「老年社会科学」 Vol.20-1

   

論文名


老いと文化;老衰のケア的解釈をめぐって

著者名

木下康仁

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 9-15, 1998
抄録
老いと文化に関する研究は領域としては1970年代に定着したが,本稿ではその初期の特性を概観したうえで,「文化」概念が老いとケアの現象の理解に向けて,研究と実践に共通するパースペクティブの確立に有効ではないかという問題を考察した。まず,「老いの文化」と「老いと文化」の相違を立場的に整理し,高齢社会においては後者が重要であることを論じた。次いで,老いがなぜ新たに発見されるべきものとなったのか,その背景を近代的人間観と近代的専門性の特性から説明している。そして,老いの自然的プロセスの回復により,老衰と死という当事者にとって最も非合理な部分をもケア的に統合していくことの重要性を指摘し,個人における非合理性を儀礼により共同現象とすることで合理化していく文化概念の特性,すなわち,癒しが,ケアの場においていかなるかたちを取るのかを提示した。最後に,今後,検討に値すると思われるテーマをいくつか例示した。

 

論文名


高齢社会における訪問看護の役割と課題;効果的な在宅ケアの提供を目指して

著者名

村嶋幸代

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 16-24, 1998
抄録
訪問看護は日本では1970年以降急速に発達してきた新しい分野である.本稿では「地域ケアシステムの整備」「看護技術の提供」「ケアマネジメント」の3側面について,今まで看護職が担ってきた役割の一端を述べ,公的介護保険の施行を控えた現在の課題を示した.その課題とは,@看護職が24時間,直接ケアを提供できるような体制の整備,A地域ケアシステム構築の方法論の明確化(保健婦の地域づくりとしての活動を含む),B看護と介護を同一ケアプランで提供する体制の整備,C訪問看護の意味の抽出,D看護必要度の明示・スケール開発,E自立支援に向けての方法論の開拓と他職種との共有,Fケアマネジメントへの積極的参入である.
 公的介護保険は多々問題はあるが,専門職が高齢者に直接ケアを提供し,自立を促す援助ができるチャンスでもある.また,家族の介護負担を軽減し,真に家族らしい役割が果たせるようにするチャンスでもある.看護はこの分野の実績を積み重ねてきており,今後も積極的にかかわっていきたい.

 

論文名


在宅高齢者の主観的時間に関する研究;性,年齢,日常生活自立度との検討

著者名

河野あゆみ,金川克子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 25-31, 1998
抄録
本研究の目的は,健康老人と虚弱老人の主観的時間の比較から在宅高齢者の主観的時間の特徴を明らかにし,性,年齢,日常生活自立度と主観的時間に関連があるかを検討することである。対象は,健康老人82人および在宅虚弱老人54人である。Time Experiences Scaleを一部改訂し,「時間感覚」「時間の価値」「未来指向性」「過去指向性」から構成される質問紙にて主観的時間を測定した。その結果,性別によって主観的時間に違いは認められなかった。年齢は「時間の価値」にのみ独立に寄与していた.それに対し,日常生活自立度は「時間感覚」「時間の価値」「未来指向性」に独立に寄与していた。「過去指向性」のみがいずれの因子とも関連がみられなかった。「時間感覚」「時間の価値」「未来指向性」をあまり意識しないことは日常生活自立度が低い虚弱老人の特徴であることが示され,今後,虚弱老人に援助提供をする際の対象理解に役立つと考えられた。

 

論文名


孫の誕生とその心理的影響

著者名

河合千恵子,下仲順子,中里克治,石原治,権藤恭之

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 32-41, 1998
抄録
50〜74歳までの男女3,097人を対象に,1991年に開始された縦断調査を分析し,孫の誕生が中高年の祖父母にどのように認識され,主観的健康感,親子関係満足度,老いに対する態度,自尊感情にどのような影響を及ぼしているかについて検討した。第1回調査では349人が孫の誕生を体験し,そのほとんどがそのことを肯定的に評価していた。孫の誕生に対する肯定的な評価については親子関係満足度の高さが関連していた。孫の誕生の前年から3年間にわたる縦断比較の結果は,主観的健康感が孫の誕生後は好転したことを示した。親子関係満足度と老いに対する態度は,女性では孫の誕生後に上昇を示し,男性では孫が誕生する前年に高得点を示していたが,孫の誕生後は低下した.自尊感情については,孫の誕生後は低下したが,その翌年には回復の傾向を示した。孫の誕生は中高年の祖父母に好ましい影響を与えていることが判明した。

