「老年社会科学」 Vol.16-2

   

論文名


都市中高年の主観的幸福感と社会関係に関連する要因

著者名

古谷野亘,岡村清子,安藤孝敏,長谷川万希子,浅川達人,横山博子,松田智子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 115-124, 1995
抄録
55歳以上の都市の中高年齢者1,935名のデータを用いて,主観的幸福感と社会関係の関連要因の分析を行った.主観的幸福感の測定は生活満足度尺度Kによって行い,社会関係の指標には親戚・近隣・友人ネットワークと,親戚・近隣・友人からの情緒的サポートを用いた.共分散構造モデルによる解析の結果,主観的幸福感に対する直接効果が認められた変数は,活動能力,最長職威信スコア,同居既婚子と配偶者の有無,友人ネットワークの5つのみであり,活動能力が高い者,最長職の威信スコアが高い者,同居既婚子と配偶者がいる者,そして多くの友人を有する者で生活満足度が高かった.活動能力は社会関係の指標すべてに正の直接効果を有していたが,学歴の影響は続柄によって異なった.関連要因の影響や生活満足度に対する影響が続柄によって異なることから,社会関係の成立機序や機能には続柄による差のあることが示唆された.

 

論文名


高齢化社会に関する事実誤認;「高齢化社会クイズ」第4版による分析

著者名

小田利勝

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 125-135, 1995
抄録
独自に作成した16項目からなる「高齢化社会クイズ」第4版への18〜84歳の男女900人の解答を分析した.項目別の正解率は5.8%から59.4%までであり,50%を越えた項目は3項目にすぎず,16項目の平均正解率は30.8%であった.高齢化社会をめぐる問題に対する人びとの関心は高く,日本の人口は急速に高齢化しており,近い将来,高齢人口がかつてないほど大きな割合を占めるようになって高齢化問題が深刻化する,ということは常識的事柄になっているといってよい.しかしながら,そうした常識の背景にある個々の事実に関しては,非常に多くの人が誤解していることが明らかになった.そして,不正解の場合に特徴的なことは,否定的事柄に関しては事実よりも過大に,肯定的事柄に関しては過小に認識していることである.このような傾向は,人びとが高齢化社会に関してもっているステレオタイプ的認識の特徴を示しているといえよう.

 

論文名


老親子関係に影響する子ども側の要因;親子のタイを分析単位として

著者名

古谷野亘,岡村清子,安藤孝敏,長谷川万希子,浅川達人,児玉好信

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 136-145, 1995
抄録
3つの仮説の検証をとおして,老親と子どもとの関係が子どもの属性により影響されることを明らかにした.仮説の検証には,東京都世田谷区と山形県米沢市の65〜79歳の在宅老人の代表サンプル,合計882人より得たデータを用いた.老親子関係の指標には,老親が感じる一体感,同伴行動,情緒的ならびに手段的サポートの授受を用い,老親と子どももしくは子どもの配偶者との間の個人間のつながり(タイ)を単位とする分析を行った.分析の結果,仮説1「子どもの配偶者に比し子どもは,老親との密接な関係を有している」と仮説2「女性(娘もしくは嫁)は,男性(息子もしくは婿)に比し,老親との密接な関係を有している」は支持され,仮説3「地理的に近くに居住する者では,遠くに居住する者に比し,老親との同伴行動および手段的サポートの授受が多い」は,手段的サポートの授受に関する部分のみが支持された.

 

