「老年社会科学」 Vol.23-3

   

論文名


わが国の高齢者ケアにおける看護と介護の近未来

著者名

中島紀恵子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 299-304, 2001
抄録
「看護職」と「介護福祉職」はプライマリヘルスケアの理念と戦略のもとで輝くべくして輝き始めた専門職能である.この職能は「ケアする」ことなくしては成り立たないが,ケアには,臨床的/技術レベル,制度/政策レベル,哲学/思想レベルの3つの要素がある.1970年代後半から今日にかけて看護職は,哲学/思想レベルにおける自立性への回復と制度/政策レベルにおける意思決定機能の復権にエンパワメントを発揮できる職能集団を志向した組織的な取り組みと,教育の高度化に深い関心をもってきた.これは先進的諸国に共通する流れである.これに対し,わが国の「介護福祉職」は,専門職能としての歴史をその職能のなかに見出すことはむずかしい.「介護」のルーツは法制度にみることができるが,これには2つの流れがある.1つは傷痍軍人を中心とする家族介護保障であり,ほかの1つは救護法以降の社会福祉制度の流れである.「介護」は常に制度/政策レベル優先性の側面が強い.「介護保険法」以降は,高齢者に関するすべての医療職・社会福祉職を包摂して介護人材と総称するようになり,業務のみならず教育においてさえもある種の規制が加えられるようになった.これを積極的に受け止め,職能の質を高めるための大学教育のあり方を提案する.

 

論文名


21世紀の高齢者「ケア」を問う−介護保険制度の点検−;地域福祉の視点から

著者名

大橋謙策

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 307-312, 2001
抄録
介護保険制度は,医療保険財政の赤字対策と「介護の社会化」の2つの側面から検討され,設計されたといわれる.その制度実施は,地方分権,ケアマネジメントの導入,要介護認定のアセスメント法等社会福祉における民主主義を多様に問うたものであった. 介護保険制度の検証を行うにあたっては,医療保険,地域保健との総合性と関連性があらためて問われ,日本の社会保障制度全体の制度設計とのかかわりで論議しなければならない点が多い.また,「介護の社会化」の側面でいえば,介護サービス利用の普遍性は大いに高まり,評価できるが,一方で低所得者層の高齢者の要介護出現率が他の階層に比べ高いにもかかわらず低所得者層の高齢者の介護利用率が低いという問題や,あるいは介護の緊急性が高いにもかかわらず介護サービスを利用できない矛盾が現れてきている. そのようななかで,市町村ごとに医療・保健・福祉のトータルケアシステムを対人援助のうえからも,財源の効率的運用のうえからもどう作るかが今後大きな課題になる.まして,社会福祉法の理念である地域での自立生活支援をより推進するためにはコミュニティソーシャルワークという視点からのケアマネジメントを手段として活用したソーシャルワーク実践が展開される必要がある.

 

論文名


21世紀の高齢者「ケア」を問う−介護保険制度の点検−;利用者本位の視点から

著者名

袖井孝子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 313-318, 2001
抄録
戦後半世紀あまりを経て,わが国の社会福祉は,措置から契約へ,「弱者保護」から「自立支援」へ,「与えられる福祉」から「選ぶ福祉」へと大きく変貌を遂げつつある.基本的に,それは「利用者本位」の福祉サービスを提供することである.2000年4月から発足した介護保険制度は,どこまで「利用者本位」を実現しているのだろうか.多様な選択肢のなかからの自己選択と自己決定,利用者本位のケアプラン,利用者の権利擁護のいずれもが,今のところは,実現されてはいない.「利用者本位」の高齢者ケアを実現するためには,第1に高齢者自身がなにを求めているのかを正確に把握しなければならない.第2は,ケアマネジャーの業務の整理と質の向上である.そして,第3に,高齢者が自己決定能力を身につけられるよう,情報の提供と重要事項の説明が必要であるし,将来の利用者に対する教育も欠かせないだろう.

 

