「老年社会科学」 Vol.18-1

   

論文名


健康教室参加高齢者の自己開示の活動継続年数による変化とその関連要因

著者名

青木邦男

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 11-22, 1996
抄録
高齢者健康指導教室の参加者253人(男性94人,女性159人)を対象に自己開示度とそれに関連する要因を留置法による質問紙調査で調べた.その結果,以下のことが明らかになった.
(1) 長期活動集団(2〜10年未満)の自己開示では,おおむね社会的関心の開示で開示度が低く,趣味・関心の開示,個人的問題の開示,期待・評価の開示で開示度が高い.
(2) 因子別に,性と活動継続年数を要因として,自己開示の活動継続年数による変化を分散分析した結果,4因子のすべてに活動継続年数の主効果があり,期待・評価の開示以外の3因子において性と活動継続年数の交互作用がみられた.
(3) 自己開示の開示度に関連する要因を5%有意水準をめどにした変数増減法による重回帰分析で検討した結果,「ADL・知的能動性」「PGC-M・老いについての態度」「活動継続年数」の3要因が抽出された.すなわち,活動継続年数が長いほど,ADL・知的能動性はノーマルであるほど,そしてPGC-M・老いについての態度では満足度が高いほど,開示度が高い.

 

論文名


未婚女性教員の定年退職と老後;否定的通念の検討

著者名

高橋久美子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 23-31, 1996
抄録
未婚女性の定年退職と老後の生活についての否定的な社会通念を仮説としてとらえ,その妥当性を検討するために調査を行った.以下のような4項目の仮説をたてた.(1)未婚女性は定年退職による役割の喪失感が強い.(2)未婚女性は退職後は地域社会から孤立した状況にある.(3)未婚女性は老後の生活において孤独で将来への不安感が強い.(4)未婚女性は過去の人生に満足していない者が多い.福岡市とその周辺に居住する教員退職者のなかから,30年以上勤務し,55歳以上で退職した者を調査対象に選んだ.分析に用いたサンプルは,未婚女性44人,子どもがいる有配偶女性163人,子どもがいる有配偶男性279人ある.仮説の検証は,子どもがいる有配偶の女性や男性と未婚女性を比較することによって行った.分析の結果,統計的に有意な差は見出せなかった.有配偶女性だけでなく未婚女性も,そして男性も,多くの者が仕事からの引退を解放感と達成感をもって受けとめていた.定年後も活動的であり,老後の生活において孤独や不安を感じることはあまりなく,いずれも過去の人生に満足している者が多かった.

 

論文名


一般病院と老人病院の長期入院患者の特性と退院の可能性に関する比較検討

著者名

渡辺美鈴,河野公一,西浦公朗,斉藤昌久

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 32-40, 1996
抄録
大都市近郊の一般病院および老人病院に6か月以上入院している高齢患者の心身状況や,退院のための条件,ならびに最適な退院場所などについて調査を行い,患者の自宅退院の可能性を検討した.対象者数は一般病院で74人,老人病院で164人であった.その結果は以下のとおりであった.
(1) 両病院とも長期の入院患者の約70%は,80歳以上の高年齢の女性であった.
(2) 入院の原因になった主疾患名は,一般病院では脳血管疾患,老人病院では老人性痴呆症が第1位であった.両病院とも脳血管疾患の患者が約40%いた.
(3) 心身状態に関して,老人病院のほうが一般病院と比較して,日常生活動作能力が低く,中等度以上の痴呆の者が多かった.
(4) 両病院とも,70%の患者の病状は固定しており,約50%は社会的入院者であった.
(5) 社会的入院者が自宅退院に必要な条件として,両病院とも第1位は「介護者の確保」であった.さらに,一般病院では「リハビリテーションの指導」「酸素療法」「経管栄養」「導尿」など医療面での支援を掲げていた.
以上の結果から,一般病院の長期入院患者は,在宅療養体制が整備されれば,自宅退院の可能性も増えるが,老人病院では患者の心身状態の低さや家庭内介護力の乏しさから,自宅退院の可能性は低いことが示唆される.