論文名


地域高齢者の食品摂取パタンの生活機能;「知的能動性」の変化に及ぼす影響

著者名

熊谷修,柴田博,渡辺修一郎,天野秀紀,鈴木隆雄,永井晴美,芳賀博,安村誠司

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 146-155, 1995
抄録
本研究の目的は,地域在宅高齢者の2年間の追跡調査に基づき生活機能の自立性の維持に対する食品摂取パタンの寄与をみることにある.分析の対象は,東京都小金井市在住の65〜84歳の全住民から10%無作為抽出された996人のうち,1991年の初回調査に応じ,かつ2年後に追跡調査できた男女642人である.食品摂取パタンは,15食品群の摂取頻度調査結果に対する因子分析により抽出した.生活機能の自立度は,老研式活動能力指標で測定した.食品摂取パタンと生活機能の自立度の変化との関連性の分析には,多重ロジスティックモデルを用いた.得られた結果は,以下のとおりであった.
サ 食品摂取頻度の因子分析により,「副食の植物性食品の摂取パタン」「動物性食品,油脂類,パンの摂取パタン」「ごはん,みそ汁,漬物の摂取パタン」の3つの食品摂取パタンが抽出された.
シ 2年後の老研式活動能力指標の下位尺度である「知的能動性」の低下に対して「動物性食品,油脂類,パンの摂取パタン」は有意な負の関係を示し,この関係は,性,年齢,調査開始時の知的能動性の得点ならびに最終学歴の影響をコントロールしても認められた.

 

論文名


子どもの性別構成と既婚子同居の関連

著者名

岡村清子,古谷野亘,安藤孝敏,長谷川万希子,浅川達人,児玉好信

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 156-163, 1995
抄録
調査データにより,老親と既婚子との同居に子ども数や子どもの性別構成がどのような影響を与えているのかを検討した.調査は,東京都世田谷区と山形県米沢市に居住する65〜79歳の在宅老人を対象に実施され,882人より回答を得た.既婚子がいる者は世田谷区79.8%,米沢市92.6%であり,既婚子との同居率は世田谷区では31.9% ,米沢市で66.9% と地域差が大きくなっていた.世田谷区では,子ども数が多いほど同居率が高くなっていたが,米沢市では子ども数の影響はなかった.米沢市では,息子がいる場合に同居率が高くなっていたが,世田谷区ではこのような傾向はみられなかった.息子と娘が両方いる場合に,同居する既婚子の性別をみると息子が多く,米沢市では97.7%,世田谷区では79.7%であった.米沢市に比較して世田谷区では娘同居もやや多くみられた.
本研究により,米沢市では息子がいる場合には同居率が高くなり,同居は息子と居住することを意味すること,娘同居は米沢市においては息子がいないことの帰結であるが,世田谷区では選択的な要因もあることがわかった.

 

論文名


特別養護老人ホームの介護職員のストレスに対する;管理者のリーダーシップと施設規模の影響

著者名

宇良千秋,矢冨直美,中谷陽明,巻田ふき

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 164-171, 1995
抄録
本研究では,特別養護老人ホームにおいて,管理者のリーダーシップと施設規模が,介護職員の経験するストレッサーや燃えつき症状に対してどのような影響を及ぼすかについて検討を行った.全国から59の特別養護老人ホームを抽出し,そこで勤務する介護職員1,113人を対象に質問紙調査を行った.分析の結果,介護職員によって認知された管理者のリーダーシップが強力であるほど職員のストレスが低いことが示された.また,利用者定員100人以上の大規模施設において介護職員のストレスが最も高かった.さらに,介護職員のストレスに対して施設規模とリーダーシップの交互作用効果がみられ,大規模施設において,管理者のリーダーシップが職員のストレスを低減する効果が最も小さいことが示唆された.得られた結果から,特別養護老人ホームにおける適切な施設規模と管理者のリーダーシップの重要性について考察を行った.

 

論文名


地域老人における転居と転居後の適応

著者名

安藤孝敏,古谷野亘,矢冨直美,渡辺修一郎,熊谷修

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 2 ) : 172-178, 1995
抄録
本研究の目的は,地域老人の転居が転居後の適応に及ぼす影響を転居の意思決定ならびに転居理由との関連のもとに検討することであった.東京都豊島区に居住する65歳以上の老人15,000人の区内居住歴を検討し,転入後1年未満の在宅老人95人と転入後10〜14年を経た同数の対照群を設定して,訪問面接調査を実施した.転居後の適応は抑うつ尺度(GDS),生活満足度尺度K,ならびにUCLA孤独感尺度により測定された.
自発群と非自発群の間では転居後の適応に差が認められたが,これは両群間にある生活機能や社会経済的地位の差によってもたらされたものとも考えられた.
本研究の結果は,転居後の適応状態には転居の意思決定のみならず,転居をもたらした背景要因も重要であることを示唆するものであった.