論文名


21世紀の高齢者「ケア」を問う−介護保険制度の点検−;医療経済学と医療政策研究の視点から

著者名

二木立

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 319-324, 2001
抄録
介護保険制度が導入されて早くも1年2か月が経過した.厚生労働省サイドは「順調な滑り出し」を強調しているが,現場ではさまざまな混乱・困難が生じている.本稿では,介護保険開始前に語られていた,@老人医療費を大幅に削減できる,A高齢者介護は施設ケアから在宅ケアにシフトする,B民間事業者(介護ビジネス)が介護サービス事業者の主役になるという3つの夢や目的が実現したか否かを点検し,それを踏まえ,介護保険の改革課題について簡単に述べる.@の老人医療費の削減については,目標の半分ほどしか達成されていない.Aの在宅ケアへのシフトについても,在宅サービスの利用は低調であり,特別養護老人ホームへの入所待ちが急増している.Bの民間事業者についてみると,全国に事業所を急展開した大手事業者はすぐに事業を縮小し,そのシェアも激減しており,「主役」は多角経営を行う「保健・医療・福祉複合体」となっている. 上記を踏まえた筆者の考える介護保険の当面の改革課題は,@低所得者の利用料・保険料の減免制度の法定化,A要介護認定システムの廃止(もしそれを残すなら現金給付を制度化),B介護保険の適用範囲を高齢障害者から全年齢(少なくとも40歳以上)にする,の3点である.しかし,長期的には,社会保険方式を廃止して公費負担方式に転換するなどの抜本改革が必要になると考える.

 

論文名


21世紀の高齢者「ケア」を問う−介護保険制度の点検−;看護・介護・ケアマネジメントの視点から

著者名

山崎摩耶

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 325-330, 2001
抄録
2000年度から全国3,200区市町村で一斉にスタートした介護保険制度は,1年を経過していくつかの制度的課題も現場から指摘されている.利用者サイドからはサービス量が増え利用しやすくなったという評価がある一方で,支給限度額に対する平均利用率約443%の実績からは利用料負担や制度の浸透不足が伺われ,結果として家族介護負担が軽減されていないことが示されている.看護・介護・ケアマネジメントの視点で1年を総括すると,新制度で「連携」が推進されてきたといえよう.訪問看護ステーションと訪問介護事業所の連携・協動についての調査結果では,ケアマネジャーへの役割期待が大きいが,現状ではケアマネジャーの力量不足は否めない.医療を含めた多様なニーズに対応できる質向上やトレーニングが課題となろう.また介護保険による地域全体のマネジメントの変化では,「市町村における在宅ケア推進上の改善点」として,「在宅ケア支援病床の不足」「訪問診療をする医師の不足」「居宅改善費用・改善事業者の不足」「介護職の不足」「地域の基盤整備の問題」などがあげられていた.今後の課題では,@ケアマネジメントの本格化,A自立支援とケアプランの問題,B支給限度額の設定の問題と利用料負担の検討,C在宅ケアの利用拡充と家族支援,D在宅ケアと施設ケアの連携および介護と医療の連携,Eサービスの標準化と質保証,F介護報酬の検討,等をあげておきたい.高齢者ケア全般では,痴呆のケアと終末期ケアが大きな,かつ急がれるテーマであろう.

 

論文名


医師の立場からみた介護保険の主治医意見書の問題点

著者名

亀光則,谷野隆三郎,大久保吉修,須藤宣弘,山口康夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 331-339, 2001
抄録
介護保険制度下における主治医意見書の問題点を明らかにする目的で,東海大学病院勤務医と秦野伊勢原医師会員に対しアンケート調査を行った.調査対象は203人でありそのうち10通以上の主治医意見書を記載したことがある59人を解析対象とした.主治医意見書の記載や訪問診療は特定の医師の大きな負担が推定されることや,主治医意見書には“介護の予後”“痴呆度”“症状安定性”“医学的管理”“寝たきり度”“身体の状態”など主治医であっても記載が困難な項目が多いことが判明した.今後はますます少子高齢化が進むと予測されており,多くの医師が高齢者医療ならびに介護保険への実践的な協力を果たす必要があろう.また介護は「日常性」で捉えることが必要であるが,外来通院日にはその「日常性」が失われ在宅における対象者の生活像が見えていない主治医も多いことが推測された.また利用者の要介護度やケアプランの結果について主治医は知りたいと希望しており何らかの対策が望まれる.

 

論文名


地域住民を対象とした老年期痴呆に関する意識調査

著者名

本間昭

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 3 ) : 340-351, 2001
抄録
首都圏および大阪市,仙台市に居住する1,115人の一般住民を対象に,老年期痴呆について認識の状況等の把握を目的とした調査を実施した.その結果,老年期の痴呆を病気と考えている者は半数強にとどまることが示された.また,わが国で発売されて2年近くになる抗痴呆薬を知っているという回答が2割前後にとどまり,アルツハイマー型痴呆の早期発見・治療により進行を遅らせる場合があると回答したものが4割に満たないなど,痴呆に対する諦観的な姿勢が目立った.さらに,老年期痴呆に関するおもな情報源はテレビであったが,いざというときの相談先は配偶者とかかりつけ医が双璧であったが,身近な人の痴呆症状の相談先としてサービス提供機関がほとんど利用されていないなど,痴呆性高齢者を取り巻く地域医療システムの今後を考えるうえでの示唆を得た.