「老年社会科学」 Vol.15-1

   

論文名


立地条件の違いによる高齢者の外出行動に関する研究;有料老人ホーム居住者を事例として

著者名

竹嶋祥夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 15 ( 1 ) : 15-29, 1993
抄録
高齢者の居住地を考える場合,「都市」と「田園」という大きく2方向の選択性が考えられる.本研究は「都市」と「田園」に居住する高齢者を対象に,過去1か年における外出行動を中心に面接による聞きとり調査を行うことによって,@居住する地域によって外出行動にどのような差異がみられるかを明らかにするとともに,A生活条件等で恵まれた状況にある有料老人ホーム(以下,ホーム)居住者を対象とすることによって,両地域居住者の行動を標準的行動パターンとして把握しようとするものである.主たる結果は以下のとおりである.
(1) 1日の外出行動をみると,外出時間や頻度は低く,1日の大半をホーム内で過ごしている.
(2) 年間を通じての外出行動としてはいろいろな種類を経験している.またそれら諸活動はホームの立地により影響を受けている.外出行動の圏域は広いが,行動頻度が高くなるほどその圏域は狭くなる傾向がみられる.この現象は,とくに田園型に顕著である.また,田園型の場合,遠距離による行動の阻害・抑制が生じている例もみられ,ホーム周辺施設の魅力が低い場合,ADL が低下するにつれて非外出傾向が促進されることが懸念される.
(3) 以上のことを考えると,「都市居住者」は「田園居住者」に比較して活動面では有利であると考えられる.

 

論文名


老親子関係の分析単位を個人にすることの方法論的有効性
著者名

松田智子,岡村清子,横山博子,安藤孝敏,古谷野亘

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,  15 ( 1 ) : 30-35, 1993
抄録
本研究は,「実父と子の配偶者とでは老親との関係が異なる」という仮説の検証をとおして,老親との関係の分析単位を「子どもとその配偶者」から「個人」に改める必要性を検証すものである.分析のためのデータは,都内の公団賃貸住宅団地に居住する単身もしくは夫婦世帯の65歳以上の女性老人164人から得た.老親との関係は「おしゃべりや食事」「健康や医療の話」「お使い」「掃除・洗濯・食事」の4項目を用いた.これらの関係の有無を従属変数とするロジスティック回帰分析の結果,変数「実子」は,いずれの関係に対しても有意な影響を有し,したがって仮説は支持された.本研究の結果は,老親との関係において,子どもとその配偶者は別個にとらえられる必要があることを示すものであった.
                

論文名


高齢者の資産処理に対する態度

著者名

小田利勝

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 15 ( 1 ) : 36-46, 1993
抄録
資産処理に対する態度を「遺贈志向」と「消費活用志向」の2つのカテゴリーに分類して,両者の違いを規定している要因を判別分析によって検討し,73%の判別率を得た.金融資産の規模が大きいほど,資産形成率が大きいほど,学歴が高いほど,最長の従業上の地位が官公庁雇用者であること,有職ではないこと,個人所得の規模が小さいほど,核家族世帯であること,などが消費活用志向に促進的に作用し,態度・行動変数では,同居志向の度合いが弱いほど,また,高齢者向け居住地選好の度合いが強いほど消費活用志向に促進的に作用していることが明らかになった.資産処理に対する態度の違いをとりわけ強く規定している要因は,金融資産と資産形成率,同居志向であるが,資産形成率は,高齢者向け居住地選好と同様に,資産相続や資産活用に関するこれまでの研究では言及されたことがなかった要因であり,あらたな事実の発見であると考える.

 

論文名


特別養護老人ホーム入所者への家族による援助に関する研究;東京都立の2施設を調査対象として

著者名

杉澤秀博,横山博子,高橋正人

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 15 ( 1 ) : 47-57, 1993
抄録
公立の特別養護老人ホーム2施設の入所者の家族を対象に実施した調査に基づき,老人ホーム入所者に対する家族による援助の多寡に関連する要因を解析した.調査対象の2施設は同一の経営主体によって運営されており,東京都内に位置している.調査対象とした家族は340人であり,271人から回答を得た.分析対象者は欠損値を多く含む例を除く241人である.家族による援助の多寡は,施設への訪問頻度と情緒面への援助の2側面から評価した.
(1) 施設への訪問頻度については,入所期間,入所者の意思疎通能力,続柄,入所前の入所者と家族との人間関係の良否,さらに,施設までの所要時間,施設処遇に対する家族の評価によって違いがみられた.
(2) 情緒面への援助については,入所者の意思疎通能力および入所前の入所者と家族との人間関係の良否によって差異がみられた.

 

論文名


高齢者における保健行動の居住形態による差異

著者名

杉澤秀博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 15 ( 1 ) : 58-67, 1993
抄録
本研究では,居住形態と高齢者の保健行動との関連を分析することを目的とした.保健行動は飲酒,喫煙,運動,朝食の摂取,睡眠時間の各側面から測定した.居住形態は配偶者との同居および子どもとの同居の有無を組み合わせ,「独居」「無配偶・同居子あり」「有配偶・同居子なし」「有配偶・同居子あり」の4群に分類した.分析の結果,以下のような知見が得られた.
(1) 居住形態によって飲酒量,朝食の摂取頻度,睡眠時間に有意な差がみられ,居住形態のなかでも,独居群において他の群よりも飲酒量が多く,朝食の摂取頻度については少なかった.また,無配偶・同居子あり群では他の群と比較して,7〜8時間の睡眠時間をとっている者が少なかった.10%の危険率ではあるが,喫煙本数についても居住形態による差がみられ,独居群では他の群よりも喫煙本数が多い傾向がみられた.飲酒量については,居住形態と性,年齢階級との間に有意な三元配置の交互作用もみられ,独居,男性,60〜69歳という3つの要因を合わせもつ者ではとくに,その他の層に属する者よりも飲酒量が多かった.
(2) 飲酒量,喫煙本数および朝食の摂取頻度のいずれに関しても,有配偶・同居子あり群と無配偶・同居子あり群との間には大きな差異はみられず,子どもとの同居は,配偶者との同居と同様の効果を保健行動にもたらしていることが示唆された.
(3) 独居群では,喫煙本数および朝食の摂取頻度の変動が,近隣・友人・親戚との接触頻度によって有意に説明され,他方,他の居住形態では,このような関連はみられなかった.すなわち,独居群では,他者との接触が,同居者の存在の代替として保健行動面での問題の解消に有効であることが示唆された.

 

論文名


都市部における中高年対象訪問面接調査の回収率
著者名

古谷野亘,安藤孝敏,富家恵海子,中村英朗

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 15 ( 1 ) :68-73, 1993
抄録
近年,都市部において調査の実施環境が悪化し,訪問面接調査の回収率が著しく低下したといわれている.今般,東京都全域を調査地域として,きわめて厳密な手続きにより,中高年者を対象とする訪問面接調査を実施する機会を得たので,その際の調査手続きと回収率を紹介して参考に供する.
調査対象者は,層化2段無作為抽出によって抽出された55歳以上の男女3,000名であった.回収率は75.2%で,年齢が若いほど低かった.回収標本のうち10.8%が代理回収であって,代理回答の割合は年齢とともに増加した.しかし男性では,高齢群のほか低年齢群でも代理回答が多く,代理回答の割合は年齢に沿ってU字型の分布を示した.