「老年社会科学」 Vol.24-3

   

論文名

わが国の老年精神医学;その歩みと現状
著者名

柄澤昭秀

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,24(3):301-306,2002
抄録 老年精神医学が精神医学の一領域として認知されるようになったのは1960年ごろである.その歴史はまだ浅いが1970年代に入って急速に発展し,その進歩は1980年以降とくに顕著である.現在もなお発展の途上にあるが,その専門性はほぼ確立された.その発展の背景に老人人口の増加に伴う老人精神障害者の増加,とくに痴呆患者の増加があったことはいうまでもない.事実,最近の痴呆臨床研究の進歩には老年精神医学が大きく貢献している.老年精神医学は老年学,医学一般,脳科学,心理学,社会学,社会福祉学,法学などさまざまな専門領域との接点があり,わが国では以前から老年社会科学会と密接な関係があった.今後,近接領域との連係はますます重要性を増すであろう.本稿においては,わが国の老年精神医学発展の歩みを概観するとともに,老年精神医学の専門性について論じ,さらに近年この領域で得られた主な研究成果について紹介した.

 

論文名 阪神・淡路大震災その後;8年目の高齢者からみえてくること
著者名 藤田綾子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,24(3):307-310,2002
抄録 「阪神・淡路大震災」は「高齢社会型災害」であったといわれるが,犠牲者に高齢者が多かったのがその理由の1つであった.さらに,復興感について7年後のデータをみると,若い世代よりも「復興感」は低く,高齢者は被害を受けただけでなく復興も遅れ,「社会的弱者から,さらなる社会的弱者へ」と向かったことが明らかになった.復興感の心理的プロセスについて,ロムは,〈英雄期〉〈ハネムーン期〉〈幻滅期〉をたどって数年後には〈再建期〉にたどり着くという仮説を提示しているが,高齢者の場合は〈硬直期〉〈連帯感の共有期〉〈絶望期〉〈引きこもり期〉を経て〈再建期〉というプロセスをたどり,現時点では若い世代がすでに〈再建〉に向けて挑戦しているのに対して,高齢者は〈引きこもり〉の時期にある.今後,〈再建〉に向かうためには,移動する人々で構成する「マチ」の地域のネットワークを女性高齢者を中心に形成していくことが1つの切り口になっていくのではないかということを提案した.

 

論文名 施設建替えにおけるケアスタッフの職場適応過程に関する研究
著者名 鈴木聖子,狩野徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,24(3):311-318,2002
抄録 本研究は,施設建替えによる職場環境の変化に対応するケアスタッフの適応過程に関する継続研究の一段階に位置づけるモデルスタディである.施設建替えが行われた特別養護老人ホームにおいて,建替え前,建替え後3か月,1年,1年6か月の4回にわたる調査すべてに回答が得られた15名のケアスタッフを分析対象とした.その結果,ケアスタッフの適応状況は,バーンアウトの推移により把握することができた.適応者は,建替え後およそ3か月から確認でき,1年で適応者,不適応者が明らかになることから,建替え前から建替え後3か月までのケアスタッフに対する意図的な関わりの重要性が示された.また,施設建替えにおけるケアスタッフの適応要因として,ハーディネス(性格特性),仕事のコントロールが示唆された.

 

論文名 都市男性高齢者における社会関係の形成;「知り合ったきかっけ」と「その後の経過」
著者名 矢部拓也,西村昌紀,浅川達人,安藤孝敏,古谷野亘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,24(3):319-326,2002
抄録 大都市に居住する60〜79歳の男性高齢者を対象に,社会関係の形成について検討した.調査対象者には,同居家族と別居子・別居子の配偶者以外で「おつき合いのある方」を最大15人まであげることを求め,その1人ひとりについて,「知り合ったきっかけ」と「その後の経過」をたずねた.この手続きにより,754人の回答者と3,568人の他者との間の社会関係の形成に関する情報を得た.「知り合ったきっかけ」でもっとも多かったのは「職場・仕事を通じて」であり,以下「同じ学校」「兄弟姉妹・親戚」の順であった.他者の半数には関係の重複,すなわち知り合ったのちに,知り合った契機とは別の関係の重なりが認められ,社会関係の形成に対する関係の重複の寄与が示唆された.趣味の活動や飲食店等の常連であることは,社会関係の発生の契機としてよりも,関係継続の契機として重要であると考えられた.