 

論文名


ADL・IADLからみた日常生活自立度判定基準

著者名

石橋智昭,西村昌記,山田ゆかり,若林健市,古谷野亘

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 42-49, 1998
抄録
総合的な生活機能の指標として用いられることの多い「障害老人の日常生活自立度判定基準」とADL・IADLの自立性によって表される生活機能との関連について検討した。調査は,東京都世田谷区に居住する70歳代の在宅高齢者1,600人を対象として訪問面接法により実施し,1,068人より回答を得た.生活機能は,食事,排泄などのADL8項目と,電話,買い物などのIADL8項目によって測定し,「自立」「IADL障害」「ADL障害」の3水準に分類した.ADLの障害を有しIADLが自立している者はいなかった。ADL・IADLの自立性によって表される生活機能と日常生活自立度判定基準の間には強い正の関連性が認められた。しかし,「ADL障害」に分類された55人のうち16人は,日常生活自立度判定基準では「生活自立」とされており,その大半は階段昇降に障害のある者であった。また,IADLの障害を有する者のほとんどは日常生活自立度判定基準では生活自立となり,同基準ではIADLの障害のみを有する高齢者を識別できないことが示された。

 

論文名


ケアマネジメント専門性評価モデル思案の妥当性と信頼性および社会福祉士の自己評価の特徴

著者名

安梅勅江,片山秀史,原田亮子,島田千穂,河西敏幸,呉栽喜,片山優子,高山忠雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 50-60, 1998
抄録
社会福祉士を対象に,保健福祉専門職が共有化可能なケアマネジメント専門性評価モデル試案の妥当性と信頼性を検討するとともに,自己評価,専門性に対する意識特性を明らかにすることを目的とした。対象は,144人の社会福祉士,および比較としてのその他の保健福祉関連専門職988人であり,調査は郵送法を用いた。その結果,(1)保健福祉専門職の共通基盤としてのケアマネジメント該当項目として,本試案項目の必要性に対する社会福祉士の認識が,3項目を除き,90%以上と高いこと,(2)本試案が,クラスター分析による構造の内容的妥当性が得られること,(3)各領域におけるクロンバッハα係数は0.95以上であり,内的整合性が高く,信頼性の高いこと,また,(4)社会福祉士は社会資源の調整に関する自己評価が高い傾向がみられたものの,専門職種間の自己評価に有意差のみられた項目は全般的に少なく,本試案項目が職種にかかわらず共有できるものである可能性が示唆された。

 

論文名


IADLの自立と遂行(1);能力と遂行の乖離

著者名

山田ゆかり,石橋智昭,西村昌記,若林健市,古谷野亘

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 20 ( 1 ) : 61-66, 1998
抄録
手段的日常生活動作の自立性(できる)と実際の遂行状況(している)の間には乖離のあることが指摘されている。本研究の目的は,その乖離の実態を明らかにすることにあった。調査は,東京都世田谷区に居住する70歳代の在宅高齢者1,600人を対象として訪問面接法により実施され,1,082人より回答を得た。食事の支度,掃除,洗濯,日用品の買い物,預貯金の管理,服薬のそれぞれについて,能力と遂行の両方を尋ねた。「できる」と回答した女性はその大部分が「自分でほとんどしている」と回答したが,男性では,「できる」にもかかわらず「自分ではほとんどしていない」者が多かった。IADLの能力と遂行の乖離は,女性より男性で大きく,男性ではとくに家事に関連する項目で乖離が大きかった。