待について;アメリカと日本の取り組みの現状
著者名

多々良紀夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):339-348,2003
抄録 アメリカで,高齢者虐待が「発見」されたのは,連邦議会がドメスティック・バイオレンスに関する公聴会を開いた1978年2月であった.一方,日本で高齢者虐待が「発見」されたのは,研究書『老人虐待』が出版された1987年であったといってよい.アメリカにおいては,高齢者虐待が発見されたときには,すでに児童虐待防止に関する連邦法も州法(児童保護サービス法またはCPS法)も確立されていて,ドメスティック・バイオレンスへの取組みの法制化が進んでいた.州議会は,APS法(成人保護サービス法)を通過させて,すばやく高齢者虐待へ対応したが,連邦議会は,1992年まで高齢者虐待防止法を成立させなかった.日本においては,これまでに児童虐待防止法もドメスティック・バイオレンス防止法も成立させているが,政府も一般市民も高齢者虐待防止に関しては,対応が遅かった.最近,法制化に向けて政府の動きが活発になってはいるが,現時点においては,いつ,高齢者虐待防止法が制定されるのか分からない.

 

論文名

高齢者・障害者専用のSTサービスの現状と将来展望
著者名

秋山哲男

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):349-359,2003
抄録  本論文は,わが国と欧米の障害者・高齢者の交通対策の動向を整理したうえで高齢者・障害者専用の交通手段(STサービス)について論じたものである.
前半は基本的な情報として,STサービスの対象者である移動困難者の数,および,モビリティの保障を論じ,さらにわが国のSTサービスの歴史的経緯,主として自由な目的の交通サービスを提供してきたNPO・ボランティア団体の動向を車両,補助,中心に整理した。
後半は,わが国の最近の重要な動きである構造改革特別区域法のSTサービスと道路運送法80条(白タク行為との関連),および,介護保険の紹介を示した。しかし,これらの方向は必ずしも日本の将来の望ましい姿ではなく,あくまで現実的な対処の結果である。将来を展望するうえで,わが国と全く異なる欧米諸国のうち,行政ベースで進めている人権尊重のスウェーデンとボランティアを生かしつつも行政も一定程度の役割を果たしているイギリスの2つの事例を紹介した。

 

論文名

痴呆性高齢者の介護家族会の現状と課題;社団法人 呆け老人をかかえる家族の会の場合
著者名

三宅貴夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(3):360-366,2003
抄録  わが国の高齢社会において痴呆性高齢者の課題に対して多領域からの取組みが欠かせない.そのなかで介護家族の役割も重要である.介護家族による家族会は各地でさまざまな形で活動している.この介護家族会のなかで痴呆性高齢者にかかわる唯一の全国的な民間団体として20年余活動を続けてきた「社団法人呆け老人をかかえる家族の会」は特異な存在である.本論では痴呆性高齢者の家族会の一例としてこの団体の歴史と現状と課題について論じた.活動と会員数と財務との循環関係,「家族の会」と他関係団体との連携の必要性,活動の量と質の向上に向けた組識強化などについて述べた.