「老年社会科学」 Vol.16-1

   

論文名


社会関係の研究における分析単位の問題;ケース単位の分析とタイ単位の分析

著者名

古谷野亘,岡村清子,安藤孝敏,長谷川万希子,浅川達人,松田智子,横山博子,児玉好信

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 11-18, 1994
抄録
調査データに依拠して,社会関係の研究における分析単位のとり方について検討した.調査は,東京都世田谷区と山形県米沢市に居住する65〜79歳の在宅老人を対象に実施され,882人より回答を得た.社会関係については,同居家族,別居子,別居子の配偶者の全員,兄弟・親戚,近隣,友人(各5人まで)のそれぞれについて,情緒的ならびに手段的サポートの授受,同伴行動,一体感,介護的サポートの可能性を尋ねた.これらの関係を有する者の頻度は,老人個人を単位にしたときと,老人と他者との間のタイを単位にしたときで大きく異なった.老人個人を単位とする際には,複数の他者との関係を,相互の違いを無視してまとめあげるという手続きを経るために,社会関係が実際よりも密接なものと評価される傾向にあった.本研究の結果,老人の社会関係についての精密な分析を行うためには,タイを単位とすべきことが示された.

 

論文名


日本版General Health Questionnaireの因子構造;28項目版を用いて

著者名

成田健一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 19-28, 1994
抄録
本研究の目的は,精神的健康に関する尺度である精神健康調査票(GHQ)28項目版の因子的妥当性を確認することである.50〜74歳までの地域住民,総計3,082人を対象として,GHQ28項目版を施行し,その因子構造を確認的因子分析により検討した.その結果,わが国においてもGHQ28項目版の因子構造は性や年齢群の影響を受けず一貫しており,構造は従来得られてきた4因子構造と同じであることが示された.同時に下位尺度も含めて,内的一貫性が高い尺度であり,GHQ28項目版はわが国の中高年者を対象としても十分に使用可能な尺度であることが示された.すなわち,GHQ28項目版の因子的妥当性,外部妥当性および信頼性を確認した.

 

論文名


日本老人における老人用うつスケール(GDS)短縮版の因子構造と項目特性の検討

著者名

矢冨直美

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 29-36, 1994
抄録
本研究では,日本の老人サンプルにおける老人用うつスケール(GDS)短縮版の因子構造を検討し,各項目の特性を分析した.分析の対象者は,東京都内に在住し,GDSに対する回答が有効であった65歳以上の1,010人からなる.探索的な分析として主成分分析を行った結果,うつ気分,ポジティブ感情の低下,エネルギー減退を表すと考えられる3つの因子が抽出された.確証的因子分析を用いて単一因子モデルと多因子モデルの検討を行った結果では,両モデルともに支持される結果が得られたが,多因子モデルのほうがより適合性が高いモデルであることが示された.また,内部一貫性係数は十分な大きさを示し,GDS短縮版が1つの尺度とみなしうることが示唆された.2パラメータロジスティックモデルを用いた項目特性の検討では,識別力の小さい項目が3項目あることが明らかとなった.また,エネルギー減退を表す項目は軽いうつ症状をはかるのに適しており,うつ気分を表す項目は中程度からやや重い程度のうつ症状を,またポジティブ感情の低下を表す項目は重いうつ症状をはかるのに適していることが示唆された.

 

論文名


高齢者の健康度自己評価の変化に関連する要因;3年間の追跡調査から

著者名

杉澤秀博,JerseyLiang

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 37-45, 1994
抄録
本研究では,3年間の追跡調査に基づいて,高齢者の健康度自己評価の変化に関連する要因を解明した.分析対象者は,60歳以上の高齢者を対象に実施した全国調査の調査完了者2,200人(1987年11月実施)のうち,1990年に実施した追跡調査に応じた1,671人である.要因として分析に投入した項目は,性,年齢,学歴,初回調査における慢性疾患の有無,日常生活動作能力,主観的幸福感,社会活動性および保健行動であった.
1.追跡期間における健康度自己評価の変化は有意ではなかった.初期調査および追跡調査のいずれも,健康度自己評価が同じであったのは57.2%であった.
2.健康度自己評価の変化と有意に関連していた要因は,初回調査における慢性疾患の有無,日常生活動作能力,主観的幸福感,睡眠時間であった.社会活動性に関する項目については,健康度自己評価の変化との間に有意な関連はみられなかった.

 

論文名


在宅老人における孤独感の関連要因

著者名

長谷川万希子,岡村清子,安藤孝敏,児玉好信,古谷野亘

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 46-51, 1994
抄録
全国の65歳以上の在宅老人の代表サンプル(沖縄県を除く)を用いて,UCLA孤独感尺度短縮版により孤独感の測定を行った.孤独感は男性,1年間に寝込んだ経験がある者,老研式活動能力指標の得点が低い者,頻繁に交流のある別居子,近隣,友人・知人の少ない者で強かった.年齢,居住地の都市規模,居住年数,学歴,年収,入・通院経験,同居家族の有無,交流のある兄弟・親戚の数は,孤独感に影響していなかった.

 

論文名


在宅老人のライフスタイルと生活の質に関する研究

著者名

芳賀博,柴田博,鈴木隆雄,永井晴美,熊谷修,渡辺修一郎,天野秀紀,安村誠司,崎原盛造

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 52-58, 1994
抄録
在宅老人の健康的なライフスタイルがQOLとどの程度関連するかの検討を行った.初回の調査は1992年に行われ,ADLが自立している男女733名を分析の対象とした.ライフスタイルの指標には7項目の健康的な生活習慣が用いられた.QOLは,老研式活動能力,ソーシャルサポート,抑うつ尺度(GDS),生活満足度(LSIK),健康度自己評価により把握された.老研式活動能力の測定は,1年後の追跡調査でも実施された.その結果は,以下のとおりであった.
(1)ライフスタイル得点は,男性より女性に有意に高かった.特に睡眠,間食,タバコの3項目では女性に健康的な生活習慣を有する者が多かった.
(2)初回調査データにおける偏相関係数(年齢,学歴,配偶者の有無をコントロール)では,ライフスタイルは老研式活動能力と正(男女),GDSと負(女性),LSIKと正(女性)の有意な関連を示した.
(3)初回調査のライフスタイルと1年後の老研式活動能力との間には,初回時の活動能力の影響を補正しても女性の手段的自立,知的能動性では依然として有意な関連が示された.

 

論文名


地域老人における転居の影響に関する研究の動向;転居後の健康と心理社会的適応を中心に

著者名

安藤孝敏

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 16 ( 1 ) : 59-65, 1994
抄録
本稿は地域老人における転居の影響に関する論文をレヴューし,これまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の枠組みについて検討した.
転居が老人の健康や心理社会的適応に否定的な影響を及ぼすかどうかという単純な仮説から,否定的もしくは肯定的影響がどのような条件により生ずるのか,どのような特徴を有する者でみられるのかという方向へと,研究の焦点は変化してきた.
今後は転居の影響を調節する変数に関して詳細に検討する研究が必要である.