「老年社会科学」 Vol.22-1

   

論文名


高齢者の生涯学習をめぐる課題と展望

著者名

堀薫夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 7-11, 2000
抄録
高齢者の生涯学習をめぐる理論的課題を,ポジティヴ・エイジング,ナラティヴ,フローという3つのキーワードから考察した。それぞれが,老年観,研究方法論,学習観に対応しているものと考え,従来の視点との対比を行った。エイジングのポジティヴな側面の摘出,高齢者の経験と物語の意味づけ,環境と一体化しうる自己目的的学習が提起されている。また高齢者によく学ばれる学習内容をささえているポイントとして,時間的つながりへの学習,土の教育力,超越の視点という点を試論的に示してみた。

 

論文名


東アジア諸国の人口高齢化と関連する諸問題

著者名

嵯峨座晴夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 12-18, 2000
抄録
ヨーロッパに起こった近代化は,多産多死の人口動態を少産少死のそれへと変化させた。そのことがヨーロッパに人口高齢化を引き起こすことになった。人口高齢化の波は,次いでアメリカ,日本に及び,現在では東アジアの中国,香港,韓国,台湾に至り,さらに東南アジアの国々にまで及ぼうとしている。本論の前半では,人口高齢化を文明史的な視点からとらえ,東アジア諸国の人口高齢化の現状と将来を概観する。後半では,高齢化の帰結,すなわち高齢化がもたらす諸問題に焦点を当て,それらの問題を大きく4つに分類し,それぞれの東アジア的な特質について考察する。最後に,日本を含めた東アジア諸国が今後取り組むべき高齢化対策の課題を明らかにする。

 

論文名


SD法による青年,中年,老年のセクシュアリティについての評価

著者名

佐々木直美,小川栄一,柿木昇治

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 19-25, 2000
抄録
本研究は,青年・中年・老年群を対象とし,自己および他の2群のセクシュアリティに関する評価を調査し,検討したものである。被験者は263人(青年群100人,中年群81人,老年群82人)であり,質問票は年代別に性イメージを評価するためにSD10項目を用いた。その結果,性イメージは加齢にともない「消極的」「弱い」などといった行動面に関する項目によって否定的な評価がなされていた。反面,加齢にともなう活動性の衰えにより,老年の性イメージは「上品」「あたたかい」とみなされた。また,老年自身は自らの性イメージを活動性を含め,肯定的に評価していることが示された。

 

論文名


中高齢知的障害者の機能的体力について;AAHPERD式機能的体力テスト,筋力,単純反応時間および開眼片足立ちによる検討

著者名

島田博祐,渡辺勧持,谷口幸一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 26-36, 2000
抄録
本研究の目的は,在宅介護支援センターで行われているケアマネジメントの実践が概念的モデルと比較してどのようなプロセスになっているかを明らかにすることである。研究方法は,郵送による自記式質問紙を用いた横断的調査法であり,そのサンプルは,全国の在宅介護支援センターから無作為に抽出された職員である。調査項目は,ケアマネジメント実践のプロセスに基づいた援助行動や基礎属性である.有効回収率は68.8% (2,064票)であった。調査・分析の結果,フォーマルサービスに関する援助行動とインフォーマルな社会資源に関する援助行動が別要因として抽出された。さらに,ケアマネジメント研修やサービス調整チームへ参加した職員の実践の程度は高く,また経験を重ねた職員の実践の程度も高いことが明らかとなった。

 

論文名


中高年期における職業生活からの完全な引退と失業への心理的適応プロセス

著者名

中里克治,下仲順子,河合千恵子,石原治,権藤恭之,稲垣宏樹

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 37-45, 2000
抄録
本研究の目的は,日本の中高年者における職業からの完全な引退と失業に対する適応の違いを検討することである。対象者は東京都老人総合研究所特別研究プロジェクト「中年からの老化予防総合的長期追跡研究(TMIG-LISA)」の板橋サンプル(N=3,097,年齢範囲:50〜74歳)からとった男女1,864人である。5年間の適応過程を検討したところ,体験前後の適応には違いが認められた。完全引退群では精神的健康にほとんど影響が認められなかったが,失業群では体験前に1度悪化し経験後は回復するものの,その後は体験前の水準よりもさらに精神的健康は悪くなっていた。以上の結果は検討した期間内についてはNeugartenのヤング・オールド論と一致するように思われるが,さらなる検討が必要である。

 