 

論文名


高齢糖尿病患者の食事療法・運動療法の順守度と治療に対する信念および家族支援との関係

著者名

高梨薫,杉澤秀博,手島陸久,矢冨直美,出雲祐二,高橋龍太郎,荒木厚,井上潤一郎,井藤英喜,冷水豊,柴田博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 41-49, 1996
抄録
糖尿病の増悪防止には医師の指示を患者が守る,いわゆる患者の順守度を高めていくことが必要となる.従来の研究では保健信念モデルに基づき順守度に関連する要因を解明したものが多かった.他方,家族支援が高齢者の健康の維持・増進に少なくない寄与をしていることが明らかにされてきているが,順守度に関連する要因を家族支援との関連で分析した研究は少ない.本研究は高齢糖尿病患者を対象とし,治療に対する信念と家族支援の多寡によって食事療法および運動療法の順守度にどの程度の差異がみられるかを検討することを目的とした.分析対象は1992年9月,都内T医療センター内分泌科に通院治療した60歳以上の糖尿病患者383人であった.順守度測定は自己評価に基づいて行った.分析の結果,食事療法順守度に関しては食事療法への信念と家族支援が有意に関連していた.他方,運動療法では運動療法への信念のみが有意に関連していた.本研究では家族支援の食事療法順守度関連要因としての重要性が示唆された.

 

論文名


在宅要介護高齢者に対する家族(在宅)介護の質の評価とその関連要因

著者名

菊地和則,冷水豊,中野いく子,中谷陽明,和気純子,坂田周一,平岡公一,出雲祐二,馬場純子,深谷太郎

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 50-62, 1996
抄録
本研究の目的は,在宅で生活している要介護高齢者に提供されている家族(在宅)介護の質の現況と,それに関係の深い要因を明らかにすることである.分析の対象は都内のI区およびT区において,訪問看護などの在宅保健福祉サービスを受けている要介護高齢者とその主介護者229ケースである.
分析の結果は以下のとおりであった.(1)在宅介護の質は,全体的には肯定的に高く評価された.とくに,身体介護の質は高く評価された.(2)住宅改造などの居住環境にかかわる配慮・改善,高齢者の自立促進をはかるための援助,高齢者の安全・安心感保持,高齢者の心理社会的交流ニーズの充足および痴呆性高齢者の介護の質が,相対的に低いと評価された.(3)介護の質に影響を与えている要因は,定性的要因では高齢者の痴呆症状・行動の有無,主介護者の高齢者に対する続柄など,定量的要因では介護をめぐる家族関係,介護知識,バーンナウトおよび対処スタイルなどであった.

 

論文名


中高年期におけるライフイベントの主観的評価・予測性と心理的適応との関連;家族関係と職業ライフイベントを中心にして

著者名

藺牟田洋美,下仲順子,中里克治,河合千恵子,佐藤眞一,石原治,権藤恭之

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 1 ) : 63-73, 1996
抄録
本研究の目的は,家族関係と職業の2種類のライフイベントについて,個人の主観的評価と予測性と心理的適応との関連を検討することである.対象者は1991年に東京都I区在住の50〜74歳の男女820人であった.心理的適応にはGHQ,主観的健康感,自尊感情,親子関係満足度,夫婦関係満足度,PGCモラール・スケールの6変数を用いた.結果は以下のとおりであった.
(1) 家族関係のライフイベントにおいて,男性では主観的評価が悪いと自尊感情,親子・夫婦関係の満足度が低かった.また,女性では主観的評価が悪いと自尊感情を除いた心理的適応が有意に悪く,さらに予測が可能なときには,親子・夫婦関係の満足度が低いことが見出された.
(2) 職業のライフイベントにおいて,男性では主観的評価が悪いと精神健康,主観的健康観,自尊感情,PGCモラールが悪く,さらに予測が可能なときには,自尊感情,親子・夫婦関係満足度が高いことが見出された.女性では主観的評価が悪いと夫婦関係満足度だけが悪いことが判明した..