論文名


特別養護老人ホーム介護職員におけるバーンアウト尺度の因子モデルの検討

著者名

原田和宏,齋藤圭介,布元義人,香川幸次郎,中嶋和夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 46-58, 2000
抄録
本研究は,ヒューマン・ケア専門職者を対象とするバーンアウトの尺度開発に関する指針を得ることをねらいとして,MaslachとJacksonのバーンアウト尺度(Maslach Burnout Inventory;MBI)をとりあげ,その因子モデルの適合度を特別養護老人ホーム職員のデータを用いて検討した。調査対象は岡山県内の特別養護老人ホームに勤務するすべての介護職員とし,調査は施設への留置法で実施した.回収された1,445人分の調査票のうち,基本属性とMBI項目に欠損値を有さない女性1,006人の資料を分析に用いた.欧米での確証的因子分析結果に従い,「情緒的疲弊」(Emotional Exhaustion;EE)と「離人化」(Depersonalization;DP)と「自己成就」(Personal Accomplishment;PA)の3因子22項目からなるMBI仮定モデルと9つの改訂モデルの合計10個の因子モデル(いずれも3因子斜交モデル)の適合度の検定を行った。MBI仮定モデルの適合度は統計学的な許容水準に達しなかった。改訂モデルの適合度は許容水準をほぼ満たし,そのうち暫定的に本邦の介護職員に適用できるモデルが存在することが示された。しかし因子間相関の検定によりMBIは「EE」「DP」および「PA」の3因子斜交モデルが強く支持できないことが確認され,因子間の関連性については慎重な検討が必要であることが示唆された。

 

論文名


在宅介護支援センター職員のケアマネジメント実践;ケアマネジメントプロセスに基づいた援助行動の内容

著者名

畑智恵美,岡田進一,小澤温,白澤政和

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 59-71, 2000
抄録
本研究の目的は,在宅介護支援センターで行われているケアマネジメントの実践が概念的モデルと比較してどのようなプロセスになっているかを明らかにすることである。研究方法は,郵送による自記式質問紙を用いた横断的調査法であり,そのサンプルは,全国の在宅介護支援センターから無作為に抽出された職員である.調査項目は,ケアマネジメント実践のプロセスに基づいた援助行動や基礎属性である.有効回収率は68.8% (2,064票)であった。調査・分析の結果,フォーマルサービスに関する援助行動とインフォーマルな社会資源に関する援助行動が別要因として抽出された。さらに,ケアマネジメント研修やサービス調整チームへ参加した職員の実践の程度は高く,また経験を重ねた職員の実践の程度も高いことが明らかとなった。

 

論文名


高齢者の活動状況および生活意識にみる地域差

著者名

水戸美津子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 72-82, 2000
抄録
本研究は高齢者の活動状況と生活意識にみられる地域差を検出することにより,高齢者保健活動および地域活動促進のための基礎資料とすることを目的とした。調査方法は質問紙による留置法であり,対象は上越市内3地域の老人クラブ加入の65歳以上の者で,分析対象者は381人であった.その結果,以下のことが明らかとなった。@3地域間で年齢,居住年数,同居形態,対象者の健康度について有意差があった。A「日常生活行動」は3地域間で有意差があり,B地域の者の肯定回答の割合が最も多く,「外出頻度」の割合もB地域で最も多かった。B生活意識では,日常生活で感じる不安,自分が役に立っていると感じること,価値意識,子どもとの関係意識に3地域間で有意な差があった.しかし,生活満足度と生きがい感については有意な差はなかった。

 

論文名


都市男性高齢者の社会関係

著者名

古谷野亘,西村昌記,安藤孝敏,浅川達人,堀田陽一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 22 ( 1 ) : 83-88, 2000
抄録
大都市に居住する60〜79歳の男性の社会関係について検討した。調査対象者には,同居家族と別居子・別居子の配偶者以外で「おつきあいのある方」を最大15人まであげることを求め,その一人ひとりについて,基本属性と交流の経緯,現在の交流の態様を尋ねた。この手続きにより,766人の回答者から,3,590人の他者との関係に関する情報を得た。回答者があげた他者のほとんどは同性の友人で,同年輩が多かった。他者の多くは「共通の話題」のある人,「気心の知れた」人であり,情緒的な交流では子どもや子どもの配偶者と同等もしくはそれ以上の位置にあった。これは,他者の多くが,職場や学校で知り合った後,長い交流の歴史をもつ人々であったことによる。交流のある他者の数を従属変数とする重回帰分析の結果,生活機能と学歴の有意な正の関連が認められた。